暗部の一夏君   作:猫林13世

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どっちがラッキーなんだろう……


一緒のベッドで…

 保健室で休みながら、箒は昨日の事を考えていた。学年別トーナメントは誰ともペアを組めずに、当日にあぶれた者同士でペアを組む事になり、その相手はマドカだった。実力的なら、候補生とペアになったくらい幸運な相手だと言えただろう。だが負けてしまった。

 マドカの専用機である白式と、自分が乗り込んだ打鉄は、どちらも近接格闘が主な武装になっている。機体の相性が悪かった、とかの問題ではなく、人間的相性が最悪だったと、さすがの箒も理解していた。

 

「あの女、私を一夏の嫁だと認めなかったからな……あんな奴とまともに組める訳が無い。やはり無理矢理にでも一夏とペアを組んでいれば……」

 

 

 そこで箒は、当日一夏は学校にいないはずだったのではないかと言う事を思い出した。救出してくれたのが一夏だと聞いた時は嬉しかったし、一夏が自分に言った事は照れ隠しだと勝手に思い込んでいた箒だったが、いないはずの一夏が学園にいた事だけは気になっていた。

 

「アイツは更識家に用事があるから学年別トーナメントに参加しなかったはずだ。もし用事が無ければ、今頃私と優勝の歓喜に浮かれ、男女の営みに励んでいるはずだし……」

 

 

 古風な考えの持ち主であるが、そこはやはり花の女子高生。頭の中がピンク色に染まってしまっても仕方ないのかもしれない。

 

「ISが暴走したのだって、きっとアイツらが何かしたに違いない。一夏に振り向いてもらう為には、私は邪魔な存在だろうしな」

 

 

 実に前向きな思い違いだが、箒は本気でそう思っている。一夏のあの態度は照れ隠しで、本当は自分の事が好きで好きでたまらないだろうと、本気でそう思っている。この辺りの勘違いが、束に「箒ちゃんは束さんの妹とは思えないくらいのおバカさん」と言われる所以だと、箒は気付いていないのだった。

 

「そうと決まれば早速ISの解析を進めてもらわなければ。結果が出ればあいつらは退学、邪魔者が減るという事だ」

 

 

 一人不気味な笑い声を上げながら、箒は保健室のベッドから身体を動かそうとして――全く動かない事に気がついた。

 

「なっ? 拘束されているのか!?」

 

 

 慌てて首だけを動かして手足を確認するが、特に拘束はされていなかった。じゃあ何で動かないのかと思考を巡らせ――

 

「まさか、毒でも盛られたと言うのか!?」

 

 

――盛大な勘違いをしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒が勘違いをしている頃、一夏は部屋で休んでいた。トラウマから復帰したとはいえあの恐怖は一夏の心に残っている。なので今日は美紀と一緒のベッドで寝る事になった。もちろん美紀からの提案で、一夏は頑なに断っていたのだが、最終的には恐怖心に負けて美紀と同じベッドで寝ることを了承した。

 

「なぁ美紀……やっぱり狭くないか?」

 

「そんな事無いですよ。それに、こうやって一夏さんの事を抱きしめれば、二人でも十分だと思いますよ」

 

「でもな……」

 

「一夏さん? 男の方が一度了承した事を覆すのは良くないですよ」

 

「……分かってる」

 

 

 幼児退行している時ならまだしも、今の一夏はほぼ正常な思考なのだ。いくら同年代の男子と比べて興味が薄いと言っても、全く興味が無いわけではないのだ。つまり、美紀に抱きつかれるとそれだけで心が落ち着かなくなったりするのだ、一夏でも。

 

「一夏さんの心臓、凄くドキドキしてますね」

 

「当たり前だろ。美紀は俺を何だと思ってるんだよ」

 

「更識家次期当主様で、私たちの好きな男の子。ちょっと鈍いところがまた可愛いって刀奈お姉ちゃんは言ってますけどね」

 

「可愛いって……十五の男に使う表現なのか?」

 

 

 一夏の疑問に、美紀は笑いながら答える。

 

「そういうところが可愛らしいんですよ」

 

「?」

 

 

 無意識なのか、先ほどから一夏はしきりに首を傾げている。その仕草は実に可愛らしいものであり、ここにいるのが美紀では無く刀奈なら間違いなく抱きしめる力を強めていただろう。それくらい今の一夏の仕草は美紀の心を刺激していたのだ。

 

「まぁ別にいいが……お休み」

 

「はい、お休みなさい、一夏さん」

 

 

 二人の眠りに就く速度は、更識でも一,二を争うくらい早い。就寝の挨拶をした三秒後には、規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

「……なんだか、空気みたいでしたね」

 

 

 一夏のベッドで横になっている闇鴉が、二人の寝息を聞きながらそんな事を考えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏を驚かせようと、一夏の部屋の前には少女たちが集結していた。

 

「おはようございます。現在の時刻は午前五時少し前。寝起きドッキリの時間がやって来ました。司会は私、更識刀奈がお送りします」

 

「……お姉ちゃんの頭がおかしくなった」

 

「割と何時も通りですよ、簪お嬢様」

 

「そうだった」

 

「酷っ!? ……まぁ、とりあえず一夏君に寝起きドッキリを仕掛けるわよ! って、本音は?」

 

「あの子がこんな時間に起きると思いますか?」

 

 

 生欠伸を堪えながら答える虚に、刀奈は納得の表情で頷いた。この二人は先ほど刀奈が叩き起こしたのだが、その時ついでに本音も起こしたのだ。てっきりそれで起きたと思っていた刀奈だったが、確かにこの時間は本音には無理ゲーだ。

 

「じゃあ、早速お部屋にお邪魔しまーす。さすがに綺麗ですね」

 

「昨日もは入ったでしょ」

 

 

 一夏のベッド目指し、刀奈は細心の注意を払って部屋を進む。そして一夏のベッドに到着するや否や――

 

「一夏君のベッドにダーイブ!」

 

 

――ベッドに飛び込んだのだ。

 

「あれ? 何だか一夏君の感触じゃない気がする……」

 

「……当たり前です。私は一夏さんじゃないんですから」

 

「あれ、闇鴉!? じゃ、じゃあ一夏君は……」

 

 

 恐る恐る美紀のベッドに視線を向けると、そこには仲良く眠っている一夏と美紀の姿があった。

 

「美紀ちゃんに先を越された!? これで第一夫人は美紀ちゃんに決定なの!?」

 

「……五月蠅いですよ。単純にトラウマが発動したから一緒に寝ただけです」

 

「あ、あぁ……箒ちゃんね」

 

 

 目覚めた一夏の説明で、刀奈は頓珍漢な事を言っていたのを止め、少し微妙な雰囲気は残りながらも納得したように頷いたのだった。




同室だけあって、美紀が数歩リードしてる感じになって来ました……

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