暗部の一夏君   作:猫林13世

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仕事が早い……


訓練機の解析

 VTシステムから解放された箒は、紫陽花と真耶に任せ、一夏は箒が使用していた訓練機の解析を始めていた。

 

「元世界王者として、あのシステムはどうお思いなんですか?」

 

「モデルは私だが、今の私と比べれば大したことは無いな。それに、万人があの動きに耐えられるわけが無いから開発は中止になったのだ」

 

「確かに、見た限りでは篠ノ之さんの身体ダメージは相当な物でしたからね。一週間は動けないと思いますよ、普通の体力なら」

 

「あいつは体力バカだからな。わたしや千冬までとは言わないが、二,三日で日常生活に復帰出来るくらいの体力はあるだろう」

 

 

 会話をしながらも、一夏はモニターから視線は逸らさない。織斑姉妹もそれは承知しているし、真剣な一夏の横顔を見て幸せそうな表情をしているので、これはこれで良いのかもしれない。

 

「一夏さん、全生徒に今回の事は口外しないよう指示しておきました」

 

「ありがとうございます、碧さん。刀奈さんや虚さんに、あのISが何時、誰に納品されたのか調べてもらえるよう手配しておきました。分かり次第碧さんに連絡するように言ってあります」

 

「分かりました」

 

 

 箒が使っていた訓練機、あれは更識製のものでは無かった。IS学園で採用している訓練機は全て、更識製のもののはずなのにだ。一夏は解析を進めていくうちに、徐々に眉間に皺を寄せていく。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ……VTシステム自体は、ドイツがラウラの専用機――シュヴァルツェア・レーゲンに積まれていたのとほぼ同じです」

 

「ほぼ? 何処かが違うということか」

 

「ええ。攻撃対象が俺個人に設定されています。しかも、周りに危害が及ぼうがお構いなしの設定ですね。だから最終的に自爆に繋がったのですが」

 

「一夏さんを狙ったという事は、篠ノ之博士は除外されますね。あの人は一夏さんを傷つける事は避けるはずですし」

 

「ですね」

 

 

 そうなるとますます分からなくなってくる。ISのコアを造れるのは一夏と束のみ。いくら訓練機用の大量生産されたコアとはいえ、簡単に入手出来るほど管理は杜撰では無いはずなのだ。

 

「何処の国で造られたコアなのか、世界中の管理システムを調べても分かりませんし……」

 

「一夏さん、それってハッキングなのでは?」

 

「非常事態です。手段は選んでられません」

 

「……暗部の当主候補らしいですよ、今の」

 

 

 こんな時でも、碧は一夏が「本当は当主である」事をバラさないように注意して発言する。これがもし本音だったら、うっかり「当主らしい」と言ってしまいそうだが、そこはさすがである。

 

「だが一夏よ、この件で篠ノ之が大人しくなれば、お前にとっては良かったんじゃないのか?」

 

「大人しくなりますかね? むしろ『幼馴染である私を一夏が助けるのは当然であり、また男が女を助けるのも当然だ!』とか言いそうですよ?」

 

「「……ありえるな、あのバカなら」」

 

 

 なんだかんだ言っても付き合いがそれなりにある箒の事は、一夏も何となくではあるが理解出来るのだ。まぁ、それでも大体の事は理解出来ないし、理解したいとも思っていないのだが……

 

「一夏さん、このコアって前にアメリカが開発してた物に似てませんか?」

 

「アメリカ? ……そう言われれば確かに似てますね。管理システムはあくまでも現在の物しか照合出来ないので気付きませんでしたが、碧さんは良く気付きましたね」

 

「アメリカに知り合いがいるので、電話で失敗作に終わったコアの話を聞いていたんですよ。特徴も何となく聞いていたので、もしかしてと思っただけです」

 

「詳しい資料がもらえれば良いんですが、いくら失敗したからとはいえコアの情報を渡してくれるとは思えませんし……」

 

「何だ、そこはハッキングしないのか?」

 

 

 管理システムをハッキングしてるんだから、そっちもすれば良いではないか、とでも言いたげな織斑姉妹の表情を見て、一夏は盛大にため息をついた。

 

「管理システムとコア開発のデータを同列に見てる時点でダメですが、ハッキングするのがどれだけ難しいか分かってるんですか? 管理システムだけならハッキングされても研究データが盗まれるわけではありませんが、コアの開発データは、例え中止になっている物でも厳重に管理してるんです。我々更識でもコアデータは最重要機密扱いになっていますし、何処の国でもそれが当然です。更識にある私個人のPCからなら可能かもしれませんが、学園にある、何もチューンナップしていないPCではほぼ百パーセント不可能です」

 

「な、なるほど……つまり一夏ならやろうとすれば出来るんだな」

 

「……何を聞いていたのか聞きたいですが、やろうとすれば、ですがね」

 

「とりあえずアメリカが怪しいのは分かった。何なら束に頼んでそのデータを盗み出してもらえば良いんじゃないのか?」

 

「だから……はぁ、もう良いです」

 

 

 何を言ってもダメだと理解した一夏は、織斑姉妹への興味を失い再び解析に集中する。碧がもたらしてくれた、アメリカが断念した物かもしれないという情報から、一夏は今手元にあるデータだけでアメリカが関与しているかを照合する。

 

「確かに……クセはアメリカの物が確認出来ますね。でもそれだけでアメリカが関与していると断言は出来ませんね」

 

「とりあえず、コアがアメリカに関係しているかも、と言う事だけでも収穫じゃないですか」

 

「そうですね。後はこの訓練機が何処の誰が何時納品したのかが分かれば、そこから辿れるんですが……」

 

 

 一夏でも把握していなかった事が、学園の記録に残ってるとは考えにくい。一夏は僅かな希望にかける事にし、とりあえず解析を終了させたのだった。




思考が暗部っぽくなってきた……

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