暗部の一夏君   作:猫林13世

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原作より選ぶ相手が多い……


週末の予定

 試験が終わり、IS学園一学年は色々とざわめいていた。理由の一つが、一夏の試験結果。筆記試験を全問正解したかとおもえば、実技試験も上位の成績を収めたのだ。常日頃から自分は強くないと言っている一夏にしては、かなり本気で勝ちに行ったようにも見えたからだ。

 そしてもう一つの原因は、一年生の臨海学校だ。入学して始めてと言っても良いイベントだけに、騒ぐなと言う方が無理な相談なのかもしれない。特に今年は一夏という異性の眼があるので、女子生徒たちは――

 

「もっとダイエットしておけばよかった!」

 

 

――とか

 

「更識君はどんな水着が好きなんだろう」

 

 

――などの声が聞こえてくるのだった。

 そんな騒ぎの渦中にいる一夏だが、彼は今物凄い忙しい日々を送っているのだ。学業に生徒会の仕事、更識の仕事に加えてエイミィの専用機製造に取り掛かっている。その所為で一夏は早朝から作業し、日付が変わるギリギリに部屋に戻ってくるのだった。

 

「最近いっちーと遊んでないな~」

 

「試験勉強でお世話になってた時だって、一夏さんは専用機製造の為に動いてましたし、その前だって色々あってIS学園に入学してから今日まで、遊んだ記憶は無いんじゃない?」

 

「刀奈様がもう少しちゃんと働いてくれれば……」

 

「それは本音が言える事じゃないと思うよ。お姉ちゃんも大概だけどさ」

 

「兄さまはフランスの問題やドイツの問題、そしてあの女の問題と色々と巻き込まれましたからね……どれも兄さまが関わる必要が無い事ばかりでしたのに……」

 

 

 更識所属の一年生四人は、一夏のいない部屋で雑談を交わしている。内容はやはり一夏の事で、彼の体調を心配する声も聞こえるほどに一夏は忙しい一日を過ごしているのだ。

 

「臨海学校には来るんだよね?」

 

「学校行事ですし、いくら一夏さんとはいえ休めないと思いますよ。ましてや、織斑姉妹が一夏さんに水着を見せるんだと張り切ってましたし」

 

「姉さまたちも考える事は一緒なんですね」

 

「そういえばかんちゃん、今度水着買いに行こうよ」

 

「じゃあ明日の放課後か明後日の休みのどっちかだね。もう時間もあまりないし」

 

 

 週明けには臨海学校に出発するので、最後のチャンスだろう。美紀もマドカも簪の提案に頷いた。

 

「じゃあ明後日の休みだね! 生徒会の仕事もないし」

 

「お姉ちゃん……どこから現れたの?」

 

「普通にドアから入って来たわよ。虚ちゃんと碧さんと一緒に」

 

「お邪魔します」

 

「付き添いとして私もご一緒します。外の世界では、一夏さんがトラウマを発動させてしまうかもしれませんので」

 

 

 IS学園の生活は慣れてきている一夏だが、一歩外に出ればまるっきり世界は違う。女尊男卑の風潮が蔓延するする世界で一夏を一人きりにすれば、あっという間にトラウマが発動し、おそらく衛星で監視している大天災が暴走しかねない。また、大天災が暴走すれば織斑姉妹にも連絡がいくだろう。そうなれば死者の一人や二人で済むかどうか分からない事になりかねない。

 だが更識所属の誰か一人でも一夏の側にいれば、その事態は回避出来る可能性が高くなる。そしてその一人には、碧が一番適しているのだ。

 

「私は皆さんのように水着を買う必要もありませんし、刀奈ちゃん同様世間に顔を知られてるしね。一夏君の側にいれば話しかけてくるバカな人も現れないでしょう」

 

「でも、碧さんだって水着買わなきゃだめじゃない? 夏休みになれば更識組全員で海やプールに行くんだから。一夏君に新しい水着を見てもらわなくて良いの?」

 

「……では、皆さんが買い終わった後に買います。そうしないと一夏さんが一人になってしまう時間が出来てしまうので……」

 

 

 そもそも一夏が買い物に同行するのかすら決まっていないのだが、このメンバーの中では一夏が同行する事は決定事項のようだ。

 

「随分と人が多いな……」

 

「あれ? 一夏君、専用機を造ってたんじゃないの?」

 

「一応は完成して、エイミィに試運転してもらおうと思ったんだが、携帯を部屋に忘れたから取りに来たんですよ。ところで、何の話題で盛り上がってたんですか? 俺の名前も聞こえてましたけど」

 

「明後日お買いものに行こうって話よ。一夏君も一緒に行くんだからね」

 

「まぁ専用機も造り終えて、後は微調整だけですから明日には終わるでしょうし、付き合いますよ。で、何を買いに行くんですか?」

 

 

 多少疲労の色が濃い感じがする一夏だが、折角盛り上がってるところに水を差すような野暮な事はしない。大人の世界で揉まれている一夏は、空気を読む力も普通の高校生とは比べ物にならないのだ。

 

「水着よ! 簪ちゃんたちは臨海学校に向けて、私と虚ちゃん、碧さんは来たる夏休みに向けてね!」

 

「……俺が同行する理由はあるんでしょうか? 女性同士の方が気が楽のでは……」

 

「一夏君に選んでもらうんだから、一夏君がいなきゃ意味無いでしょ? それに、これだけの美少女たちの水着姿を見られるんだから、嘘でも良いから喜びなさい。一夏君の欠点らしい欠点は、女の子を喜ばせる術が欠けてる事ね」

 

「ですがお嬢様、一夏さんが女性の扱いに長けているのは……」

 

 

 虚に言われ、刀奈はそんな一夏を想像してみた。

 

「……うん、こんなの一夏君じゃないわね」

 

「いったい何を想像したんですか……」

 

 

 呆れた口調の一夏だったが、結局は買い物に付き合う事を承諾し部屋から出ていってしまった。おそらく最終調整の為に必要な試運転をエイミィに頼むのだろうと、本音ですら分かっていたので誰も引きとめる事はしなかった。

 そして翌日、エイミィの専用機がお披露目されたのだった。




漸く専用機に到達しました

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