暗部の一夏君   作:猫林13世

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一夏の新たな凄さが……


エイミィのデータ

 期末テストが近づいてきた頃、エイミィは一夏に呼ばれ整備室の一室に足を運んでいた。基本的に誰とでもすぐ仲良くなれるエイミィは、一夏とも既に二人っきりでもいられる関係にまで発展しているので、特に緊張感は無い。だが、別の意味で緊張しているのは否めなかった。

 

「一夏君、来たよー」

 

『開いてるから入ってきてくれ』

 

 

 エイミィは更識所属になるとはいえ、まだパスワード教えてもらっていない。だから普通なら一夏が使っている整備室には入る事が出来ないのだが、今日はその事を配慮して鍵はかけていなかったようだった。

 

「お邪魔しまーす! 意外と普通なんだね」

 

「学園の整備室を何だと思ってるんだ、エイミィは……」

 

「だって、一夏君が作業してる時はパスワードが必要だって聞いてたから、何か凄いものがあるんじゃないかなーって思ってた」

 

「整備してるものとかは基本普通のISだ。見られたくないのはその作業だからな。更識には秘密にしてる事が多くあるから」

 

「そうみたいだね。私、秘密守れるかな……」

 

「本音でも重要な事は漏らして無いから、心配する必要は無いんじゃないか?」

 

 

 慰めだと分かったが、本音でも出来るのならという気持ちがエイミィの中に芽生えていた。

 

「それで、今日はなんで呼ばれたの?」

 

「一応原案が出来たから確認してもらおうと思ってな。要望があるなら今の内に修正しておきたかったし」

 

 

 一夏から渡されたUSBを端末に差し込み、エイミィは専用機の原案に目を通す。細かな事は分からなくても、その機体がどの戦いに適しているとか、武器の特性などはどうなのかとかは理解出来る。

 

「一夏君、これって本当に出来るの? 反動が凄いとか、そんな欠点があるとかじゃなくて?」

 

「理論上は可能だが、実際に造って見なきゃ分からないな。一応出来るだけ反動は無いように造るが」

 

「遠距離は苦手だから、このシステムは嬉しいかも」

 

「一応そっちは俺がテストして誤差修正もしたから、後はエイミィの腕前がどれくらいかに掛かってる。何せトーナメントでエイミィの実力を図ろうとしてたのに、そのトーナメントが中止になっちまったし」

 

「なんなら今でも良いよ? 一夏君ならすぐに訓練機の使用許可取れるでしょ?」

 

 

 一夏は生徒会副会長であり、訓練機の整備担当だ。使用許可は確かにすぐ取る事が出来る。だがアリーナの使用許可は生徒会役員でもそう簡単に取れるものではないのだ。

 

「VTSでも良いならすぐに使用許可は取れる。てか、更識所属専用の特別カスタムのVTSがあるから、エイミィもそれを使えば良い。パスワードは専用機が完成したら新たに設置すればいいし」

 

「更識専用って、本当に存在してるんだね。噂だけだと思ってたよ」

 

「全ての専用機のデータが入ってるからな。産業スパイでもいたら大変だから別にしたんだ。実際、俺が入学する前にはVTSから更識のデータを手に入れようとしてた人たちがいるようだし」

 

「簡単に言ってるけど、それって重大事件じゃないの?」

 

 

 エイミィにはそう取れるのだろうが、一夏は特に気にした様子も無く続けた。

 

「趣味レベルのハッカーに、更識のプログラムを突破出来るとも思えないし、プロレベルならカウンターを恐れて更識のデータにはアクセスしようともしないしな。実際に複数の国が更識のハッキングを仕掛けて、そのカウンターで機密情報流失という事件を起こしてるんだし」

 

「あれってやっぱり更識に喧嘩を売ったからだったんだ……お陰でヨーロッパ諸国は互いの機密情報を握ったは良いけど、こちらの情報も握られてるんじゃないかって疑心暗鬼に陥ってたんだってさ」

 

「忍び込むなら、バレないようにすれば良いものを……こんな風に」

 

 

 一夏が手渡してきた資料を見て、エイミィは驚きの表情を浮かべる。なぜならそれは、イタリアが管理しているエイミィのデータだったからだ。

 

「これ、どうやって手に入れたの? 申請しても通るはずもないし……イタリアから鞍替えする私の為に、パーソナルデータを送るはずは無い……まさか!?」

 

「測定するから別に必要無かったんだが、インパクトを与えるならこれくらいした方が良いだろ?」

 

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、一夏は立ち上がり更識専用のVTSがある場所まで移動する。あっけに取られていたエイミィだが、一夏がどんどん進んでいくので、慌ててその背中を追いかけた。

 

「そう言えば一夏君、篠ノ之さんってもう復活してるんだってね」

 

「ん? あの事故の翌日には普通に食べれてたし、三日後には立ち上がって部屋に帰ってたらしいぞ。授業に復帰したのが一週間後だったかな」

 

「あの事故って、それ程重傷を負うものじゃ無かったの?」

 

「普通の人間なら、意識を失ったまま一週間が経っていてもおかしくは無い程のダメージだったはずなんだがな。やはり体力が普通の女子と違うんだろうな」

 

 

 特に興味が無いのか、一夏はさっきから資料とにらめっこしながら答えている。エイミィも特に興味があったわけでは無く、無言に堪えられなさそうだったので話題を振ったに過ぎなかった。

 

「さて、ここだ。入室の際は専用のパスが必要になるから、エイミィの分も用意しておくように言っておいたから」

 

「何だか秘密基地みたいだね」

 

「ちなみに、VTSを作動させるときにもパスは必要になるから、管理は厳重にしておくように。本音みたいに預けても良いけど」

 

「……その管理は一夏君がしてくれるの?」

 

「俺の部屋にある金庫で保管する」

 

「……じゃあ、お願いします。あと、期末テストの勉強も教えてください」

 

「……本音や美紀にも頼まれてるし、一緒で良ければ構わん」

 

 

 専用機製造に着手出来るのは何時になる事か、と一夏は頭を抑えながらそんな事を考えていた。とはいえ、重要なのは専用機製造も期末テストもなのだ。とりあえず並行して出来るところまでやろうと決意した一夏だった。




ハッキングしても悪びれない……

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