暗部の一夏君   作:猫林13世

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普通は疑いたくなる……


紫陽花の疑問

 真耶が持ってきた書類に目を通した千冬は、それをそのまま千夏に手渡して真耶と細かな事を取りきめていた。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。基礎体力運動も中止だ。以後連絡があるまで各自室内待機する事。以上だ!」

 

「ちゅ、中止? 特殊任務行動って……」

 

「状況が全然わからないんだけど……」

 

 

 不測の事態に女子たちはざわざわと騒がしくなる。しかしそれを千冬の声が一喝する。

 

「とっとと戻れ! 以後、許可なく室外に出た者は我々で身柄を拘束する! いいな!!」

 

「「「はっ、はいっ!」」」

 

 

 基礎訓練をしていた女子たちが慌てて旅館に走りだす。さすがに織斑姉妹に拘束されるとどうなるか理解してるだけの事はある、と一夏は感心してその動きを見ていた。

 

「専用機持ちは全員集合しろ! オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰! それから更識所属の面々もだ! 篠ノ之は大人しく部屋で座禅を組んでろ。見張りは束に任せる」

 

「ほいほ~い! それじゃあ箒ちゃん、大人しく部屋まで行こうね~」

 

 

 束に抱きあげられて、箒は部屋まで連れさられていく。何か言いたそうな箒だったが、彼女の事を気に止める者は誰もいなかった。

 

「一夏、小鳥遊を連れて来い。その間に詳しい事をこいつらに説明しておく」

 

「分かりました」

 

 

 先に色々と聞かされている一夏は、碧の許まで走って行った。最悪な事態を想定して色々と準備していた為に、一夏の動きは普段と変わらず俊敏だった。

 

「さて、残りのメンバーはわたしたちと作戦司令室へと向かう。更識所属の諸君らは一夏からある程度は聞かされていると思うが、細部までは聞いていないだろうからな」

 

「起こらなければいいと願っていたが、どうやらそうはいかなかったようだ」

 

 

 織斑姉妹の言葉に、更識所属の面々は一夏が心配していた事を思い出し憂鬱な気分になっていた。これから行う事がどれだけ大変なのか、既に想像がついてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紫陽花と基礎訓練の監督をしていた碧は、少し離れたところで千冬の怒号を聞いていた。

 

「どうやら恐れてた事が起こったようね」

 

「小鳥遊先輩、私たちが前線に出なくても大丈夫なのでしょうか?」

 

「平気よ。簪ちゃんや美紀ちゃんだっているし、一夏さんも指揮を執ってくれるでしょうし」

 

 

 更識のメンバーで最も信頼のおける一夏がいるのだから、碧は何の心配もしていなかった。

 

「碧さん、千冬先生がお呼びです」

 

「分かったわ。紫陽花は?」

 

「山田先生とモニター操作をお願いすると」

 

「分かりました。ところで、更識君は説明を受けなくて良かったの?」

 

 

 作戦司令室で行われている説明の内容をある程度知っている紫陽花は、何故一夏だけ説明を受けていないのかが気になり、それを尋ねた。

 

「ある程度は前知識がありますし、その場で解析すれば良い事ですし」

 

「一夏さん、それは普通出来ませんよ」

 

「まぁ、闇鴉のセンサーを使えば大抵のISは解析できますから」

 

 

 絶句して言葉も出ない紫陽花に、フォローにならない言い訳をして、一夏は空を見上げた。

 

「先生たちの大半は海域封鎖にあてられるでしょうし、本当に専用機持ちだけでやるんですね」

 

「一夏さんが指揮を執るんじゃないんですか?」

 

「俺が? どうなんでしょうね。セシリアでも良い気もしますが、言われればやりますよ」

 

 

 非常事態だというのに、普段と変わらない口調で話す一夏に、紫陽花は首を傾げる。

 

「(この子、何でこんなに落ち着いてるのかしら? 小鳥遊先輩の関係者だって事は、更識の家の人間……まぁ、それは苗字でも分かるんだけど。それにしても落ち着き過ぎている気が……本当に十五歳なの?)」

 

「さて、それじゃあ俺たちも作戦司令室に……いや、不審なISの反応が複数ありますね……追跡は不可能か。碧さん、織斑姉妹には伝えておきますので、周囲の警戒とこの前みたいに篠ノ之が脱け出して余計な事をしないように監視してください。五月七日先生は俺と一緒に作戦司令室へ」

 

「分かりました。紫陽花、素直に一夏さんに従って」

 

「は、はい!」

 

 

 自分が一夏の能力に疑問を抱いている事を見透かされ、紫陽花はひっくり返りそうな声で返事をした。

 

「急ぎますよ、五月七日先生。思ってた程余裕はなさそうです」

 

「えっ?」

 

 

 一夏がどの程度を想定していたか、など紫陽花には分からない。だが一夏の表情はかなり厳しいものに代わっており、さっきまでの余裕は感じられない。つまりそれくらい大変な事態なのだろうと、紫陽花は改めて理解させられた。

 

「って、更識君早い……」

 

 

 普段更識所属で一番弱いと言っている一夏だが、身体能力はそれなりに高く、並みの候補生なら完封するくらいの実力はあるのだ。その事を知ってはいた紫陽花だが、実際に見た事が無かったので一夏の実力を図り損ねていたのだ。

 一夏から遅れる事数分、紫陽花は作戦司令室へと到着した。

 

「遅かったな、五月七日」

 

「更識はとっくに到着してたんだが」

 

「……現役を引退してからも運動は欠かさなかったつもりだったんですが、更識君の早さについていけませんでした……」

 

「まぁ一夏だしな。さて、お前も息を整えたら真耶と一緒にモニター操作を頼む。後数十分後に作戦開始だ」

 

「わ、分かりました!」

 

 

 千冬の言葉に背筋を伸ばし返事をして、呼吸を整える為に軽く深呼吸をしてから真耶の隣に腰を下ろした。モニターには銀の福音の飛行ルートの予想や、海域封鎖完了の情報などか表示されており、近くの岩場には専用機持ちの反応も映っていたのだった。




性別の差もありますが、更識所属は伊達じゃない

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