暗部の一夏君   作:猫林13世

161 / 594
紅椿が無い分一夏が頑張ります


作戦内容

 作戦開始の合図があるまで、一夏たちはテスト稼働を行うはずだった岩場で待機していた。

 

「ねぇ一夏。本当にあんな事が出来るの?」

 

「出来るかどうかは俺たち次第だろ。理論上は確かに出来るんだから」

 

「でもさー、いっちー……闇鴉でマドマドとカルカルを同時に運ぶなんて大丈夫なの?」

 

 

 今回の作戦は暴走した――暴走させられた銀の福音の停止と操縦者の保護だ。アメリカからの報告では無人機とされているが、操縦者のナターシャ・ファイルスは織斑姉妹や碧と旧知の仲で、テストパイロットに決まったと知らされていたのでほぼ間違いなく福音に搭乗しているはずなのだ。人道的に考えても個人的感情で考えても、ナターシャに落ち度が無い以上助けるべきだと一夏が進言し、千冬たちもそれに賛同した。

 だがその為には高速飛行を続ける福音を止めなければならないのだが、福音に対抗出来るスピードを出せるのが闇鴉のみで、他の機体では福音に対抗するには少し厳しいのだ。そして闇鴉では的確に福音を止める事が出来ないので、白式とスサノオの零落白夜で福音のSEを完全にゼロにして撃墜、先行してその下で待っている他のメンバーが回収すると言うのが今回の作戦だった。

 

「セッシーたちはもう準備してるんだろうな~」

 

「本音ちゃん、そろそろ私たちも行くよ」

 

「でも一夏、本当に密漁船の事を心配する必要はあるの? ちゃんと海域封鎖してあるんだし……」

 

「封鎖してあるからこそ、密漁者は入ってくるんだろう。人員がもう少しいれば穴もないだろうが、何分急だったからな。忍び込むとしたらこの位置しかないだろうから、何もなければそれでいい」

 

 

 ここ最近の海域の情報を調べ上げた一夏が、密漁者がいる事を考慮した作戦を提案した時、千冬たちは気にする必要はないと突っぱねようとしたが、犯罪者であろうがなんであろうが人の命を大切にする一夏の瞳に負け、密漁者に備える為に人員を割く事を許可したのだった。

 

「それじゃあマドマド、カルカルも頑張ってね」

 

「今回の作戦は一夏と二人に掛かってるんだから」

 

「あんまりプレッシャーかけないでよ……ただでさえこんな大舞台に立つの初めてなんだから……」

 

 

 緊張しているのがハッキリと伝わってくるエイミィの態度に、一夏が苦笑いを浮かべながら彼女の目の前で手を打った。

 

「緊張するなとは言わないが、そんなにがちがちだと実力の半分も発揮出来ないぞ。大丈夫、エイミィは確かな実力を持ってるんだから、後はそれを発揮できるように心を落ち着かせるんだ。スサノオの動きも、十分理解してるだろ?」

 

「う、うん……Gも体験したし、VTSで何度もシミュレーションしたし……」

 

「でも兄さま、あの短時間でよく銀の福音のデータをVTSに打ち込めましたね」

 

「データ化は束さんがある程度してたみたいだし、俺はそれをVTS用に改良しただけだ。更識傘下の旅館で本当に良かったよ」

 

 

 一夏は作戦会議のすぐ後に更識本家からVTSのメインシステムをデータ化して送ってもらい、訓練で使うはずだった簡易VTSに更識のIDで改良を施してマドカとエイミィに動きを叩きこんだ。そのおかげでマドカもエイミィも短時間でかなり成長したのだった。

 

「でも一夏君、失敗したらどうしよう……」

 

「最悪の事態を想定するのは悪い事じゃないが、さすがに今は止めておけ。マドカも泣きそうな顔をするな。援護は俺がするから、二人は攻撃を当てる事だけに集中しろ」

 

 

 いくら操縦の腕が上がっても、メンタル面の成長はこの短時間では不可能、精神的支柱の意味合いも一夏が二人を運ぶ理由にもあった。そもそもスサノオで白式を運べば事足りるのに一夏が二機同時に運ぶ事になったのはその理由が最たるものだ。

 

『更識、織斑、カルラ、聞こえるな』

 

「聞こえます、千冬先生」

 

「は、はいっ! 聞こえます」

 

『落ち着け、とは言わないが緊張し過ぎだ。目標がそろそろ上空を通過するとの事だ。これより作戦を開始する。更識は織斑とカルラを乗せ所定の位置に向かうように』

 

「了解しました……ところで、何故篠ノ之の気配がそちらに? 部屋で座禅を組んでるはずでは?」

 

 

 この位置から作戦司令室は、一夏の気配探知の範囲内で、一夏はその事が気になっていた。

 

『それはねー、束さんがちーちゃんとなっちゃんのフォローに入ったからだよ、いっくん!』

 

『ちゃんと目隠しして耳を塞ぎ、柱にくくりつけているから安心しろ』

 

「……別の意味で心配ですが、そう言う事ですか。それで束さん、今回の作戦の成功率はどれくらいだと思いますか?」

 

『いっくんがいるから100%! って言いたいけど、七割くらいかな~。密漁船がなければもう少し確率は上がるかもだけど、いっくんが懸念したように密漁者が来る確率は高いよね~』

 

「……そうですか。束さんの七割はかなり高いですし、エイミィもマドカもそんな顔するな。そもそも絶対に成功する作戦なんてありはしないんだから」

 

 

 再び泣きそうな顔になったマドカとエイミィを宥め、一夏はオープン・チャネルを切り目標の位置まで移動する為に闇鴉を展開した。

 

「さてと、一応VTSで体感したと思うが、実際のGはキツイぞ。しっかりと意識を保つ事に集中しろ。作戦の事は到着してから考えるんだな」

 

 

 闇鴉を展開し、その上に白式を展開したマドカ、スサノオを展開したエイミィを乗せ、一夏は飛び立った。

 

『一夏さん、重いです』

 

「悪いが我慢してくれ。後でいくらでも頭撫でてやるから」

 

『それだけでは満足できません。膝枕も要求します』

 

「……刀奈さんに感化されてないか? まぁいいぞ」

 

『では、最大出力で所定の位置を目指します』

 

 

 闇鴉の気合いも入ったところで、一夏は更に加速し目標位置まで一気に向かったのだった。




闇鴉が毒されてる……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。