暗部の一夏君   作:猫林13世

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別に残されてるわけじゃないんですがね……


残された二人

 一夏が真面目な話をしていること、IS学園の生徒会室では仕事が終わらず悲鳴を上げている少女がいた。

 

「何で一夏君がいない時にこんなに仕事が来るのよ! 殆ど一夏君が処理するはずの案件じゃない!」

 

「一夏さんだけではなく更識所属全員に関係する事ですので、お嬢様が処理しても問題はありません」

 

「でも! 『スサノオの情報開示』要求は私たちって言うより一夏君とエイミィちゃんに関係する事でしょ! 何で私がこんな目に……」

 

「普段私や一夏さんに仕事を丸投げしてるんですから、今回は精一杯働いてください」

 

 

 スサノオが完成したのが土曜日で、一夏は今日から二泊三日で臨海学校に出掛けている為、各国からの要請を見る事無く学園を離れている。もし少しでも見ていれば学園に残ったかもしれないが、可能性の話は何の救いにもならない。

 

「残った我々で片付け無いと、他の仕事も山積みになっちゃいますよ」

 

「帰ってきたら一夏君に思いっ切り甘えてやる! 一夏君が作ってくれたケーキをホール食いしてやる!」

 

「太りますよ?」

 

「大丈夫! 必要分以外の栄養は全部胸に行くから」

 

「……それは私に対する当てつけですか?」

 

 

 虚は自分の胸部を抑えながら刀奈に詰め寄る。刀奈は若干冷や汗を流しながら懸命に言い訳を始めた。

 

「別に虚ちゃんだって小さくないじゃないの。簪ちゃんや虚ちゃんが気にし過ぎなだけよ」

 

「お嬢様や本音という、成長著しい相手が身内にいると、それだけでも気にしてしまうんですよ」

 

「でもほら! 男の子が全員大きい方が好きじゃないし、一夏君も特に気にしてないでしょ?」

 

「一夏さんはあまりそういう事を口にしませんから。私たちに甘えてくれる時でも、特に気にしてませんし」

 

 

 最近では減ってきているが、トラウマ発動の際には一夏は刀奈だろうが虚だろうがとりあえず身内なら落ち着けるので、胸の大小はさほど気にしてないように思えているのだ。

 

「この前水着を選んだ時も、私や本音の時と同じように、簪ちゃんや虚ちゃんの時だって照れてたじゃない? もちろん、美紀ちゃんや碧さんの時もだけど」

 

「マドカさんは血縁と言うだけあって冷静でしたし、凰さんはご友人と言う事で特に反応は無かったですけどね」

 

 

 セシリア、シャルロット、ラウラの水着を選ぶ時も、一夏は鈴の時以上に事務的な対応をしていた。

 

「つまり、私たちの事をちゃんと意識してくれてるって事よ」

 

「お嬢様、話を逸らして仕事をサボろうとしないでください」

 

「うへぇ、バレてるし……」

 

 

 上手く話を逸らしたつもりだった刀奈だったが、虚にはその事すらお見通しだった。結局全ての仕事が終わり部屋に戻れたのは、日付が変わるギリギリの時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 臨海学校二日目、今日はIS学園らしく基礎体力をつける訓練と、各種装備試験運用とデータ取りにあてられている。基礎体力をつける訓練は一般の学生で、試験運用とデータ取りは専用機持ちが担当する。

 

「千冬先生、何故箒さんがここにいるのですか?」

 

「確かに、箒は専用機持ちじゃないですよね?」

 

 

 セシリアと鈴が質問したが、一夏以外の残りのメンバーも箒がここにいる事が気になっていた。

 

「こいつは臨海学校の間我々の監視下にあり、私と千夏がこちらを担当してる以上、コイツもここにいる事は当然だ」

 

「そしてコイツは、体力だけは有り余っているので訓練に参加させる必要もない。よって一日中ここで座禅を組ませ精神鍛錬をしてもらう事になっているのだ」

 

「岩場で座禅……」

 

 

 美紀が零した言葉に、簪と一夏が苦笑いを浮かべた。じつに織斑姉妹らしい罰であるのだが、その意味を理解出来るものは専用機持ちの中でも多くなかった。

 

「少しでも身動ぎをしたら打ってやるから感謝しろ」

 

「わたしと千冬、一回ごとに交代で打ってやるからな」

 

「じゃあじゃあ、私もお手伝いしちゃおっかな~」

 

 

 突如現れたうさ耳の女性に、織斑姉妹(マドカは含まず)と一夏以外の面々は驚き距離を取った。

 

「気配はしてたが本当に現れるとは」

 

「貴様が現れるとろくな事にならんからな」

 

「えー! 酷いよちーちゃん、なっちゃん! あっ、いっくんとまーちゃん久しぶり~! 元気だった~?」

 

「……何の用ですか、束さん」

 

 

 一夏が女性の名前を呼んだ事で、セシリアがその相手に興味を持った。

 

「束……もしかして、篠ノ之束博士ですの!? 私、イギリス代表候補生のセシリア……」

 

「あっ? 誰だお前。何で束さんに話しかけてるの? 興味ないから話しかけんな、雌豚」

 

「相変わらず口が悪いヤツだな……オルコット、この兎は他人を認識できない病気だからあまり気にするな」

 

 

 珍しく千冬がフォローに回った事に、一夏は少し驚いていた。確かに束は他人を認識できないが、それは病気ではなく単純に興味が無いからである。だがその事を素直に伝えると追い打ちになると判断したのだろうと、一夏はそう解釈した。

 

「それで、本当に何の用だ?」

 

「面白そうな事をしてたからついつい……あっ、待って! ちゃんと用件を言うから殴らないで!」

 

 

 千冬と千夏から不穏な空気を感じ取り、束は大人しく織斑姉妹(マドカは含まない)と一夏を別の場所へ誘い出した。

 

「例の件、何だかキナ臭いよ。介入しようにもブロックが堅くて……」

 

「束でもハッキング出来ないとなると、いよいよ事が起きてからしか動けないな」

 

「一応真耶に世界情勢を監視させているので、何か起こればすぐに分かる――」

 

「た、大変です! 千冬先生! 千夏先生!」

 

 

 駆け寄って来た真耶に全員が視線を向けると、丁度バランスを崩して転んでいるところだった。

 

「「「………」」」

 

「あははー! なにあの面白そうな巨乳メガネ!」

 

 

 束の笑い声に顔を真っ赤にしながらも、真耶は千冬たちに指令書を手渡したのだった。




この二人にも「一夏分」が必要になりそうだな……

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