暗部の一夏君   作:猫林13世

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代表選考会

 ISの世界大会を個人戦とペア戦の二種類で開催するか、それともどちらか一つで開催するかは、大いに揉めていた。代表レベルを三人以上用意出来ない国は一種類、出来れば個人戦だけで開催したいと提案し、代表レベルが多すぎて一人に決めきれない国は、個人戦・ペア戦の二種類で開催すべきだと豪語する。

 そんな中日本では、織斑姉妹と小鳥遊碧が最終選考にまで残っており、このままいけば個人・ペアの両種目で世界を取れるとまで噂されていた。

 

「まさか貴様も代表選考会に来ていたとはな」

 

「ISになど興味なさそうだったのにな」

 

「いや、私個人としては興味なんて無いわよ。でも、折角ご当主様が苦労なさって手に入れたコアを、むざむざと国に返すなんてもったいないじゃないの」

 

 

 本当の理由は、一夏が造ったコアを使ったISを用意出来ると楯無に言われ飛びついたのだが、一夏がコアを造れる事は更識家外には秘密にされているのだ。だから碧はもっともらしい嘘を言ってこの選考会に参加している。

 

「そういう貴女たちだって、例の事件が起こってからはISになんて興味を示して無かったじゃないの」

 

「なに、世界の強者を叩きつぶせる良い機会だからな」

 

「一夏が更識家で生活し始めて二年以上、わたしたちのストレスは溜まる一方だからな」

 

 

 織斑姉妹がモンド・グロッソに参加したい理由は実に分かりやすく、一夏と共に生活出来ない今の状況で溜まりに溜まったストレスを発散したいがためだった。普通に発散するにも、この二人の相手を務められる人間は無く、どうやっても弱い者いじめにしかならないのだ。

 そんな時に舞い込んできた日本代表選考会の話。千冬と千夏がこの話に喰いつかない訳も無く、選考会で情け容赦なく他の候補者を叩きつぶしたのだった。

 

「最終選考でも私と千夏を止められるヤツなどおらんな」

 

「だけど、競技が一種類だけになったら、わたしと千冬で叩きあうのだろう……厄介だ」

 

「ちょっと! しれっと私を候補から外さないでよ!」

 

「貴様など相手にならん。我々の天使を奪った更識の人間など、一切の容赦なく叩き潰す!」

 

「私たちは一夏君の護衛! 奪った相手は貴女たちが叩きつぶしたでしょ!」

 

 

 とんでもない展開になりそうになったので、碧は声を大にして抗議した。一夏を攫ったのは何処かの国の組織で、更識家は一夏を救出し保護しているのだ。感謝されこそあれ、恨まれる筋合いでは全く無いのだ。

 

「しかし、束のヤツがこのまま順調にコアを提供し続けるとは思えんな」

 

「それはわたしも思っている。あの束が今の状況に甘んじるとは到底思えない」

 

「そうなのよね……もし篠ノ之束がコアを造る事を拒んだら、それこそコアの取り合いにでもなりかねない。いくら条例で戦闘行為に使ってはいけないと決められていても、そんなのはいくらでも破れるしね」

 

 

 特に罰則の決められていない条例を護り通すなど、そんなお気楽な考えを持っている連中はほとんどいないだろうと考えている三人。何かしらの罰則を早めに決めなければ更なる危険が一夏に迫ってくるかもしれないのだから、この三人が頭を捻った何かしらの解決策を模索するのは当然だったのかもしれない。

 

『織斑千冬、織斑千夏、小鳥遊碧は至急本部に来るように。繰り返す……』

 

「何やら呼ばれたな」

 

「用があるなら向こうが来れば良いものを」

 

「とりあえず行きましょ。その物騒な殺気はしまって……」

 

 

 自分に向けられているわけではないのだが、濃密な殺気を真横から感じるとさすがに居心地が悪い。碧は織斑姉妹にそう言ってから本部へと向かう事にしたのだった。

 

「来てやったぞ」

 

「何の用だ」

 

「……だから普通に話しなさいよ」

 

 

 織斑姉妹の口の利き方に、碧はため息を堪えられなかった。だが本部の人間は誰一人その事を指摘せずに本題に入ったのだった。

 

「この度、第一回モンド・グロッソは我が日本で開催される事になり、それに伴い競技は個人戦、そしてペアの二種目で行われる。そして貴女たち三人を、我が日本の代表として参加させる事に決まりました」

 

「では我々には『専用機』なる物が配布されるわけだな」

 

「そのとーり! ちーちゃんとなっちゃんのは、この天才発明家の束さんが造る事に決まったからー! 文句がある国はそのまま地図から消えてもらうって脅したから、何処の国からも反発は無いからねー!」

 

「あの、私の専用機は……?」

 

「んー? お前のは更識とかいう組織が造るって聞いたけど? そもそもお前誰だよ」

 

「……同級生の小鳥遊碧です」

 

 

 三年になってからはクラスも一緒なのに、束は碧の事を知らなかった。いや、認識出来ていなかった。昔からの事で、束は千冬と千夏、そして一夏以外の人間への興味はほとんどなく、妹の箒が辛うじて認識出来る程度であり、他の人間は両親だろうと認識出来ないのだった。

 

「愛しのいっくんが生活してる家だから勘弁してやったけど、もしいっくんがいなかったらそんな家跡形もなく消し去ってやったのに」

 

「そうですか……じゃあ私は一旦屋敷へ戻ります」

 

 

 本部の人間に頭を下げ、碧は部屋から退室する。おそらく屋敷で用意すると言う事は、一夏の造ったコアを使うのだろうと、碧は考えながら合宿所を後にした。

 屋敷に戻る為に呼び寄せた車に乗り込み、碧はさっきの束の言葉を思い出していた。

 

「(『愛しのいっくん』ね……誰が原因で一夏君があんな目に遭ったと思ってるのかしら……全て貴女たちの所為でしょうが……)」

 

 

 ISを発表した束、白騎士の操縦者と噂されている千冬、そしてもう一人の姉である千夏。この三人は一夏にベッタリで家事まで任せていた事は調べがついている。碧は、拳を握りしめながら屋敷までの道を車に揺られながら進んで行ったのだった。




千冬も千夏も束も、一夏が基準ですからね……それ以外な事はどうでも良い感じです。

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