暗部の一夏君   作:猫林13世

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まだまだ続く一夏君への脅威……


新たなる脅威

 一夏が更識家で世話になり始めて二年が経った。その間は特に大きな事件は起こらなかった――いや、世界からすれば起きているのだが、一夏の周りのみで言えば平和だったのだ。

 この二年で世界は大きく変わり、女性優先社会へと変貌を遂げ、今では女尊男卑などという言葉すら常識的に使われるようになっている。

 ISが発表され、各国でIS産業が盛んになり始めた結果なのか、近々ISの世界大会を開催してはどうかとすら言われているくらい、各国での生産合戦は激しさを増している。

 楯無が一夏がコアを造れるという事を更識内の秘密とし、口外する事を禁じたおかげで、今のところ一夏がISのコアを造れる事を知っているのは更識家の従者、ないしは侍女たちだけだ。

 

「小鳥遊も今年で高校は卒業だな。大学には進学しないのか?」

 

「はい。金銭的問題もありますが、一夏さんの護衛を正式に拝命しましたので、そちらを優先させたいのです」

 

「彼ももう三年生か……記憶が戻りそうな兆候は無いのか?」

 

「はい。一夏さん自身も思いだそうとしておりませんし、千冬・千夏両姉も接触は控えておりますので」

 

「そうか」

 

 

 今や千冬・千夏は日本におけるIS操縦者の一,二を争う実力者となっている。相変わらず一夏に接触しようとしていたのだが、碧が頑なに許可しなかったおかげでここ数ヶ月はその話題にはなっていない。

 

「篠ノ之束はどうだ? その後変わった動きは」

 

「今のところはISのコアを各国に配布する事に協力的ですが、気まぐれらしいので何時供給を止めるかと彼女の周りではそんな事を囁かれているとか」

 

「そうなるとますます一夏君がコアを造れると世間に知られるわけにはいかないな」

 

「そうですね。せめて一夏さんがもう少し成長して、自分の身を最低限守れるようにならなければなりませんし」

 

「一応娘たちの分と君の分のコアは一夏君は製造してくれている。時を見て君たちのISを製造しようと更識で考えているのだが……」

 

「それは初耳ですが」

 

「あくまで計画段階だからな。本人に伝える必要は無いだろ?」

 

 

 楯無にそう問われ、碧は無言で頷く。確かに決定したわけでもないので、本人に伝える必要性は低い。そして自分は一従者なので、計画段階の事を知る必要性はかなり低いのだと。

 

「一夏君は何時でも造りたいと思ってるのかもしれないが、まだ技術者が育っていないからな」

 

「一夏さんは素直に成長してくれてますし、刀奈お嬢様や簪お嬢様との仲も良好ですしね」

 

「相変わらず私に会う時は刀奈の後ろに隠れているがな」

 

「仕方ありませんよ。学校の教師ですら、一夏さんは接触するのを避けようとしていますし」

 

「そうだな。それで、例の問題児はどうなっている」

 

「篠ノ之箒はこちらの圧力にも屈せずに相変わらず一夏さんにちょっかいを出しています。千冬・千夏の制裁を受けてなお、一夏さんに近づく根性はあるようですが、それが一夏さんの迷惑になっているとは考えていない模様ですね」

 

「やはりあの計画を政府に実行してもらうしかないのか」

 

「あの計画……とは?」

 

 

 出過ぎた質問だとは碧も思ったが、彼女は一夏の護衛として彼に害をなす相手を片付ける事が最優先になっている。いくら楯無とはいえ、一夏の自由を奪おうとするならば、碧は戦うつもりだった。

 

「篠ノ之箒に重要人物保護プログラムを適用出来ないかと思ってな。重要度で言えば、一夏君とさほど変わらないはずだからな」

 

「確かに、篠ノ之束の妹という立場は危険が伴うでしょうね。それに篠ノ之箒は我々のように護衛が付いているわけでもありませんし」

 

「前々から政府にかけ合ってはいるのだが、今のところは篠ノ乃束は世界に協力的なので、篠ノ之箒を襲おうなどと考える輩もいないだろ、と言う事で却下されているのだが、な」

 

「篠ノ之束が非協力的になれば、篠ノ之箒を護る必要性が高くなる、と言う事ですか」

 

「そうだ。もし世界大会などが開催され、国ごとの力の差が歴然となった場合、何処かの国がコアを優先的に欲する可能性もあるのだ。ましてや日本はIS産業でトップクラス。腹いせに篠ノ之箒を攫い束にコアを要求する国もあるかもしれないからな。まぁ、そんな輩が大勢いるのなら、一夏君も危険に曝されてしまうのだが」

 

「一夏君の姉は日本におけるIS操縦者のツートップですからね」

 

 

 碧のセリフに楯無は頷いて答える。織斑千冬・千夏の弟というだけで、一夏が狙われる可能性だって大いにあるのだ。無論護り通すつもりだし部下にもそう伝えているが、万が一という事は何事にもあるのだ。

 

「篠ノ之束がコア製造を辞め、そして世界大会で日本が優勝でもしたらそんな事もあり得るかもしれんがな。一応、頭の隅にでも留めておいてくれ」

 

「御意」

 

 

 楯無から色々と聞かされた碧は、頭の中での整理が追いつかずに混乱していたが、退室の際にしっかりと一礼はした。その事に楯無は満足そうに一度頷いたが、彼の顔色も晴れてはいなかった。

 

「モンド・グロッソ、か……この計画は中止になってもらいたいものだ。私の息子の為に……」

 

 

 楯無の中で、一夏は完全に更識の子供として定着している。血のつながりは無いが、一夏を実の息子のように可愛がっている。それこそ、実の娘である刀奈と簪と同等に。娘のように可愛がっている虚や本音、美紀と同様に。

 だがそんな楯無の思いも虚しく、ISの世界大会たるモンド・グロッソは開催の方向で世界的に進んでいくのだった。そしてそのルールは、個人戦とタッグマッチの二種類が検討されているのだった。




いきなり飛びましたが、こうでもしないと永遠に本編に入れない気がしたので……

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