暗部の一夏君   作:猫林13世

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原作のようなとげとげしさは何処にもありません。


ラウラとの模擬戦

 一夏との模擬戦を前に、ラウラ・ボーデヴィッヒはピットで瞑想をしていた。尊敬する織斑千冬・千夏姉妹が溺愛する弟であり、噂ではイギリス代表候補生であるセシリア=オルコットを瞬殺したほどの猛者を相手に、ラウラは彼女には似合わず興奮していた。

 

「教官の弟と言うだけでも楽しみだが、形だけでも候補生であるあの金髪を瞬殺した実力……そして更識製の専用機の能力、この身で体験させてもらう」

 

 

 軍属とはいえ彼女も候補生、いずれは更識製の専用機持ちと戦う日が来るだろう。その日の為にも一夏との模擬戦は是非とも体験したかったのだろう。ラウラは待ち合わせの三十分前からピットに入り、そして一夏の到着を待っていた。

 

「おまたせ……待たせちゃったかな?」

 

「いや、私が早すぎただけだ。まだ時間前だし問題は無い」

 

「そう言ってもらえると助かる。織斑姉妹や刀奈さんたちを何とか宥めてモニター室で勘弁してもらってたんだ」

 

 

 おそらくはアリーナかピットまでついて来るつもりだったのだろうと、ラウラも一夏の疲れ具合から想像出来た。

 

「貴様は何故そこまで織斑教官に想われている? 何故私よりお前の方を取るんだ?」

 

「何故と言われても……記憶を失っているから、何であそこまで溺愛してるのか俺にも分からない。血縁だから、って事もあるんだろうけどな」

 

 

 少し遠い目をした一夏に、ラウラは頭を下げる。

 

「すまない。記憶喪失だという事は聞いていたのだが、その事を失念してしまっていた」

 

「ああ、別に構わないさ。特に不便だと思った事は無い……いや、一個だけあったな」

 

「それは?」

 

 

 不便は無い、と言いかけて一つだけあると言った一夏に、ラウラは純粋な興味で質問をした。

 

「小学生の頃、篠ノ之箒が必要以上に俺にかまってきた理由が分からないんだ。周りの話では記憶を失う前からそれ程親しかった訳では無いそうなんだよ……なのに記憶を失った俺に必要以上に近づき、そして周りから人を遠ざけようとした理由がな……」

 

「それは、貴方の特別になろうとしたのではないか? 私も本当は貴方を排除して織斑教官の特別になろうとしたからな」

 

「……そんな考えは出て来なかったな。しかし、俺を排除しても織斑姉妹にはマドカがいるぞ」

 

「そのようですね。ですので私は、貴方の実力を知る事にした。教官に認められている貴方に近づき、少しでも教官に近づこうと!」

 

「……正直に言うのは悪い事では無いですが、それをはっきりというのはさすがに……まぁ良いですけど」

 

「?」

 

 

 世間に疎いラウラは、一夏が何を懸念しているのか分からない様子だった。時間になったので一夏は自分のピットに移動して、互いにISを展開してアリーナへと出ていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニター室では、織斑姉妹と更識姉妹、布仏姉妹に美紀、そして碧といった面々に見られながら、真耶がモニター操作をしていた。

 

「何で私が……デュノアさんの再転校の手続きとか色々書類が溜まってるんですけど……」

 

「三十分くらい問題無いだろ。そもそもお前がとろいから仕事が溜まるんだろ」

 

「わたしたちは既に仕事は終わらせているからな」

 

「貴女たちは真耶に仕事を押し付けたからでしょ。ちゃんと自分でやった方が良いですよ」

 

「そのうち一夏君にバレて、怒られるかもしれませんし」

 

「「一夏に怒られるだと!?」」

 

 

 碧と刀奈の言葉に、織斑姉妹は驚き――何故か恍惚の笑みを浮かべている。

 

「ねぇねぇかんちゃん、千冬先生と千夏先生は何で嬉しそうなの?」

 

「さぁ? 美紀は分かる?」

 

「ううん、分からないかな……気にしちゃダメな事だよ、きっと」

 

「気になるな~……おね~ちゃんは分かる?」

 

「いえ、私にも分かりません」

 

 

 本音以外は全員何故織斑姉妹が恍惚の笑みを浮かべているのかに見当はついているが、それを本音に教えるわけにはいかない。ある意味純粋な本音は、その事を周りに言いふらす可能性が高いのだ。

 もちろん、言いふらしたところで悪いのは本音では無く、人前でこんな顔をしている織斑姉妹なのだが、この姉妹にとってそんな事は関係なく、自分たちの失態を言いふらした本音に制裁を加えるだろう。当然その時には一夏にも話が伝わっているだろうし、一夏なら本音が悪くないと弁護してくれるだろう。そうなると本当に織斑姉妹は一夏に怒られるわけで、それが制裁では無くご褒美になってしまうので黙っているのだ。

 

「あれがドイツの第三世代IS、シュヴァルツェア・レーゲンですか」

 

「なかなか強そうですね」

 

「まぁ一夏君なら問題ないでしょ。現に一発も攻撃当たって無いし」

 

「珍しく観察してる。本当にデータ収集をするつもりなんだね」

 

「一夏さんなら直接対戦しなくても、私たちの誰かとボーデヴィッヒさんとを戦わせればデータ収集出来るんですけどね」

 

 

 偶々一夏自身が模擬戦を挑まれたからこういう形でデータ収集をしているのだと、更識所属の面々はちゃんと理解している。だが織斑姉妹と真耶は一夏の観察眼がそこまで優れているとは知らなかったようだ。

 

「見ただけで分かるのか?」

 

「さすがにわたしや千冬も、見ただけでは強さは分からん。強いか弱いかは分かるが」

 

「生徒より分析能力に劣る私って、やっぱり教師に向いていないんでしょうか……」

 

「一夏さんが特殊なだけで、真耶は頑張ってるわよ……多分」

 

「多分っ!? 碧先輩、それって慰めてませんよね!?」

 

 

 モニター室でごたごたしている間に、一夏がラウラの一瞬の隙を突いてSEを削っていた。そしてタイムアップを迎え、SE残量で一夏が勝利したのだった。




真耶が哀れだ……

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