暗部の一夏君   作:猫林13世

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ドイツの問題

 模擬戦を終えたラウラの許に、闇鴉を解除した一夏が訪ねてきた。

 

「何か用か?」

 

「いえ、その専用機――シュヴァルツェア・レーゲンに禁止されているシステムが搭載されている可能性があるんですが」

 

「禁止されているシステム? いったい何の事だ」

 

「VTシステム、と言えばお解りになられますか?」

 

「VTシステム――ヴァルキリー・トレース・システムだと!?」

 

 

 ラウラもIS乗りとして一応の知識は持ち合わせている。だから一夏が言いたい事もだいたい見当はついていた。

 

「貴女も同意してこのシステムを搭載させたのかと思いましたが、今の驚き方は知らなかったようですね。VTシステムは操縦者に著しくダメージを与える可能性がある為、研究開発は禁止されています。そのシステムがシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されている可能性がある」

 

「何故そんな事が分かるんだ? 三十分戦ったくらいで」

 

「私はISの整備も担当していますので、違和感を覚えたんですよ。それで模擬戦の後半はシュヴァルツェア・レーゲンの解析を行っていました」

 

「……真面目に戦っていなかったと言うのか」

 

「いえ、回避行動は真面目にやらないと危ないですから、集中はしていました。ただ攻撃に割く余裕は無かったですけどね」

 

 

 苦笑い気味の笑顔を浮かべる一夏に、ラウラは肩の力を抜いて会話を続けた。

 

「つまり、攻撃する意志が無かったお前に、私は勝てなかったと言うのか」

 

「避ける事には必死でしたよ。少しでも解析に意識を集中させたら危なかったですし。だから時間がかかりました」

 

「……で、そのVTシステムの起動条件は何なのだ?」

 

 

 のらりくらりと躱されるので、ラウラは模擬戦に関して追及する事を諦めてVTシステムの話題に切り替える。その切り替えに応じて、一夏の表情に厳しさが増した。

 

「おそらくですが、貴女が更なる力を欲した時、でしょうね。実際に調べてみなければ分かりませんが、織斑千冬の動きをトレースした設定になってるでしょう。並みの人間が織斑千冬と同じ動きをすれば、全身にかなりの負担が掛かります。それを自分の意思とは関係なく行わされれば、最悪日常生活にも支障は出るでしょう。ましてやISの力も加味されれば、最悪全身がバラバラになるくらいの衝撃です」

 

「……何故ドイツ政府はそんな大事な事を私に黙っていた」

 

「貴女が試験管ベビー――つまりドイツ政府にとっては使い捨ての駒だったから、かもしれませんね。貴女は人では無く駒、と思われていたのでしょう」

 

 

 一夏の言葉に、ラウラは衝撃を受け膝をついてしまう。それくらい衝撃的な事であり、自分が人間とは思われていなかったのだと実感させられたのだ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒさん」

 

「……何だ?」

 

「貴女は何者ですか?」

 

「………」

 

 

 一夏の問いかけに対する答えを、ラウラは持ち合わせていなかった。たった今自分は人間ではないと思い知らされたばかりで、名前も単なる識別表記に過ぎなかったのだと思い知らされたのだから。

 

「何者でもないのなら、貴女は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』になればいい。ここはドイツでも無ければ貴女の出自を知っている人間ばかりでは無い。私は特殊な立ち位置なので知ってますが、あと貴女の事情を知っているのは織斑姉妹と小鳥遊碧くらいです。それなら貴女は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』として生活出来るでしょう。VTシステムは更識の方で解除しますので、一時的にシュヴァルツェア・レーゲンを預かりたいのですが」

 

「……何故お前はそんな風に考えられる? 何故そこまで強い心を持っている?」

 

「私も過去に色々ありました。貴女と同じようにとある人物に対して強いトラウマを持っています。ですが、そんな私を支えてくれる人たちがいましたので、だから私は強くいれたと思います。貴女も支えてくれる人を探し、強く生きてください」

 

 

 少し恥ずかしそうに笑いながら、一夏はラウラに手を伸ばした。専用機を手渡すように求められたと勘違いしたラウラは、待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを一夏に差しだした。しかし一夏は笑いながら首を横に振り、シュヴァルツェア・レーゲンを受け取ってからラウラの手を掴んだ。

 

「微力ながら。私も貴女が強くいられるようにお手伝いしますよ。もちろんクラスメイトや更識所属の人間も貴女を支えてくれるでしょう。ドイツにも貴女を慕ってくれる人や心配してくれる人がいるかもしれませんが、そういった人は多い方が良いでしょ?」

 

「……完敗です。貴方はIS戦闘や頭脳戦だけではなく、心も強く偉大だ。貴方に敵対意識を持っていた自分が恥ずかしいです」

 

「誰かに認められたいと願った結果、私が邪魔だったのでしょう。ですがそう思う事も間違いではないと思いますよ。思うだけなら自由です。誰にも迷惑はかけていませんから。ただし、実行に移すのはダメですからね」

 

 

 そう言い残して一夏はシュヴァルツェア・レーゲンを持ってピットから出ていった。そんな一夏を見送ったラウラは、懐から携帯を取りだした。

 

「クラリッサ、私だ」

 

『どうかしましたか、隊長』

 

「更識一夏と話したのだが、こう……心がぽかぽかした感じがするのだが、これは何だ?」

 

『どのようなやり取りの後で、そんな感じになられたのですか?』

 

 

 ラウラは一連のやり取りをクラリッサに伝えた。するとクラリッサは一通り絶叫した後にラウラに告げる。

 

『それは妹を心配するお兄ちゃんですよ! 更識一夏さんの事を「お兄ちゃん」と呼んでみるのは如何でしょうか?』

 

「お兄ちゃんか……」

 

 

 常識に疎いラウラは、こうして間違った知識を与えられるのだった……




新たな問題が発生したような……まぁいいや。

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