暗部の一夏君   作:猫林13世

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ますます勘違いしそうですが、一夏はそんなつもりで助けて無いんですがね。


箒救出

 目の前で何が起こったのか、マドカたちには理解出来なかった。早々に脱落したはずの箒が何かを叫んだと思った、次の瞬間には彼女は光に包まれていたのだ。

 

「マドカ、あれって作戦なの?」

 

「いえ、私はあんなの知りません……」

 

「VTシステム、だと……何故あれが訓練機に……」

 

 

 ラウラが呟いた言葉に、マドカとシャルロットが驚きの表情を見せる。

 

「VTシステムですって!? この間兄さまが解除したあれですか!?」

 

「でも、あれって国際条約で禁止されているんだよね? それが何で訓練機に?」

 

「そんな事私にも分からない。今分かる事は、ここが危険だという事くらいだろう」

 

 

 自分がああなっていたかもしれない、という恐怖がラウラを襲っていた。だが不思議と焦りは無く、落ち着いてこの場から退避しようと動けていた。

 

「あの化け物……もしかして千冬姉さまか?」

 

「私の機体に組み込まれていたモノと同じシステムのようだな。お兄ちゃんが組み込むはずが無いから、シュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムを組み込んだヤツが持ち込んだ訓練機なのだろうな」

 

 

 ラウラは自分の機体に組み込まれていたシステムについて、一夏から聞かされていた。その場に一緒にいたシャルロットも、その事は知っている。

 

「いったい誰が、何のために……」

 

「二人とも、SEの残量はどのくらいだ」

 

「僕は三割無いよ」

 

「私も同じくらいですね」

 

「……私もだ」

 

 

 この残量であの化け物を退治出来るなどと、三人は自惚れはしなかった。曲がりなりにも「織斑千冬」が相手なのだ。SEはいくらあっても足りないだろう。

 

「マドカ、ラウラ、シャルロット」

 

「兄さま」

 

「あの機体、一夏の家で造ったヤツじゃないの?」

 

「いや、あの訓練機は更識製じゃない……誰が持ち込んだのか今調べてるが、それよりも先に避難だ。あいつは俺が引き受ける」

 

「でもお兄ちゃん。あれは偽物とはいえ千冬教官をトレースしたもの……勝てるの?」

 

 

 上目遣いで訊ねてくるラウラに、一夏は苦笑い気味に微笑み首を振った――縦にではなく横に。

 

「勝てるなんて言い切れる相手じゃないし、あのシステムの数値が本当なら、少なくとも掠っただけで致命傷になりかねない。とりあえず俺の任務は、生徒たちが避難するまでの時間稼ぎと、篠ノ之を助けだせるか確認する事の二つだ。そのうち織斑姉妹もやってくるだろうしな」

 

 

 暮桜と明椛は、今も織斑姉妹が所持している。だが普段は部屋に放置しているので、準備に手間取っているのだ。その時間稼ぎとして、一夏がこの場にやって来たのだとマドカたちは理解した。

 

「でしたら兄さま、私もお手伝いを――」

 

「ダメだ。マドカたちは急いでピットに戻り、他の生徒たちと一緒に避難するんだ」

 

「だったら兄さまも一緒に……」

 

 

 懇願するマドカの頭を、一夏は優しく撫でた。闇鴉を部分解除して撫でた一夏は、凄く優しい顔をしていた。

 

「俺は生徒会役員だからな。一緒に避難するわけにはいかない」

 

「兄さま……分かりました」

 

「おい!」

 

「兄さま、絶対に無事で帰ってきてくださいよ」

 

 

 一夏に指示に従い、マドカが戦線を離脱する。何か言いたそうだったラウラとシャルロットも、ここにいても役には立てないと判断して戦線を離脱した。

 

「さてと……時間稼ぎくらいはしっかりしないとな……」

 

 

 変形したISに呑みこまれて箒の場所を、闇鴉のセンサーで探る。個人的な感情を優先するのなら、別に助けなくても良いのだが、ISを使った殺人だけはどうしても許せないのが一夏の心情だった。

 

『一夏さん、腹部に反応あり。篠ノ之さんはあの場所にいると思われます』

 

「懐に飛び込んで切り裂いて救出するしかなさそうだな……遠距離攻撃じゃそこまで深い傷を与えられないだろうし」

 

『織斑姉妹が来るまで待ちますか?』

 

「いや、篠ノ之さんの身体ダメージを考えると、そう長い時間待ってられないだろう。『影真似』を使って零落白夜を放てば行けるか?」

 

『「雲隠れ」を併用しても難しいと思われます。相手は偽物とはいえ織斑千冬、世界最強の称号を持つ者です』

 

 

 闇鴉の忠告は、一夏にも分かっていた。だがこのままでは、ISが原因で死人が出てしまう。それだけはどうしても耐えられないのだ。

 

「スピードには対応出来そうだが、あのリーチは厄介だな……」

 

『やっぱりマドカさんたちに手伝ってもらった方が良かったのでは?』

 

「今更そんな事を言うなよな……」

 

 

 闇鴉の言う通り、マドカの白式なら確実にあの化け物の腹部を切り裂き、篠ノ之箒を救い出す事は可能だっただろう。もちろん、一夏や他の二人が注意を惹き付ける事が前提での作戦ではあるが。だが一夏はマドカたちに危険が及ぶのを嫌い、自分がそれを引き受けたのだ。

 

「一か八か、飛び込んで救出を試みるか……すまんな、闇鴉。何時も危険な目に遭わせて」

 

『私は一夏さんの専用機ですし、一夏さんが危険に飛び込むのは何時も、大切な人を守るのとISを助ける時ですからね。そのお手伝いが出来るのであれば、私は何処までもお供しますよ』

 

「助かる……」

 

 

 一瞬だけ瞼を閉じ、次に開いた時の一夏の目は本気だった。先に相手に攻撃をさせ、それを回避して懐に飛び込み零落白夜を放つ。狙う場所はコアでも、篠ノ之箒がいる場所でも無く、このISを停められる場所だ。

 既に解析を済ませていた一夏は、何処を狙えば停められるかに見当をつけていた。もちろん一撃で停められない可能性もあったので、一夏と闇鴉はあのような会話をしていたのだ。

 

「「一夏っ! 避けろ!!」」

 

「分かってます!」

 

 

 救援に来た織斑姉妹の声に反応して、一夏は回避行動を取る。やはり一撃では停められず、反撃を試みたのだろう。一夏はその攻撃をギリギリで躱し、その勢いを利用して相手を倒した。

 

「後の事はお任せします」

 

「ああ、ご苦労だったな」

 

「篠ノ之は保健室に運んでおく。コアは真耶に渡しておくぞ」

 

「そうしてください。おそらく何処の物か分からないでしょうけどね……」

 

 

 訓練機のコアは量産されているものだし、プログラムから割り出すのも不可能だと理解している。一夏は闇鴉を解除し、アリーナから部屋へと向かったのだった。




まさかの自爆……実に箒らしい、のか?

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