暗部の一夏君   作:猫林13世

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怒るのも無理は無い……


一夏の苛立ち

 シュヴァルツェア・レーゲンに積まれたVTシステムの解除を行っている一夏の許に、美紀が飛び込んできた。整備室自体は解放された空間なので誰でも入って来れるのだが、一夏が使用している時は特別なパスワードを入力しなければ入ってこれないので、誰かが入ってきても一夏は更識関係者だと分かるので身構える事は無いのだが、さすがに今回はビックリした様子で振り返った。

 

「美紀、何かあったのか?」

 

「あっ、あの……今お父さんから電話がありまして……」

 

「楯無さんがどうかしたのか?」

 

 

 この空間に盗聴器などが無い事は確認済みだが、念には念を入れて一夏は「尊」と呼ばずに「楯無」と呼んだ。

 

「フランス政府からの報告で、前デュノア社社長とその家族が遺体で発見されたって」

 

「……自殺、じゃないよな?」

 

「明らかな他殺体だとの報告です。残虐非道の限りを尽くした殺し方だと……映像があるようですけど、私は見れませんでした」

 

「普通の女子高生には無理だろうな。ありがとう、そこに置いといてくれ」

 

 

 美紀を労い、一夏は一先ずシュヴァルツェア・レーゲンのシステム変更作業を中断して、美紀が置いて行った映像を見る事にした。

 

「これは……酷いな……」

 

 

 顔の識別が不可能な程ズタズタにされた顔が映り、さすがの一夏でも顔を顰めた。まさかここまでハッキリと映った映像だとは思っていなかったのだ。

 

「これはこれは……」

 

「闇鴉、何か分かるのか?」

 

「巧妙に隠していますが、ISで与えられた傷が幾つも見られますね。少なくとも殺人者の一人は女性、ISを持っていると思われますね」

 

「同じISだから分かるのか? この映像では俺には分からないが……」

 

「直視出来ない以上判別は無理ですよ。人間の心を持たない私だから判別出来ただけです」

 

「そうか……ISを使って殺人を犯すなど、許せないな……」

 

 

 本来篠ノ之束が開発した目的からも逸脱している現在のISだが、それでも戦争で使用しない、人を殺す為に使わないと決められていたので一夏も口を挿む事はしなかったのだ。だが今回、闇鴉の分析でISを使った殺人が行われたと判明したので、一夏の心は怒りで満ちていた。

 

「一夏さん、私たちの為に怒ってくれるのは嬉しいですが、犯人が分からない以上捕まえる事は出来ません。フランスにいる更識所属の方々にこの件を報告し、何か分かれば伝えてもらうように手配しましょう」

 

「……そうだな。現地にいないんだから何もできないな。すまない、闇鴉……ちょっと冷静さを失ってた」

 

「いえ、一夏さんがISの事を思ってくれているだけで私は嬉しいですから」

 

 

 一夏は懐から携帯を取りだし、尊に暗号メールを送る。表向きのトップは尊なので、一夏は直接命令を下す事はしないのだ。

 

「さてと、フランスの問題は尊さんに任せるとしても、ドイツのこの問題はさすがに見逃せないな……織斑千冬を模したヴァルキリー・トレース、そんなものを普通の人間が発動させれば四肢が千切れ去ってもおかしくないんだぞ」

 

「ISの自由も無くなりますしね。操縦者が死ぬ確率はかなり高いでしょう」

 

「闇鴉、このデータを保存しておいてくれ。後でPCに移すまでで良いから」

 

「はい、記憶しました」

 

 

 シュヴァルツェア・レーゲンに組み込まれていたVTシステムのデータを複写し、一夏は完全にそのシステムをシュヴァルツェア・レーゲンの中から排除した。

 

「他にはおかしいシステムはなさそうだな……システムのアップデートをしてラウラさんに返すとするか」

 

「シュヴァルツェア・レーゲンも喜んでいますよ」

 

「一応聞こえてるから分かってるが、やはり闇鴉の方がハッキリとシュヴァルツェア・レーゲンの声が聞き取れるんだな」

 

「普通の人はISの声すら聞こえないんですから、一夏さんは自信を持って良いんですよ」

 

 

 最終チェックを終え、一夏は整備室から移動してラウラの部屋へと向かう。途中寮長室によってドイツ政府に対する抗議文章に署名して欲しいと頼むと――

 

「一夏のお願いを断る訳が無い!」

 

「一夏に頼まれるなら、抗議文章だろうが連帯保証人だろうがなんだってサインするぞ!」

 

 

――とバカな事言う姉二人に説教をしたのだった。

 バカ二人に説教をしていた所為で、一夏がラウラたちの部屋に到着したのは夕食時だった。

 

「失礼、ラウラ・ボーデヴィッヒさんはご在室ですか?」

 

『はーい、今開けます』

 

 

 中からラウラのものとは違う声が返って来たが、その声の主が誰なのか分かっている一夏は身構える事無く扉が開かれるのを待った。

 

「いらっしゃい、一夏。ラウラなら今シャワー浴びてるからちょっと待ってね」

 

「いや、出直す事にしよう。さすがに女子の部屋で待つのはちょっと……」

 

「一夏のルームメイトって四月一日さんなんでしょ? だったら今更だよ。それに僕は、一夏の部下なんだからさ」

 

 

 それが何の根拠になるのか一夏には分からなかったが、わざわざ出直すのも面倒だったので部屋に入る事にした。

 

「一夏って凄い人なんだね。僕、改めて尊敬するよ」

 

「別に大した事は……ラウラ? 何で裸なんだよ?」

 

「私はシャワーを浴びてから暫くは服を着ませんので」

 

 

 恨みがましい目をシャルロットに向けると、両手を合わせて頭を下げていた。

 

「これ、例のシステムは完全に解除しておいたからな」

 

「ありがとうございます『お兄ちゃん』」

 

「「お、お兄ちゃん!?」」

 

 

 ラウラの一言に、一夏とシャルロットの声がハモったのだった。それくらい衝撃の大きい一言だったのだ。




誰が殺ったのかは追々説明します。

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