暗部の一夏君   作:猫林13世

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仕事が早い一夏……


専用機の設計図

 整備室にやって来た一夏は、誰もいない事を確認してしゃがみこんだ。気丈に振る舞って見せたが、箒と対面していた時、一夏は恐怖心を抱いていたのだ。自分は悪くないと豪語する箒に……

 

「一夏さん、良く我慢しましたね」

 

「うん……あの人、本当にISの事が嫌いなんだね……なのに何でIS学園にいるんだろう?」

 

「そんな事、あの女にしか分かりませんよ。そもそも、一夏さんの事を悪く言う女に、訓練機だろうが専用機だろうが関係なく心を開くはずもありませんよ」

 

「一応お願いして動いては貰ってるけど、これ以上バカにするなら本当に動かなくなっちゃうかもしれないね……そうなったらどうなるんだろう?」

 

 

 幼児退行を起こしていても、思考速度は普段とあまり変わらない。直接的に暴力を振るわれかけたわけでもないので、そこまで幼児退行していないのだろうと闇鴉は考えていた。

 

「それより、エイミィちゃんの専用機だけど……どうしようか?」

 

「それこそ、一夏さんが一人でお決めになれば良いんですよ。篠ノ之博士から貰ったコアがありますし、一夏さんは武装を考えるだけでほぼ終わりなんですから」

 

「でも、組み立てとか連携動作の確認とか、まだまだいっぱいあるよ?」

 

「もちろん、動作確認はエイミィさん本人に手伝ってもらえば良いですし、組み立てだけなら簪さんや虚さんも手伝ってくれますよ」

 

 

 整備科に在籍している虚と、独学で勉強している簪は、確かにISの組み立てを手伝えるだけの知識も技術もあるだろうし、最終チェックではエイミィに動かしてもらわなければならないので、闇鴉の提案は的を射ていた。だが結局は、そこまでの作業は一夏一人でするしかないのだ。

 

「どんな専用機が良いかな……トーナメントで戦い方を見て決めようと思ってたのに、そのトーナメントが中止になっちゃったし……」

 

「この時期での成長を見たいからという理由で、一回戦だけは後日改めて行われるそうですよ?」

 

「その時にデータを取ればいいのか、それともそれまでに完成させて専用機のデータを取った方がいいのか……」

 

「急に何時もの一夏さんに戻りましたね」

 

「ん? あぁ、そう言われればそうだな」

 

 

 完全に無自覚だった一夏は、モニター端末に専用機案を纏めていく。今あるデータは、本人から聞いたものと、イタリア在籍時に計測したものだけだ。あと使えるもがあるとすれば、エイミィから聞いた専用機の希望くらいだ。

 

「近接格闘が主だけど、遠距離もカバー出来る万能型……使いこなすのが難しそうな機体を選んだな……」

 

「碧さんのような戦い方がしたいのではないでしょうかね?」

 

「碧さんは近接が主だったけど、遠距離も苦手だったわけじゃないしな……だが、あれだって訓練だけで出来るものじゃないぞ」

 

「碧さんのISに関する才能と、一夏さんの整備があってこその能力ですものね。木霊が喜んでましたよ」

 

「最近は動かす機会が減ってるからな……碧さんも参加できる何かを企画するか……専用機の最新データも欲しいし」

 

「もちろん、一夏さんも参加するんですよね? 私だって他の専用機たちと戦いたいですし」

 

「勝てないと思うけどな……」

 

 

 IS開発の話をしてる時の一夏と、戦闘の話になった時の一夏は、随分違うと闇鴉には思えている。この自信の無さが、一夏が更識所属で一番弱いとされる所以なのではないかと思っているのだが、一夏本人が争いごとを好まない性格である事も、闇鴉は重々承知しているので、あまり強くは言えないのだ。

 

「さてと、とりあえずはエイミィの意見を考慮した草案になったか?」

 

「随分と武器を積みますね……バススロットが許す限り積み込むつもりですか?」

 

「このコアだが、自立進化型らしくてな。今満杯に積んだとしても、いずれ空きが出来るらしい」

 

「随分と優れたコアですね……さすがは篠ノ之博士が造ったコア、とでも言っておきましょうか」

 

「実際に使った事が無いから、本当かどうかは知らないがな」

 

 

 専用機の企画書を保存し、一夏はモニターの電源を落とし整備室から移動する事にして――ふと思い出したように携帯を取り出し、更識本家へ電話を掛けた。

 

『どうかしたのかい?』

 

「いえ、例の件をお願いしておこうと思いまして」

 

『心得ているが、そちらで分からなかった事がこちらで突き止められるとは思えないのだが』

 

「良いんですよ。今日の俺は、本来更識で会議だったはずなんですから。着信履歴に更識の番号が無いと、疑われた時に面倒なので」

 

『なるほど、十五歳とは思えないほどの用意周到さだな。例の打鉄の出所は私たちで調べておくから、君は篠ノ之箒に気を付けなさい。君が助けだした事で、彼女は更に調子に乗るだろうからね』

 

「俺が助けたのは、助けないと周りに被害が及ぶ可能性があったからであって、篠ノ之を助けたかったわけじゃないんですけどね……言っても理解するとは思わなかったので詳しくは言いませんでしたが」

 

 

 既に千冬が説明済みだとは、さすがの一夏も気づいていなかったようだ。

 

『本当に、篠ノ之束の可能性は無いんだね?』

 

「あの人は、なるべく俺や織斑千冬さん、千夏さんに迷惑がかからないようにするはずです。掛かるにしても、あそこまで面倒な展開にはしませんよ」

 

『分かった。じゃあ、篠ノ之束以外で君たちに気づかれずにIS学園に侵入出来そうな人物、及び組織が無いか調べてみるよ。あまり期待しないで待っていてくれ』

 

「お願いします、楯無さん」

 

『君に楯無と呼ばれるのは不思議な気分だよ』

 

 

 尊との通信を切り、今度こそ一夏は整備室から部屋へ戻るのだった。




トラウマ発動もすぐに復帰

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