暗部の一夏君   作:猫林13世

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闇鴉もだいぶヒロインっぽくなってきた……


部屋での会話

 部屋に戻って来た一夏を、美紀は心配そうに出迎えた。一夏が整備室の前に保健室に寄った事は、金九尾のセンサーで確認済みなのだ。

 

「一夏さん、篠ノ之さんに会ったんですよね? 大丈夫でしたか?」

 

「あ、ああ。意外と早く復帰できた」

 

「そうでしたね。過去最速かもしれません」

 

 

 一夏の言葉に続き、闇鴉も心配無用と告げると、美紀はホッと胸を撫で下ろした。同時に、少し残念そうに見えたと一夏には思えていた。

 

「とりあえず、エイミィの専用機の設計図は出来たから、明日にでもエイミィに細かな希望を聞いて修正作業を……」

 

「一夏さん、今日はもう休んでください。VTシステムを相手にしたんですから、疲労は蓄積してるはずです」

 

「そうだな……風呂にでも入ってゆっくりするか」

 

「じゃあ、お風呂の準備をしますので、その間はゆっくりしててください」

 

 

 美紀が部屋付きのバスタブにお湯を張りに行くと、闇鴉が一夏をからかうように話しかけてきた。

 

「残業でへろへろで帰って来た旦那様に甲斐甲斐しくお世話をする奥様?」

 

「別にへろへろでも無ければ残業でも無い。それに、美紀は奥さんじゃないぞ」

 

「ですが、『未来の』を付ければ不自然さは減少しますよね? 一夏さんと更識関係者全員がそういう関係なんですし」

 

「一夫多妻は本当に平和的解決なのだろうか……」

 

 

 更識家当主に認められた特例、大昔ならまだしも現代でその特例を実行するのは、一夏は疑問だった。確かに全員を不幸にしないようにするには、その特例を実行するのが一番良いのだろうが、果たしてそれが良い事なのか、今の一夏には疑問だった。

 

「刀奈さんに簪さん、虚さんに本音さん、美紀さんに碧さんと、現段階で一夏さんの事を想ってる女性は六人以上なんですからね。理解してます?」

 

「その六人で全員じゃないのか?」

 

 

 闇鴉の言った六人「以上」という言葉に引っかかりを覚えた一夏が、首を傾げながら闇鴉に問いかける。すると闇鴉は、結構本気が混じっているため息を吐き一夏を見る。

 

「な、何だよ?」

 

「静寐さん、エイミィさん、セシリアさんにラウラさん、それから一応篠ノ之さんや鈴さんも、一夏さんの事を想ってるんですよ? シャルロットさんは、感謝の念が強いですがね」

 

「友人として、では無いのか?」

 

「一夏さんは女性の気持ちには疎いですからね……まぁ、年頃の男子よりそう言った事に興味が薄いって事も原因の一つでしょうが。良いですか? ここ、IS学園は本来男子禁制の場所です。そんな場所に男子が――しかも、一夏さんのようにカッコいい男子が来たら、多かれ少なかれ特別な感情を抱いてしまうのは当然なんですよ」

 

「はぁ……」

 

 

 突如始まった闇鴉の説教に、一夏はどう反応するべきか悩んだ。真面目に聞くのもおかしいし、かといって笑い話として受け取るのも違う。一夏が反応に窮しているところに、助け船が出された。

 

「一夏さん、お風呂の用意が出来ました」

 

「ありがとう。闇鴉、その話はまた今度」

 

「あっ、こら! ……逃げられてしまいました」

 

 

 脱兎の如く素早い動きで、一夏は風呂場に姿を消した。その姿を見送ってから、美紀が闇鴉に話しかける。

 

「あんまり一夏さんに余計なことは言わない方が良いですよ」

 

「余計な事ではありませんよ。一夏さんには乙女心を理解していただかなければ」

 

「私たちは、今の一夏が好きなんです。女性の扱いに長けた一夏さんは、ちょっと嫌です」

 

「……確かに、あの純朴そうな一夏さんが、実は百戦錬磨とかだったら嫌ですね」

 

「少しずつ、一夏さんは私たちの気持ちに応えようとしてくれてます。私たちはそれで十分なんですよ」

 

 

 欲が無い、と言えばそうなのかもしれないが、更識所属の乙女たちにとって、あまり急激な進展は自分たちも耐えられないのだろうと闇鴉は納得したように数回頷き、そして視線を風呂場へ向けた。

 

「これほどまで想われているなんて、一夏さんは幸せ者ですね」

 

「くすっ、世界一不幸な少年は、世界一幸せな世界にやって来たんですよ」

 

「ISに人生を狂わされた男の子、でしたっけ? 良く知らないであんな記事を書くなんて……」

 

 

 数年前、一夏の事を記事にした雑誌が発売され、波紋を呼んだ。内容は全くのでたらめ――では無く、一部本当な事が混じっていたので、余計に社会へ影響を与えたのだ。

 

「『誘拐され救出されたのは良いが、その家で奴隷のような扱いを受けている』なんて、いったいどんな頭をしてたらそんな記事が書けるのか、刀奈お姉ちゃんが本気で気にしてましたしね」

 

「奴隷どころかその家のトップにまで上り詰めてるんですけどね。まぁ、更識の内情を知られていないと喜ぶべきなのでしょう」

 

「ただの記者が、暗部組織の内情を知れるわけありませんよ。それこそ、内部にスパイでもいない限り」

 

 

 更識は元々身内だけの組織だったが、先々代辺りから外部の人間も採用するようになってきている。もちろん、採用の際は厳しい審査が行われるので、敵対組織のスパイなどの疑いは無い。ましてや今の当主の一夏の人を見る目は確かだ。そして、一夏を裏切ろうなどと思う人間は更識内に存在しないと美紀は確信している。

 

「うっかり本音ちゃんが何か言いそうだけど、抜けてるようでしっかりしてるから大丈夫なんですよ」

 

「唯一本音さんに不安があるとすれば、ご自身の専用機をあまり使わない、と言うことでしょうか。土竜が不満を溜めこんでいるようですし」

 

「その事は、一夏さんも気にしてました。本音ちゃんもそろそろ自分の機体を使って訓練して欲しいものですね」

 

 

 VTSで遊んでる時でも、本音には土竜を使うように一夏は注意している。だがそれでも本音は他人の専用機を使ったりして遊ぶのだった。

 

「そのうち土竜も人の姿になって喧嘩になるかもしれませんね」

 

 

 あり得そうな闇鴉の言葉に、美紀は苦笑いを浮かべて頷いたのだった。




ハーレムは羨ましいのか良く分かりません……ここのハーレムは平和ですけど、普通はあり得ないと思う……

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