暗部の一夏君   作:猫林13世

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偉そうなヤツは、男だろうが女だろうが嫌いです


勘違いの女性

 刀奈に連れられて、一夏は今水着売り場に来ていた。周りには女性物の水着が並ぶ中、一夏は非常に居心地の悪いしていたのだった。

 

「一夏さん居辛いのでしたらあちらに移動しましょう。私が付き合いますから」

 

 

 一夏の様子がおかしいのに気がついた碧が、そう提案する。元々そのつもりで碧は同行したので、買い物は後でも十分なのだ。

 

「いえ、碧さんはそのまま水着選びを続けてください。一夏さんの護衛は私がしますから」

 

 

 碧の提案を聞いた闇鴉が、突如人の姿になり碧の提案を断る。相変わらずいきなり人の姿になる闇鴉に、一夏は苦笑いを浮かべた。

 

「そう言うわけですので、碧さんはお買いものを続けてください。俺は向こうのベンチで休んでますから。刀奈さんたちも、決まったら電話してください」

 

 

 今日の目的は、一夏に新しい水着を選んでもらう事なので、最終的には一夏がこの場所にいなければ意味が無い。だから一夏は後でまた来るといい刀奈たちを納得させたのだったが、どうも刀奈は不満顔だった。

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

「せっかく恥ずかしがってる一夏君を眺めてたのに……」

 

「お嬢様、悪趣味です」

 

「そうかな? 最近照れた一夏君なんて滅多に見られなくなっちゃったから、偶には良いと思うんだけど」

 

「一夏さんが可哀想だよ、刀奈お姉ちゃん」

 

 

 虚と美紀に怒られた刀奈は、軽く舌を出して反省したように見せた。もちろん形だけの反省だという事は、本音以外の全員にバレていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水着売り場から少し離れた場所にあるベンチに腰を下ろした一夏は、座った途端にため息を吐いていた。

 

『どうしたんです? ため息なんて近頃吐いて無かったじゃないですか』

 

「(いや……あの場所は居心地が悪かったし、碧さんが提案してくれなかったら逃げ出せなかっただろうな、と思って)」

 

『刀奈さんが楽しんでましたからね。一夏さんがオロオロしてるのを見て』

 

「(そんなにオロオロした覚えは無いんだがな……)」

 

 

 無意識にしていたのだろうか、と一夏が自分の行動を思い出しているところに、見ず知らずの女性が声を掛けてきた。

 

「そこの貴方」

 

「………」

 

「貴方よ貴方! ベンチに座っている貴方!」

 

「? もしかして俺ですか」

 

 

 自分が声を掛けられているのだと理解した一夏は、確認の為に女性に声をかける。

 

「そうよ! 貴方、私の水着選びに付き合いなさい!」

 

「はい? 何故俺が見ず知らずの貴女の水着選びに付き合わなければいけないのですか? 俺は連れが選び終わるのをここで待ってるんです。貴女に付き合う暇はありません」

 

「男が私に逆らうっていうの? 貴方の事を痴漢で警備員に突き出しても良いのよ」

 

「冤罪も甚だしいですね……てか、貴女狙われてますよ」

 

 

 チラリと視線を背後に向けた一夏は、ため息を堪えたような声で女性に忠告をする。もちろん気配など探れない女性は、一夏が悪あがきしているのだと受け取った。

 

「男なんて女に従ってればいいのよ! 分かったらさっさと――」

 

「一夏さん、皆さん選び終わりましたのでお願いします」

 

「た、た……小鳥遊碧ッ!?」

 

 

 声を掛けてきた女性も、第一回モンド・グロッソ覇者である碧の事は当然知っていた。その碧が目の前の少年と知り合いだなんて、全く思っていなかったのだろう。腰を抜かしかけている。

 

「一夏さん、この女性は?」

 

「さぁ? 俺に水着選びを手伝えとか言ってきた偉そうな女性です」

 

「更識家次期当主候補筆頭である一夏さんに偉そうな態度を取ったのですか? 社会的にも肉体的にも殺しても良いんですよ?」

 

 

 碧の顔がいきなり裏の顔になり、女性は完全に腰を抜かした。碧が暗部組織所属である事はあまり知られていないが、更識所属という言葉は世の中の女性の憧れであり、その次期当主候補が目の前の少年だったという事で、驚きが倍増したのだろう。

 

「放っておきましょう。それに、刀奈さんたちが待ってるんですよね? 面倒を起こして後で色々言われるのは御免です」

 

「そうですね。こんな小者の所為で一夏さんに選んでもらえなかったと知れば、刀奈ちゃんは怒るでしょうね」

 

 

 二人の口から出た刀奈という名前も、日本に住んでいるこの女性は知っている。現日本代表にして第二回モンド・グロッソ覇者の名がそうなのだから。自分がとんでもない相手に話しかけていたのだと理解した女性は、力の入らない足を必死に引き摺って逃げていったのだった。

 

「ありがとうございます。どう対処しようか悩んでいたんですよ。闇鴉で物理的に撃退するわけにもいきませんし」

 

「一夏さんは表向きには無名ですからね。仕方ありませんよ」

 

「碧さんや刀奈さんみたいに、顔が知られてるわけじゃないですもん。それに、俺の顔が知られてたら色々とマズイですからね」

 

 

 更識の最重要人物である一夏は、何処へ行くにも誰かしらの護衛が付く程だが、表世界ではISを使える男の子程度にしか知られていない。だから今回のように一人で行動しているとあのような勘違いをした女性が声を掛けてくるのだ。

 

「闇鴉が一緒なら大丈夫だと思ったのですが」

 

「いきなり私が現れたらあの人、心臓麻痺で死んじゃいそうでしたし。現に碧さんの登場で呼吸困難になりかけてましたしね」

 

「別に、女性の品位を落としてる人なら、死んでも別に問題無いと思うんだけどね」

 

「大ありですよ……眼の前で死なれたら後味悪いじゃないですか」

 

 

 物騒な事を話しながら、一夏は水着売り場まで戻って来た。そこには、大きく手を振って一夏を待っている刀奈たちが、あまり見たくない笑みを浮かべていたのだった。




顔とか一応知られてるはずなのに……やはり慢心が過ぎるとこうなるのでしょうね

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