暗部の一夏君   作:猫林13世

152 / 594
ここで彼女以外が合流します。そして代わりも……


合流

 一夏たちがいる水着売り場から少し離れた場所に、IS学園の生徒が数名水着売り場を目指してやってきていた。

 

「お兄ちゃんと来たかったぞ」

 

「仕方ないよ。一夏は更識所属のメンバーと何処かに出掛けてるみたいだし」

 

「アンタも更識所属じゃないの?」

 

「僕は子会社の人間だから。本社の面々と一緒には行動出来ないよ」

 

「一夏君はそんな事気にする人じゃないと思うけど」

 

「そうですわね。私やラウラさんの暴言にも寛容な心で対応してくださったり、シャルロットさんのご自宅の問題も解決してくださった一夏さんが、子会社の人間だからという理由で区別するとは思えませんわ」

 

 

 ラウラ、シャルロット、鈴、セシリア、静寐の五人も、今日は臨海学校に向けての水着選びに来ていたのだ。一夏の人柄に納得したのか、シャルロットは話題を変えることにした。

 

「篠ノ之さんも誘ったんだよね?」

 

「うん。でも篠ノ之さんは今日予定あるんだって」

 

「教官たちとデートとかお兄ちゃんが言ってたぞ。私も教官とデートをしてみたいぞ」

 

「えっと……多分そのデートって言葉は隠語だと思うよ。一夏君がそう言ったなら間違いないと思う」

 

 

 静寐だけは「織斑姉妹とのデート」という言葉の正確な意味を理解しているようだが、織斑姉妹を尊敬しているラウラは、箒の事を羨ましく思っているようだった。

 

「ところでシャルロット、アンタ一夏とフランスに行ったのよね?」

 

「うん、そうだけど?」

 

「更識企業の秘密とかは教えてもらったの?」

 

「僕みたいな末端の人間には重要秘密なんて教えてくれないよ。多分布仏さんも聞いてないんだろうし」

 

 

 シャルロットの言う「布仏」とは、当然本音の事で、鈴もその事を正しく理解していた。

 

「あののほほんとした子に教えたら、あっという間に情報漏洩問題に発展するでしょうしね。でも子会社って言ってもそこの社長なんでしょ? そのうち教えてもらえるんじゃないの?」

 

「どうだろうね。でも何でそんな事聞くの?」

 

「ちょっとした好奇心よ。アタシも付き合い長いけど、一夏って何か隠してる感じがするのよ。部外者のアタシには言えなくても、アンタになら言えるのかなって思っただけ」

 

「鈴さんは小学生の頃からのお付き合いなんでしたね。子供の頃の一夏さんってどんな感じでしたの?」

 

「どんなって……あの頃はまだ対人恐怖症だったし、箒の所為で親しい友人は皆苗字で呼んでたから『更識』に変わって呼ぶのに苦労してた友達に苦笑いを浮かべてるような子だったわね。名前で呼んでも良いって一夏は言ってたんだけど、アタシと入れ替わりだった箒が、一夏の事を名前で呼んだ人を追いかけ回してたらしくて、一夏だけじゃなくて他の子たちも箒に恐怖心を抱いてたわね」

 

「一夏君、まだ篠ノ之さんの事が苦手っぽいけどね」

 

 

 そんな話をしながら、水着売り場に到着した五人の前に、刀奈たちの水着を選ばされていた一夏が見えた。一夏だと確認して、ラウラの動きは素早かった。

 

「お兄ちゃん! 私の水着も選んでください!」

 

「だから、お前がお兄ちゃんって呼ぶな! 兄さまは私の……」

 

 

 合流してすぐ、マドカと言い争いになったラウラを、一夏と他の面々は微笑ましく眺めていた。

 

「やあ一夏。今日は更識の面々とお出かけじゃなかったの?」

 

「だからここにいる。刀奈さんたちに水着を選んでくれと頼まれたから」

 

「丁度いいじゃない! 一夏、アタシたちの水着も選んでよ」

 

「鈴たちのもか? 俺が選ぶより自分で選んだを方がセンスが良いと思うんだけどな……」

 

 

 一夏は基本的、着られればそれで良いと思うタイプであり、自分の服装には無頓着なのだ。だがセンスが悪いわけでは無く、一夏が選んだ服は、簪や美紀に好評であり、刀奈や虚も選んで欲しいと一夏に頼むほどだ。

 その事を知っている鈴は、一夏の謙遜を一蹴し、自分たちの水着も選ぶように交渉する。

 

「アンタのセンスが良いのは知ってるのよ。だいたい普段から織斑姉妹がしっかりしてるのだって、アンタが昔に選んだ服を基準にしてるからでしょ」

 

「そうらしいな。俺があの二人の服を選んでたのって、俺が記憶を失う前なんだよな。何時までそんな服を持ってるんだか……」

 

「あの二人は永遠に持ってるでしょうね。それじゃあ、テキトーに選ぶから、その中から一夏が選んでよ。それなら良いでしょ?」

 

「まぁ、それくらいなら……」

 

「よし! それじゃあセシリア、ラウラ、シャルロット、静寐、一夏に見せたい水着を選びに行くわよ!」

 

「趣旨が変わってないか?」

 

 

 鈴の宣言に首を傾げた一夏だが、どうやら女子たちにとってはそれが本命だったらしい。一夏のツッコミに全員が同時に首を横に振った為、一夏は腑に落ちないながらも自分の心を納得させるのだった。

 

「さっすが一夏君。モテモテね。この水着も可愛いし、一夏君のセンスは間違いないわね」

 

「それはいいですが、何時まで試着してうろついてるんですか? 早く着替えてください」

 

「もうちょっとだけ。それに、簪ちゃんや虚ちゃん、美紀ちゃんだって一夏君にくっついてるじゃない」

 

「その三人は着替えてるので文句は言いませんが、刀奈さんはまだ水着のままじゃないですか」

 

 

 文句を言いながらも強引に引きはがさないのは、一夏の優しさだ。その事を分かっている刀奈は、もう少しだけ甘えてからと一夏にお願いし、存分に一夏分を補給してから更衣室へと戻って行った。

 

「ところで、本音の水着だが……」

 

「ほえ?」

 

「あんな着ぐるみみたいな水着があるんだな」

 

「パジャマもあるよー!」

 

「ああ、それは知ってる」

 

 

 この後まだ五人分の水着を選ばなければいけないのか、と一夏が疲れている横で、本音はのほほんと買った水着を眺めていたのだった。




一夏は何人分の水着を選べばいいのだろう……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。