暗部の一夏君   作:猫林13世

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学園内、ですけどね


更識会議

 解析を終えて部屋で休んでいた一夏の許に、更識所属の面々が訪れてきた。

 

「何かありましたか? こんなに大勢で……」

 

「頑張った一夏君にご褒美を、と思ってね」

 

「ご褒美? 刀奈さんの考案なら、あまり期待しない方がよさそうですね」

 

「何でよ!?」

 

 

 刀奈の反応を、一夏は満足げに眺めている。その表情で、刀奈は自分がからかわれたのだと理解した。

 

「酷い! 折角一夏君に良い思いをさせてあげようと思ってたのに……」

 

「良い思い?」

 

「思春期の男の子なら、誰でも憧れると思うわよ?」

 

「膝枕とかなら大丈夫です」

 

「もっと良い物よ。その名も、おっぱいま――」

 

「ところで、碧さんまで一緒なんですね。刀奈さんの暴走は止められなかったんですか?」

 

「すみません……刀奈ちゃんと私では、立場に違いがありすぎまして……」

 

 

 刀奈をまるっきり無視して、一夏は背後に控えていた碧に声を掛けた。

 

「うわーん! 一夏君が苛めるよー!」

 

「だから言ったんですよ。一夏さんはそんな事に興味を示すような人じゃないって」

 

 

 部屋に完全に入り込んだのを確認して、一夏は扉を閉め鍵を掛けた。

 

「そう言えば一夏、今日は更識で会議だったんじゃ?」

 

「カルカルの専用機についての会議だって言ってたよね?」

 

「あれはエイミィを納得させる為の方便だ。だいたい、専用機は基本的に俺一人で造るんだから、会議の必要は無いだろ」

 

「「あっ……」」

 

 

 一夏が一人で専用機を造れる事を失念していたのか、簪と本音は同時に声を上げた。

 

「そう言えば一夏君、何で箒ちゃんを救い出す時に、真耶さんや紫陽花さんに行かせなかったの?」

 

「あのシステムの出所を探る為と、訓練機を壊されたら大変でしたからね。何処を叩けば確実に止まるか、なんて整備が専門じゃない二人には分かりませんよ」

 

「ですが、もうこれからは危険な事は控えてくださいよ。聞かされた私たちの身にもなってください」

 

 

 現場にいなかった刀奈と虚は、一夏がVTシステムが発動した訓練機に一人で挑んだと聞かされ、顔を蒼くして現場に駆け付けようとしたくらいなのだ。

 

「すみません。一応無事に帰って来たので、今回は許して下さい。また、次があっても一人で突っ込んだりはしないと約束します」

 

「約束ですからね。破ったら許しませんから」

 

「虚ちゃん、何だかお姉さんみたいだね」

 

「実際虚さんは一夏より年上だし、本音のお姉さんなんだからおかしくは無いんじゃない?」

 

「でもさ、普段は一夏君の方が落ち着いてるし、お兄ちゃんっぽいじゃない?」

 

「兄さまは私の兄さまですし、兄っぽくても仕方ないのでは?」

 

 

 だんだんと脱線しかかった雰囲気を、碧が強引に戻す。

 

「それで一夏さん、VTシステムが搭載された訓練機の出所ですが、残念な事に学園に記録は残っていませんでした」

 

「でしょうね。もし残ってたら覚えてたでしょうし、刀奈さんや虚さんだってすぐに見つけられたでしょう。内通者がいるのか、それとも……」

 

「それとも?」

 

「学園にすら尻尾を掴ませない大物が関係しているのか、ですね」

 

 

 一夏の言葉に、数人の息を呑む音が部屋に響いた。そんな中でも、本音は何時もの雰囲気を崩さずに美紀に話しかける。

 

「ねぇねぇ美紀ちゃん。私と部屋変わってくれない? 私もいっちーと同じ部屋が良いな~」

 

「本音ちゃんは簪ちゃんのメイドなんでしょ? それに、部屋の変更は寮長の許可が必要なんだよ? 織斑姉妹に直談判出来るの?」

 

「諦める~」

 

「早い……」

 

「……話を戻しても良いか?」

 

 

 二人の会話を呆れた表情で眺めていた一夏が、そう問いかける。その言葉に美紀は顔を赤らめて頷き、本音は何時も通りの笑顔で頷いた。

 

「今回の件は、一応更識に報告しておきました。情報が入り次第、本音以外の更識関係者には連絡が行くと思います」

 

「ほえ? 何で私以外なの?」

 

「本音に教えてもしょうがないだろ。それに、誰かに話してしまう可能性があるし」

 

 

 一夏の言葉に、本音以外の全員が頷き、本音自身も納得したような表情を見せた。

 

「……ここで納得されるのもおかしな話だが、とにかく今回の件で俺たちが出来ることは、今のところは無いです」

 

「そっか。それじゃあ早速一夏君にご褒美を……」

 

「これから整備室でエイミィの専用機製造の準備ですので、お喋りなら自由にどうぞ」

 

「うわーん! やっぱり一夏君が苛めるよー!」

 

 

 刀奈の冗談をあっさり流して、一夏は本当に部屋から出ていってしまった。

 

「一夏、今日はあんな思いをしたのに、まだ働くんだ……」

 

「仕方ないよ。一夏さんにしか出来ない事なんだし……」

 

「でも、篠ノ之さんを助ける義務は、一夏には無いし、助けるにしたって、その責任は一夏だけが負う必要は無かったはずでしょ?」

 

「確かにそうですね……私たち教員が本来助けに入るべきでしたし、実際に真耶や紫陽花はそうするつもりだったようですよ。それを一夏さんが制してあのような展開になったようです」

 

「ところで、織斑姉妹が来たのって、随分遅かったって聞いてるけど……」

 

「自分の専用機を部屋の何処に保管してたか分からなかったそうです」

 

「何と言うか……千冬さんと千夏さんらしい理由ね……」

 

 

 織斑姉妹が整理整頓を不得手にしているのを知っている刀奈は、納得しながらも苦笑いを禁じえない表情をしており、詳しい事情を知らない他の面々は、織斑姉妹の意外な面を聞かされて、どういった表情をすればいいのか悩んだのだった。




やっぱりダメな姉だな……

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