暗部の一夏君   作:猫林13世

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この場面は残したかったので


ビーチバレー

 岩場から戻って来た一夏を、本音は相変わらずの能天気さで迎えた。

 

「いっちー、どこ行ってたの~?」

 

「織斑姉妹と話があるってアイコンタクトで伝えただろ」

 

「兄さま、本音が兄さまのアイコンタクトを理解出来るとは思えませんが」

 

 

 想っていてあえて言わなかった事をマドカがあっさり言ってしまったので、一夏は苦笑いを浮かべながらマドカの頭に手を置いた。

 

「そう言う事は思ってても口に出すものじゃないぞ。さすがの本音も傷つくだろうしな」

 

「一夏も大概だと思うよ? それで、千冬先生と千夏先生はなんて言ってたの?」

 

 

 本音の事を何時までも喋ってるわけにもいかないのだと理解していた簪が、話の流れを変える為に助け船を出した。一夏は目礼で簪に感謝を示し、そのまま説明を始める事にしたのだった。

 

「確定情報でも無いし、本来なら生徒である俺たちに任せるのはおかしいとは思うんだが……アメリカで行われてる共同開発した第三世代ISの性能テストが近々行われるらしく、そこに不穏な動きが見られと報告があった。万が一暴走でもした場合の対処は、専用機持ちに任せるという話だ」

 

「暴走って、どんなテストをするか分からないの?」

 

「テストの内容どころかISの性能すら分からない。想像だが、アメリカは開発データをイスラエルに持って行かせたくないのかもしれない。暴走したのをイスラエルの所為にしてデータを解析するからとか言って一人占めするとかな」

 

「随分とせこい考えですね。アメリカって世界の警察を名乗ってるほどですよ? そんな事しますかね」

 

 

 美紀の質問に、一夏も首を傾げる事しか出来なかった。なにせ情報が少ないのだから、憶測を立てるにしても突飛な事を考えてしまう可能性の方が高いのだから。

 

「まぁ、なにも起こらなければそれで良いんだから、頭の片隅にでも留めておいてくれ」

 

「そう言えば一夏、さっきから一夏の事探してるよ」

 

「相川さんに夜竹さんに櫛灘さんがビーチバレーでもしたいって言ってたけど」

 

「やりたいって言っても……簪と本音は普通の運動はあまり得意じゃないだろ? マドカもやった事無いだろうし……」

 

「向こうが三人ですが、私と一夏さんで――」

 

「なら、三人目は私が務めましょう」

 

 

 美紀が提案し終える前に、一夏の隣に黒のビキニを着た闇鴉が現れた。

 

「……お前、肌白いんだから大丈夫か? ISも人の姿だと日焼けするんじゃないのか?」

 

「問題ありません。UVケアーは万全です」

 

「まぁいいか……マドカも見学して、途中から誰かと代われば良いだろ」

 

「はい! 兄さまの邪魔をしないように努力します」

 

「……遊びなんだから気にしなくても良いと思うぞ」

 

 

 妙にやる気の高いマドカを連れて、一夏は三人の許を訪れる。

 

「こんにちは、探させちゃったみたいですね」

 

「あっ、更識君。来てくれたって事は勝負って事で良いよね?」

 

「別に構いませんが、ルールはどうします?」

 

「スパイク無しの十一点先取で、デュース無しね。あっ、それから更識君はサーブは下から打ってね。さすがに男の子の全力サーブは受けられないから」

 

「分かりました。美紀や闇鴉も下から打たせましょう」

 

 

 更識所属である美紀とISである闇鴉も、普通の女子のレベルのサーブでは無いだろうと考えて、一夏は追加提案をしたのだ。

 

「そっちのメンバーって四月一日さんと闇鴉さんなの? てっきり本音かマドカが出ると思ってたのに」

 

「私は見学してから交代で参加する予定です」

 

「私はいっちーのカッコいいところを見に来たんだよ~。かんちゃんも一緒にね」

 

「うぅ……日光が眩しいよ……」

 

「普段から引き籠り気味なんだから、少しくらい外にでなきゃね~」

 

 

 開発・研究に没頭するクセがある簪は、日頃日光を浴びる機会が少ない。それこそ実習の為に校舎からアリーナへ向かう間くらいしか無いのかもしれない。

 

「簪は屋敷にいた時はちゃんと訓練してたのに、最近はVTSばっかだもんな」

 

「外に出なくても訓練出来るし、格闘術は武道場で出来るもん」

 

「健康に良くないからって誘っても、簪ちゃんは外に出ないもんね」

 

「この前の買い物の時だって、かんちゃんは帽子を目深に被って日光を見ないようにしてたし」

 

「あれって顔を隠してた訳じゃ無かったのか……」

 

 

 代表候補生である簪の配慮だと思っていた一夏は、その真の意図を知り驚いた表情を浮かべていた。あの時、刀奈も虚も美紀も、碧さえも顔を出していたのに騒がれなかったのは、ある意味で奇跡だったのかもしれない。

 

「そろそろ始めていいかな?」

 

「あ、あぁ……それじゃあそちらからサーブで」

 

 

 一夏がそう言うと、櫛灘の目がキラリと光った、ように見えた。良く見れば口元も笑っているように釣り上がっている。

 

「七月のサマーデビルと言われたこの私のサーブを受けてみよ!」

 

「サマーデビル……悪魔の多いクラスだ」

 

 

 『悪魔の姉妹』と呼ばれる双子が担任であるので、これで少なくとも悪魔が三人目。一夏がそうぼやきたくなるのも仕方の無い事なのかもしれない。

 

「更識君に勝つチャンス!」

 

「ほい、美紀任せた」

 

「はい!」

 

 

 スパイクは禁止されているルールなので、美紀はピンポイントで全員が反応して動けなくなる場所にボールを浮かせた。狙い通り三人はお見合いをして、あえなく一夏チームが先制したのだった。

 

「さて、それじゃあ闇鴉、サーブを任せる。軽くだからな」

 

「分かってますよ。このままストレートで勝たせてもらいます」

 

「……軽くだからな?」

 

 

 闇鴉の呟いた言葉に、一夏は一抹の不安を抱き念を押したのだった。




普通にやれば更識所属の圧勝でしょうね……ただでさえ男がいるんだから……

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