暗部の一夏君   作:猫林13世

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主任は一夏です


更識・IS開発部

 日本代表に選ばれた碧は、専用機を受け取る為に更識の屋敷へと移動する事になった。もちろん、自力では帰る事が出来ないので迎えの車が来ているのだが。

 

「小鳥遊様、この度は代表選出おめでとうございます」

 

「あの……そんな畏まられると居心地が悪いので、普段通りでお願いします」

 

「ですが、小鳥遊様は一介の従者から、日本代表に立場が変わられたのですから、私めが普通にお声を掛けるのもはばかられるのでは」

 

「気にしないでください。私はあくまでも更識の従者ですから」

 

 

 いきなり話し方が変わった運転手に、碧は普段通りでいて欲しいと頼む。彼女は別に代表に選ばれたからといって自分が偉くなったなどとは思っていないのだ。

 

「では、普段通りにさせてもらいます」

 

「その方が私も気が楽です」

 

「小鳥遊さんの専用機ですが、コアはもちろん篠ノ之束が造ったものではなく一夏さんがお造りになったものが使用されます」

 

「篠ノ之博士の造ったコアと一夏さんが造ったコアとでは、性能の差などはあるんじゃないんですかね? いくら一夏さんが優秀とはいえ、彼はまだ小学校三年生ですし」

 

 

 碧の疑問はもっともなものだと言えよう。一夏が小学校三年生で、篠ノ之束のように専門的な知識も技術も持ち合わせていないのは確かなのだから。

 だが碧もだが、一夏が造ったコアが束が造ったコアに劣っているとは思っては無い。それだけ一夏の事を信頼しているのだ。

 

「分析結果は遜色ない出来に仕上がっていると出ていますし、一夏さんが貴女に負けて欲しくないと思っているのは貴女もご存知のはずです」

 

「そうですね。一夏さんは実のお姉さんの記憶が無いですので、私の事をお姉さんだと思っていますからね」

 

「彼は未だに心を閉ざしている傾向がありますからね。更識内でも、貴女以外にはあまり懐いていませんから」

 

 

 誘拐事件から二年近く経っても、一夏は周りに心を開かずにいる。基本的に刀奈や簪たちと一緒に行動しているので、他の人間と接する機会が少なくなっているのも原因なのだが、無理に接して再びトラウマを呼び起こす事は避けるようにと楯無から全従者に通達されているのだ。

 

「ご当主様も一夏さんにはかなり過保護ですからね」

 

「それこそ、実の娘様である、刀奈お嬢様や簪お嬢様と同等くらいに」

 

 

 運転手と碧が同時に笑う。本人を目の前に出来るやり取りではないが、こうした事を言い合えるのは屋敷内の団結が強いからだろう。

 無事に屋敷に到着した碧を待っていたのは、二人のお嬢様と一人の男の子だった。

 

「お帰りなさい。碧さん、代表決定おめでとう」

 

「「おめでとうございます」」

 

「ありがとうございます、刀奈お嬢様。簪お嬢様も一夏さんもありがとう」

 

「早速だけど、碧さんには開発部に行ってもらいたいの」

 

「開発部? そんな場所ありましたっけ?」

 

 

 ここ最近は合宿所と一夏の送り迎えで屋敷に戻ってきても寝るだけだった碧だが、屋敷内の事はそれなりに把握していたつもりだった。だがいきなり聞いた事の無い場所を言われて、碧は小首を傾げたのだった。

 

「一夏君が本格的に研究出来るように、お父さんが最近造ったのよ。お父さん、一夏君に甘いから」

 

「お姉ちゃんや私にだって優しいけど、一夏には特に優しいよね」

 

「それじゃあ、私の専用機は一夏さんが造ってくれるのかしら?」

 

 

 碧の問い掛けに、一夏は満面の笑顔で頷く。

 

「そうだよ! 日本政府から送られてきたデータは既にISに反映してあるから、後は碧さんのパーソナライズを打ち込むだけで完成だよー」

 

「随分と仕事が速いのね」

 

「えへへー。実は、碧さんが代表に決まる前から造ってはいたんだー。いずれは虚ちゃんや刀奈ちゃん、簪ちゃんや本音ちゃんにも造ってあげたいけど、今は碧さんのを造ってるの」

 

 

 笑顔で話す一夏に、碧の心は温かくなっていく。つい先ほどまで一夏の実姉である千冬と千夏と一緒にいたから疲れていたのだが、その疲れはこの笑顔で跡形もなく溶けて無くなった。

 

「それで一夏さん、専用機の特性は?」

 

 

 碧としても、自分の戦い方に合っているのかどうかが気になり、実物を見る前に一夏に尋ねた。

 

「えっとね、一応近接格闘も銃撃戦も出来るようには造ったけど、碧さんが得意な近接戦に重点を置いて造ったから安心してくれていいよー」

 

「まぁ、千冬さんや千夏さんに比べたら私はどちらもダメなんでしょうけどね……」

 

「その二人の事も一応は調べてあるけど、あの二人は近接格闘って言うよりは剣術って感じがするし、遠距離攻撃と言うよりは狙撃だよね」

 

 

 実際にあの二人は篠ノ乃流剣術を修めているいるので、IS戦闘においても剣術の動きが色濃く出ている。一夏は二人の記憶は無いが、その動きから戦い方をシッカリと判断していたのだった。

 

「それじゃあ格納庫に行こう! 碧さんに気にいってもらえると嬉しいな」

 

「一夏さんが用意してくれたんですから、絶対に気にいるって」

 

「えへへー」

 

 

 一夏が差し出した手を取り、一夏に案内してもらいながら開発部へと向かう碧。驚いた事に、開発部の主任は一夏だと言うのだ。

 

「ISの開発よね? 一夏さんはよく理解出来てるわね」

 

「うーん……良く分からないけど、ISが教えてくれるから」

 

「? そうなんだ……」

 

 

 一夏の言い回しが妙だと感じた碧だったが、その事を深く追求する事はしなかった。そして開発部に着いた碧の目の前には、間違いなく日本政府が造ったISに劣らない機能を兼ね備えたISが待っていたのだった。




一夏はこのまま開発部・整備課として進めたいけど、ISを動かせる事になると……ダメかなぁ……

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