暗部の一夏君   作:猫林13世

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この寒い中海の話はやりたくなかった……


いざ海へ

 一年生が臨海学校に出掛けると、IS学園の戦力は大きく落ちる。単純に専用機持ちの大半が一年生というだけでは無く、織斑姉妹、小鳥遊碧、山田真耶、五月七日紫陽花といった元代表及び元候補生の教員が一年担当だという事も多分にあるのだ。

 それでも現役の代表である刀奈、企業代表である虚といった実力者は在籍しているし、何かあれば一夏と簪が組み上げた撃退プログラムを作動させればある程度の敵は撃退出来るようにはしてあるのだ。

 

「でもこの前みたいに俺たちに気配を掴ませない相手が来た場合は二人に任せるしかないんだがな……」

 

「気にし過ぎですよ。一夏さんだってその事はお二人に任せるって納得したじゃないですか」

 

「そうなんだが……虚さんはともかくとして、刀奈さんは何処か抜けてるところがあるから……」

 

「大丈夫ですって。刀奈お姉ちゃんだって一夏さんに頼まれた事はしっかりと務めあげてくれますから」

 

 

 生徒会長であり、現役の代表ではあるのだが、刀奈の信頼度はさほど高くない。普段から生徒会の仕事を一夏や虚に任せているのが原因なのだが、彼女は別に仕事が出来ないわけではないのだ。

 

「頼る人がいなければ、刀奈お姉ちゃんだってちゃんと仕事しますよ」

 

「だといいがな」

 

 

 移動中のバスの中で、隣に座る美紀と学園の心配をしている一夏を、クラスメイトは複雑な思いを抱きながら眺めていた。ある生徒は、これから水着姿を見せるのを恥ずかしがっていたり、ある生徒はこの機会に少しでも一夏と仲良くなりたいと思っていたり、またある生徒は、隣に座る美紀を羨ましがったりと様々な感情がバス内をめぐっていた。

 

「そろそろ旅館に到着するが、まず自分の部屋を確認し荷物を運びこめ。遊ぶのはそれからだ」

 

 

 織斑千冬先生の言葉に全員が元気のよい返事をし、バスは目的地へと到着した。まず自分の部屋を確認するよりも、一夏の部屋を確認してる生徒が複数いたのは、多分遊びに行こうと考えているのだろう。

 

「一夏、同じ部屋だね」

 

「私も~」

 

「私もですね」

 

「兄さまと同じ部屋です」

 

「見事に更識所属が揃ったな……偶然ではなさそうだ」

 

 

 少し離れたところで織斑姉妹が一夏を眺めているのを見て、一夏はこの部屋割は織斑姉妹の計らいだと理解し、軽く会釈をした。すると織斑姉妹は鼻血を出して興奮しだしてしまい、その姿を見られないように部屋へと引っ込んだのだった。

 

「いっちー、荷物を運んで海に行こう!」

 

「兄さま、一緒に遊びましょう」

 

「私はあんまり泳げないから、浜辺で本でも読んでる」

 

「とりあえず、部屋に行きましょう」

 

 

 既に疲れそうだと、一夏は内心苦笑いを浮かべていたが、折角楽しそうにしてる四人に水を差すのは避けようと思ったのか、顔には出さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女子更衣室では、同性だからなのか遠慮の無い言葉が飛び交っていた。

 

「鈴さんは活発なイメージだけあって胸も慎ましやかなのですね」

 

「あによ、喧嘩売ってる?」

 

「そうではありませんわ。鈴さんがティナさんほど胸があったら、私たちは敵いませんもの」

 

「確かに、ティナの胸は羨ましいわよね……さすがアメリカなのかしら」

 

「意味が分からないわよ。だいたい、鈴だって小さいわけじゃないでしょ?」

 

 

 鈴のルームメイトでアメリカ国籍のティナ・ハミルトンの胸を見ながら、セシリアと鈴がぼやく。その隣ではシャルロットとラウラ、そして静寐がそんな二人を見てぼやいていた。

 

「セシリアだって十分あるじゃないか」

 

「私はお兄ちゃんが気にいってくれるなら大きさなど気にしない!」

 

「ラウラ、いくら同性だけだからって、少しおおっぴらげ過ぎじゃない? もう少し恥じらいを持って発言しないと……」

 

「そう言えば箒は?」

 

「篠ノ之さんなら織斑姉妹に連れて行かれてたわよ」

 

 

 ふと思い出したように鈴が訊ねると、静寐が見た事を素直に伝えた。

 

「また何か仕出かしたの?」

 

「この前の学年別トーナメントの罰ですわね。臨海学校が終わるまで織斑姉妹と行動を共にするらしいですわ」

 

「教官二人と行動を共にするなど羨ましい……私が代わってもらいたいくらいだ」

 

「ラウラ、多分楽しい事じゃないし、一夏と会えなくなるかもよ?」

 

「なにっ!? お兄ちゃんと会えないのは却下だ!」

 

 

 少し他とズレているラウラに、シャルロットがやんわりと指摘をして考えを改めさせる。この二人は割といいコンビなのかもしれない。

 

「そう言えば自己紹介してなかったわね。初めまして……じゃないけど、一応ね。一年一組の鷹月静寐です」

 

「ティナ・ハミルトンよ。よろしく」

 

「静寐、一夏は来るの?」

 

「さっき更識さんたちと部屋から出ていくのを見たから、多分来るんじゃない?」

 

「一夏に飛び乗って監視ごっこしなきゃ!」

 

「そんな事出来るの、鈴だけだよ……」

 

 

 少し羨ましそうなシャルロットを他所に、ラウラは純粋のその遊びが気になっている様子だった。

 

「でも、臨海学校って何をする行事なの? イマイチよく分からないんだけど……」

 

「細かい事は気にしない方が良いですわよ。行事を楽しんだ方がお得ですわよ」

 

「後で一夏に聞いてみましょう」

 

 

 着替え終わった面々は、それぞれの覚悟を胸に浜辺へと飛び出して行く。ただし鈴と静寐は、こういった場所に一夏が出てくるのかが気になっていたのだった。鈴は一夏が対人恐怖症である事を知っているし、静寐も何となく理解しているので、来たとしても簪や美紀の傍からは離れないだろうと思っていたのだった。




福音の為に色々と変えないとな……

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