意識を取り戻した箒は、自分が何処にいるのかが分からなかった。
「ここは……何処だ?」
「目が覚めたか、問題児」
「千冬さん!?」
「学校では織斑先生、もしくは千冬先生だバカ者」
一応怪我人という事で、千冬は出席簿を振り上げただけで止めた。さすがに怪我が増えていたら一夏に怒られるとでも思ったのだろう。
「あれはいったい何だったんですか? 私の中に力があふれてくるような感覚だったのですが」
「詳しい事はお前に言っても理解出来ないだろうから省略するが、あれは禁止されているシステムだ。もう少し救出するのが遅かったら、お前は死んでいただろう」
「そうですか。それで、誰が私を助けてくれたんですか? 千冬さ――先生ですか?」
千冬さんと言いかけて、さっき怒られた事を思い出した箒は慌てて言い直す。一応進歩がみられたのが満足なのか、千冬はしきりに頷いていた。
「お前を助けたのは一夏だ。まぁ、アイツはお前じゃなくってISのコアを助けたんだろうがな」
「私よりコアが大事だと言うのか、あいつは! 幼馴染を何だと思ってるんだ」
「一夏はお前など幼馴染だとは思って無い。せいぜい腐れ縁だろう。そもそもだ、お前あの訓練機を何処からもってきた? あれはIS学園で管理してるものじゃないぞ」
「……昨夜庭先に落ちていたのを拾いました」
「ISが落ちているものか、バカ者が」
「本当です! 周りを見渡しましたが誰もいませんでしたし、そもそも学園の訓練機は私に反応しないものが殆どですし、反応しても動きが他のヤツより鈍いんです。だから、普通に動くあの機体を使っただけです」
報告も無しにISを使った事を悪びれない箒に、千冬は殴りかかりたい衝動に駆られていた。訓練機が正常に作動しないのは、箒が散々訓練機をバカにし、一夏に殴りかかったりしてる事をコアネットワークを通じて知られているからなのだが、箒はISに感情があるなどと信じていない。白式や闇鴉のように人の姿になれるからと言って、人間の感情を理解出来るなんて思って無いのだ。
「己の発言の所為でISからも嫌われているのに、それも全て一夏の所為にでもするつもりか。訓練機の整備も一夏や更識の人間が担当しているからな」
「じゃあやっぱり、私が動かしても正常に作動しないのは一夏の……」
「だから違うと言っているだろうが! お前が訓練機だと侮り、負けたのを訓練機の所為にしているからお前に乗って欲しくないと思ってるんだ! そして一夏に危害を加えようとするお前は、もれなく全てのISから嫌われても仕方ないんだ」
「何故ですか! 一夏が私を無視するから私は抗議の為にやってるだけです! 悪いのは私では無く一夏の方でしょうが!」
いよいよ我慢の限界が訪れた千冬が、拳を振り上げたところに――
「あまり叫ぶのは良くないと思いますよ、千冬先生」
――一夏が現れてその拳を開いた。
「何か分かったのか?」
「いえ、分からない事が分かりました。篠ノ之さんが使っていた打鉄が何処から来たのかも、誰が持ってきたのかも不明です。少なくとも正規のIS関連業者が造ったものではないでしょう」
「そうか。ところで一夏」
「何でしょう、千冬先生」
「このバカの処分はどうするつもりだ? 一番危ない目に遭ったのはお前だ。お前が決めてくれ」
「何故私が処分されなきゃいけないんですか! 私は被害者ですよ!」
声を荒げた箒に、一夏と千冬は呆れた視線を向けた。
「良いか? お前が真面目にISと向き合えていれば、今回のような事は起こらなかった。故に、貴様は自業自得だ」
「私はしっかりと訓練していますし、向き合ってるつもりです! 一夏、貴様が余計な事をして私がISをまともに使えないようにするから!」
「俺はそんな事していないし、そんな細かい設定が出来ると本気で思っているならおめでたい頭だな。そもそも全ての訓練機にそんな事をしてる時間など俺には無い。更識の仕事と生徒会の仕事、他にも学業があるんだ。お前に嫌がらせをする程暇じゃないんだよ、俺は。そして、ISがお前にまともに反応しないのは、お前が心のどこかでISを否定しているからだろ。束さんがISを造った所為で、自分は不幸になったとでも思ってるんじゃないのか? 千冬先生、処分は学園にお任せします。俺はエイミィの専用機の事で更識と電話しなければいけませんので」
「そう言えば会議とか言ってたもんな。大丈夫なのか?」
「緊急事態です。納得してくれてますよ」
一礼して保健室から出ていった一夏を見送り、千冬は鋭い視線を箒に向けた。
「ISの所為で不幸になったのが貴様だ? 笑わせるな。一番の被害者は一夏だ! 誘拐され怖い目に遭い、記憶を失いトラウマまで抱えているんだ。それでも一夏はISの所為にはしない。ISと向き合い、そしてISに愛情を注いでいる。そんな一夏に暴力的な貴様に、ISが心を開くとも思えん。今すぐ退学にでもしてやろうか?」
「ISに心などあるはずないでしょうが。あれは一夏の妄言です!」
「本当に貴様は……あの大天災の妹とは思えないくらいのバカだな……」
「あの人は関係ありません!」
「なら日本政府にそう申し出ろ。そうすれば貴様はすぐにでもIS学園を退学になり、更生施設にでも送り込まれるだろうよ」
「何故そんな場所に私が送り込まれなければいけないのですか!」
「貴様がしてきた事、全て『篠ノ之束の妹』という理由だけで酌量処置が取られていたんだ。その理由を本人が否定すれば、すぐにでも警察沙汰になるし、更生施設行きになる理由にもなるだろうが。そんな事も分からないのか、貴様は」
自分は悪くない、そう信じている箒は、千冬の言っている事が理解出来なかった。悪いのは一夏であり、自分は被害者だと思い込んでいる箒に、千冬は盛大にため息を吐いて蔑みの目を向けてから保健室から去っていったのだった。
使おうと思うのが凄い……