暗部の一夏君   作:猫林13世

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頭脳にさほど差はありません


本音と美紀

 エイミィのデータ測定を終えた一夏は、そのままエイミィを部屋に招き入れた。部屋では美紀と本音とマドカが簪に勉強を教わっている。

 

「お帰り一夏。もしかしてエイミィも?」

 

「そうらしい。一人で問題無かったか?」

 

「うーん……美紀はある程度理解してるっぽいから大丈夫だけど、本音とマドカがね……まぁ、マドカは義務教育すら受けて来なかったから仕方ないけど」

 

「入試の時は俺と簪で詰め込んだからな……」

 

 

 いくら実技重視といえども、筆記が酷過ぎると入学が危ういということで、マドカは必死になって勉強していたのだ。じつを言うと、マドカの入学は特例措置なので、筆記が酷くても入学は認められたのだ。だがそれではダメだと一夏と碧が学園生活をスムーズにする為に勉強させたのだが、やはり身についてはいなかった。

 

「まだ半月はあるから大丈夫だとは思うけど、本音の酷さは異常だよ……」

 

「そんなに褒めなくても~」

 

「褒めて無いぞ……」

 

 

 何を勘違いしたのか、褒められていると受け取った本音に一夏の呆れた声でのツッコミが入る。余程呆れているのか、一夏が向ける視線は、普段より鋭さを増している。

 

「いっちー、もしかして眠いの? 目が開いて無いけど」

 

「呆れてるんだよ。何処をどう解釈したら褒められたと思うんだよ……てか、そこの計算間違ってるぞ」

 

「ほえ?」

 

 

 注意しながらも間違いを指摘する一夏に、マドカが羨望の眼差しを向ける。敬愛する兄の能力の高さに感動しているのだろうが、そんなマドカにも容赦の無いツッコミが入る。

 

「マドカ、その漢字違う」

 

「え? ……本当ですね」

 

「マドマドはダメだね~」

 

「多分マドカも本音ちゃんには言われたくないと思うよ」

 

 

 自分も人の事は言えないと思ってるのか、美紀の控えめなツッコミが本音に入ったが、あまり響いていない。そんな三人の輪の中にエイミィも加わり、大人しく試験勉強を始めるのだった。

 

「そう言えば一夏、エイミィの専用機は完成しそう?」

 

「延期になったトーナメントには無理だな。さすがに明後日には出来ない」

 

「仕方ないよ。データ不足だったし、勉強教えなきゃいけないんだし」

 

 

 そう言いながら簪は、座って勉強している四人に視線を向ける。実力者揃いではあるが、頭脳面では残念な四人は、何処となく居心地が悪そうに簪には思えていた。

 

「刀奈さんや虚さんに手伝ってもらうか? 上級生だし、あの二人なら自分の勉強をしながらでも教えられるだろ」

 

「虚さんはともかく、お姉ちゃんに頼みごとをすると、見返りを要求されるよ? 例えば、一夏と同じベッドで寝かせろ、とか」

 

 

 この間美紀と一緒に寝ていたのを目撃した刀奈は、事あるごとに一夏同じベッドで寝たいと言っている。一夏からのお願い事なら断らないだろうが、チャンスがあれば一緒に寝たいと思っている刀奈にとって、もしお願いされれば見返りを要求するチャンスだと思うかもしれない。それが分かるのは、簪が刀奈の妹だからだろうか。

 

「ところで、篠ノ之さんの処分はどうなったの? 普通に授業に出てるみたいだし、制裁無しなの?」

 

「織斑姉妹との楽しい楽しいデートが、期末試験後に行われる事になった。内容は知らないが、遠慮したい罰だな」

 

「期末試験後って、臨海学校前って事? 随分厳しいスケジュールだね」

 

「自業自得だろ。拾ったISを使って暴走し、あまつさえ自分は悪くないとのたまったんだから」

 

 

 箒の罰は一夏から千冬へと決定権が移ったので、その内容を一夏は知らない。だが最低限の枷として、直接制裁は禁止にしておいたのだ。そうでもしないとあの日が篠ノ之箒の命日になっていただろうから。

 

「一夏さんも簪ちゃんも、お喋りしてないで教えてよ。皆同じ場所が分からないんだけど」

 

「ん? ……ああ、そこはこれの応用で――」

 

 

 問われてすぐに答える一夏を見て、簪は羨ましいと思っていた。自分も理解出来なければ一夏に教わる事が出来るのに、自分は一夏と同じぐらいの早さで説明出来るくらい理解してしまっているのだから……

 

「ほえ? かんちゃん、いっちーの事眺めてどうしたの?」

 

「何でも無いよ。ほら、本音もマドカもしっかり説明聞いてないと、本番で分からなくても知らないよ」

 

 

 簪に気を取られていた本音とマドカだったが、簪に言われた事に恐怖したのか必死になって一夏の説明を聞いている。美紀とエイミィは努力すれば補習の心配は無いくらいの成績は取れるだろうが、本音とマドカは努力しても危ないラインなのだ。並みの努力では無く必死になって勉強しなければいけないので、さっきの脅し文句は二人に十分効いていたのだ。

 

「ねぇねぇ一夏君、美紀ちゃんって頭良いんじゃなかったの? 何だか参謀みたいな立ち位置だと思ってたけど」

 

「ちゃんと勉強すれば問題無いんだが、理解するまでに時間がかかるんだよ、美紀は。入試の時だって必死になって勉強してたし」

 

「私はもともと本音ちゃんと大差ない頭脳ですからね……必死になって勉強しないと、私も本音ちゃんのようになってしまいます」

 

「そうなんだ。美紀ちゃんは見た目頭良さそうだから損だよね。本音ちゃんは何となく分かるけど」

 

「いや~それ程でも~」

 

「だから褒められて無いって……」

 

 

 この勘違いこそ、本音の見た目通りなのだろう。もし美紀と本音が同じ成績だった場合、どちらが驚かれるかと言えば美紀だろう。点数が高かろうが低かろうが、本音と同じと言うだけで美紀のイメージはガラリと変わってしまう事だろう。

 それが分かっているから、美紀は必死になって勉強し、一夏の手伝いが出来る程度にはISの知識は持ち合わせている。だがIS学園も高校、一般科目も試験にあるのだ。その一般科目である程度の点数を取る為に、美紀は一夏に泣きついたのだった。

 

「とりあえず、今日はここまで勉強しておくように」

 

「何処か行くの?」

 

「さっきのエイミィのデータを打ち込むだけだ。仕切りの向こうにいるが、あまり覗かれると困るからな」

 

 

 一夏の端末には色々なデータが入っているため、普通の人間には見せられないのだ。それが分かっている簪は、何かあれば呼ぶと言って四人の勉強を見ることを承諾したのだった。




本音の勘違いの仕方が凄い事に……

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