暗部の一夏君   作:猫林13世

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久しぶりにあのキャラが登場


バカ二人

 試験、それは学生たちが出来る事なら受けたくないもの。優秀な人間であろうがそうでなかろうが、好んで試験を受けたがる人間など稀であろう。IS学園に入学を許された全員が国から選ばれしエリートだと言える程の才能を持っているのだが、それはISに限った事だ。一般教科でも優秀な人間は何処の学校にも一握りしかいない。

 

「ねぇねぇ一夏君。私たちにも勉強教えてくれないかな~?」

 

「刀奈さんは上級生ですよね? 下級生の俺に教わるのはおかしくないですか?」

 

「一夏君なら問題なく解けるでしょ? それに、本音や美紀ちゃんだけ一夏君に教わるなんてズルイ!」

 

「そっちが本音ですか……」

 

 

 一般教科においても優秀な成績を収めている刀奈が、暇つぶしなのか一夏の部屋を訪ねては文句を言っている。もう慣れたもので、一夏たちは刀奈をいないものとして扱う事にして勉強に集中していた。

 

「一夏君が同級生だったらなー。そうすれば私が同じ部屋だったのに」

 

「お嬢様、勉強の邪魔は良くないとあれほど申しましたのに……」

 

「虚ちゃんだって結局は一夏君の部屋に入り浸ってるんだから同罪よ。それに、簪ちゃんだってここにいるんだから」

 

「簪お嬢様は一夏さんのお手伝いとしてこの部屋にいるのです。私やお嬢様のように、ただいるだけじゃないのですよ」

 

「試験前で生徒会の仕事が落ち着いたのは良いけど、問題児がいるせいで一夏君と遊べないし……」

 

 

 優秀な人間でも、勉強しなくても良いわけではない。だが刀奈や虚、ついでに一夏や簪は授業である程度理解しているので、本当に見直し程度の勉強で優秀な成績を収める事が出来るのだ。

 

「暇なら手伝ってくださいよ。マドカやエイミィだって勉強してるんですから」

 

「じゃあ終わったら一夏君が遊んでくれる?」

 

「……遊ぶって言っても試験前なんですよ? 勉強は良いんですか?」

 

「一夏君と同じで、前日にノートを見ればだいたい出来るもん」

 

「そのスキル、羨ましいです……刀奈お姉ちゃん、そのスキル私にください!」

 

「美紀ちゃんだって頑張れば会得出来るわよ。だから、fight!」

 

 

 無責任な応援に、美紀はガックリと肩を落とす。自分は努力して何とか合格した身であり、簪や一夏のように楽勝だったわけではないと自覚している分、出来る刀奈が羨ましくてしょうがないのだ。

 

「ほえ~……おね~ちゃんのように勉強出来るようになりたい……料理は出来なくても良いから」

 

「それは私に喧嘩を売ってるんですか?」

 

「そんなつもりはないよ~。だって、おね~ちゃんは紅茶を淹れるのは上手でしょ~?」

 

「全然褒められた感じがしないのは気の所為でしょうか?」

 

 

 虚に問われた一夏は、肩を竦めてはぐらかしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処の学校でも試験の日程は大して変わらないだろう。一般の高校に通っている弾や数馬もまた、試験前の勉強に追われていた。

 

「今度こそ数馬に勝つからな」

 

「そう言って中学から数えて何連敗だよ? いい加減諦めたらどうだ?」

 

「五月蠅い! だいたい全教科合わせても大して変わらないだろうが!」

 

「でも、勝ちは勝ちだろ。そもそも鈴が途中で転校してからは、賭けるものが無くなったんだから気にし過ぎだろ」

 

 

 鈴がいた時は、三人の中のトップが最下位に奢ってもらうシステムだったのだが、鈴が中国に帰ってからは単純に弾と数馬の点数勝負になっていた。

 

「そういえば、鈴のヤツが日本に来てるらしい」

 

「らしいな。一夏からメールで知らされた」

 

「一夏のヤツ、女の園で毎日ウハウハなんだろうな」

 

「そうか? 一夏の性格だと、ウハウハの前にビクビクじゃねぇ?」

 

 

 弾も数馬も、一夏の事情はある程度知っているし、トラウマが無くても一夏が自分たちみたいにだらしない態度を取るとは思っていなかった。

 

「そう言えば、一夏って頭良いんだよな? 勉強教えてもらえないかな」

 

「範囲が違うだろうし、一夏に頼るのはな……」

 

「中学の成績を聞く限り、俺たちより遥か上に位置する存在だし、頼れば俺たちだって少しは……」

 

 

 弾のセリフの途中で、数馬が手を弾に向けて広げ、そして首を左右に振った。

 

「そうじゃなくて、アイツが生活してるのはIS学園の寮だ。そしてIS学園は原則男子禁制であり、外出の際には面倒な手続きが必要らしい。勉強を教わるだけで一夏にそこまで面倒をかけるのはマズイ。最悪織斑姉妹に殺されかねない」

 

「何で織斑姉妹が……あっ、そっか。一夏の旧姓は『織斑』だったな」

 

「ああ、俺たちみたいな落ちこぼれの相手をしてると知れば、理不尽に怒られるかもしれん」

 

「鈴からのメールだと、織斑姉妹は理屈じゃないらしいしな……どれだけ一夏を溺愛してるんだか……」

 

 

 自分らがバカである事は弾も数馬も認めている。鈴からは「低空飛行組」とまで呼ばれたくらいだ。自覚していない方がおかしい。だからこそ今回こそはしっかりと勉強して良い点数を取りたいと思っていたのだが、バカが二人顔を合わせても勉強が捗らないという事を失念していたのだ。

 

「癪だが実力勝負するしかないな」

 

「赤点じゃなきゃどうでも良いぜ。じいちゃんに殺されなきゃ、俺は夏を満喫出来るからな」

 

「俺もバイト三昧だな。来月は欲しい物が多いから、日数減らすわけにはいかない」

 

 

 この二人は完全に失念していた。メールや電話でも一夏に勉強を教わる事が可能だという事を……そして試験開け、無情に二人の名前が補習生徒の欄に載ってしまったのだった。

 ちなみにIS学園の試験結果は、本音も美紀もマドカもエイミィも補習ではなく、むしろ平均以上の成績で終えていた。弾も数馬も、一夏に教えてもらえればもしかしたら、違った結果だったのかもしれない……




何処で差がついたんだ……

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