部屋に戻った一夏は、先ほど聞かされた他の部屋の人数とこの部屋の人数の違いの事が気になっていた。
「一部屋九人って聞いたけど、ここは五人だよな?」
「一夏、私、美紀、本音、マドカの五人だね」
簪が部屋にいる人間を数えたところに、来客が訪れた。
「やっほー! なんか部屋の都合でこの部屋で寝る事になっちゃった」
「おー、カルカルだ~」
「これでも六人ですね……他の部屋より三人少ないです」
少ない方が部屋を広く使えて良いのだろうが、何となく他の人に悪いと思ってしまうのだろう。美紀や簪、一夏は若干申し訳ない気分になっていた。
「では」
「私たちで」
「丁度ですね、一夏様」
「……白式もスサノオも、闇鴉に感化されてるのか?」
突如人の姿になり、まるで打ち合わせでもしてたのではと疑いたくなる程のコンビネーションで残り三枠に入って来た専用機たちに、一夏は呆れた視線を向ける。
「折角人数がいるんですから、何かして遊びましょう」
「トランプあるよ~」
本音がバッグから取り出したトランプに、スサノオと白式が喰いつく。人の姿になれるようになったは良いが、あまり娯楽と言うものに縁が無かったからだろう。その点は闇鴉も同じだが、彼女は他の二機と違い冷静に見えた。
「闇鴉も遊びたいなら構わないぞ。こんな時間から訓練も無いだろうし」
「そうですか? では――」
一夏の許しを貰った闇鴉も、前の二機同様トランプに喰いつく。性格の違う三機が同じようにはしゃぐ姿を、一夏は父親のような気分で眺めていた。
「いっちーとかんちゃんはやらないの?」
「俺は少し出てくる。気になる事もあるしな」
「私はポータブルゲームがあるから」
簪がバッグから取り出した物を見て、一夏は苦笑いを浮かべる。ゲーマーの簪がこれくらい忍ばせていてもおかしくない、と言う事を失念していた自分に苦笑いを浮かべたのだが、簪は自分が呆れられたのだと勘違いして一夏に抗議した。
「べ、別に問題は無いはずだよね? 一夏のクラスメイトだってボードゲームとか持って来てるって言ってたし」
「ん? 何を慌ててるんだ? 別に悪いとは言って無いんだが」
「だって、苦笑いを浮かべてたから……」
「あぁ、それは簪が持って来てるという事を失念してた自分自身にだ。別に簪がどうこうというわけじゃないよ」
泣きそうになった簪の頭を軽く撫で、一夏は部屋から出ていった。簪を除く残されたメンバーは、少し羨ましそうに簪の頭を眺めていたが、すぐにトランプゲームに夢中になり羨ましいと思っていた気持ちは消え去ったのだった。
教員たちに割り振られたフロアにやって来た一夏は、碧が使っている部屋を訪れていた。
「あっ、更識君。お茶でも淹れますね」
「お気になさらずに。それに、山田先生や五月七日先生にも関係するかもしれない話ですから」
碧と同部屋である真耶と紫陽花を落ち着かせてから、一夏は一つ息を吐いて訪問の理由を伝えた。
「先ほど織斑姉妹から追加の情報を聞かされましたが、碧さんはもちろん聞いていますよね?」
疑問の形をとっているが、一夏は碧がその事を知っていると確信している。織斑姉妹と並び、現在でも世界最強の呼び声高い碧に情報を与えないほど、あの二人もバカじゃないと思っているからだ。
「ええ、聞いているわ。でも、私たちはあくまでもバックアップだと織斑姉妹に言われてるけど」
「それは俺も聞いています。いざという時は俺たち専用機持ちに任せると」
「それで? 一夏君が聞きたいのはその事では無いですよね」
「碧さんならもう少し詳細なデータを持ってるのではと思ってきたのですよ。束さんは知ってても教えない可能性がありますし、自分で調べようにもPCがありませんので」
普段使ってるPCは、学園の寮においてきているし、携帯ではさすがに調べる事は出来ない。元々諜報担当だった碧なら、もう少し詳細なデータを持っているのではと考えて今回の訪問に繋がったのだ。
「……残念だけど大した情報は持ってないわね。銀の福音のテストパイロットがナターシャ・ファイルスだって事くらいしか」
「それは織斑姉妹も知ってましたね。知人なんですってね」
「ちょっとした知り合いよ。第一回モンド・グロッソの時に少し話したくらい」
「更識君、私や紫陽花にも関係すると言ってましたが、この事は既に聞いています」
何時までも自分たちに関係する話題にならないのを不審に思い、真耶が一夏に話しかける。すると一夏は表情を改め、真耶と紫陽花に視線を向けた。
「万が一何か起こった場合、おそらく指揮は織斑姉妹が執るべきなのでしょうが、あの二人は篠ノ之箒の監視があります。前回のようにまた拾ったISを使い暴走する可能性を考慮すると、あの二人は篠ノ之の傍から離すわけにはいきません」
「でも、心配のし過ぎじゃないかしら? いくら篠ノ之さんでも同じ過ちを繰り返す程愚かじゃないと思うわよ?」
「俺もそう思いたいですが、最悪の可能性を考えて行動したほうが、万が一そうなった場合対応しやすいので。それで、作戦指揮をお二人にお任せしたいのですが」
「私たちですか!? 小鳥遊先輩じゃなくて!?」
「碧さんには情報収集に動いてもらいたいんです。この前の暴走事件と無関係じゃないかもしれないので」
「愉快犯なら側で見てるかもしれないですからね」
一夏と碧に頼まれ、真耶と紫陽花は顔を見合わせる。自分たちはせいぜいバックアップのバックアップだと考えていたのに、まさか指揮を執るように頼まれるなど思ってなかったのだろう。
「……分かりました。万が一の時は私と紫陽花が指揮を執ります」
「ありがとうございます。何も無ければ一番ですけどね」
一夏の見せた笑顔に、真耶の胸がときめいたのは、誰も気づかなかったのだった。
真耶にだってときめく権利くらいはある……