一日で帰って来た一夏たちを、クラスメイト達は温かく迎えてくれた。
「お帰りなさい、一夏君」
「ただいま。ちょっと強行軍だったけど思い通りに事が進んだ」
「内容は知らないけど、一夏君たちに掛かれば何でも思い通りになるんじゃないの?」
「静寐は更識を何だと思ってるんだ……無理な事だって当然あるさ」
HRまでの僅かな時間をクラスメイトとの談笑の時間にあて、一夏は彼女の登場を待った。
「はい、皆さん。今日は転校生――というか、正式に転校してきた子を紹介します」
「皆さん、改めて初めまして。更識企業フランス支部支部長・シャルロット・デュノアです。訳があって男子として編入しましたが、すぐ一夏たちに見破られ、そして僕の家の問題を一夏たち更識企業が解決してくれたおかげでこの場所に戻ってこられました。これから三年間この学園で勉強し、卒業後は更識の支部長の名に恥じない働きをしたいと思っています。これからよろしくお願いします」
シャルロットの自己紹介に、クラス中から一夏へと視線が向けられた。その視線を遮るように美紀が一夏の側に移動し、そして説明役を買って出た。
「私たちが昨日学校を休んだ理由は、更識企業とデュノア社の間にあった契約が原因だったんです。デュノア社が更識企業に対して反逆とも取れる動きを見せたので、前々から調査していて、一昨日シャルロットさんが『男子』として編入してきた事で違約行為が確定し、その制裁の為にフランスまで行っていたのです。そこでデュノア社に対する報復として、デュノア社は更識企業に併合、前社長は解任の運びとなり、新たにシャルロットさんをトップとする企業に生まれ変わりました。もちろん、シャルロットさんは学生なので三年間は更識から人を派遣していますが、卒業後はシャルロットさんが言ったように彼女に頑張ってもらう予定です」
「でも、それって更識君の一存で決められる事なの?」
「一夏さんは現当主の名代として活動した実績もありますし、日本・フランス両政府との交渉役も務めました。更識企業も旧デュノア社も一夏さんの決定に逆らうつもりはありませんでしたし、日本・フランス両政府もこの決定に異議は申し出ませんでした」
実際は一夏が脅してフランス政府を黙らせたのだが、それは教える必要の無い事なので美紀は黙っていた。
「併合したからと言って、更識企業がフランスに肩入れするわけではありません。まぁ、その企業から代表に選ばれたのなら仕方ありませんがね」
「どういう事ですの?」
イギリス代表候補生であり、同じヨーロッパの国の事が気になったセシリアが美紀に問いかける。
「今回の併合に伴い、シャルロットさんは候補生の地位を辞して新たな人を推薦しました。イタリア代表候補生の身でありながら自由国籍を希望していたアメリア=カルラさんが更識企業の推薦でフランス国籍を取得、そして空いた候補生の地位に着きました」
「では、ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡはそのアメリアさんがお使いに?」
「いえ、このラファール・カスタムはシャルロットさんがIS学園在籍の三年間は使用いたしますので、アメリア=カルラさんの専用機は更識で用意する事になりました。フランスの候補生ではありますが、アメリア=カルラさんは更識所属とみなされますので抗議などはフランス政府では無く更識企業にお願いします」
国同士なら色々と問題が発生しただろうが、一夏はそれを避ける為にエイミィを更識所属扱いするように根回しをしている。その上で自由国籍を取得させフランスの候補生の地位を確立させたのだ。
「ですが、フランスにコアが増えるのを他国が黙ってるとは思えませんが……」
「各国に配布されているのは篠ノ之束博士が造ったコアです。お忘れかもしれませんが、更識所属のISは独自開発されたコアを使用しています。だから更識所属のアメリアさんに専用機を造ったとしても、それは国に付随するものでは無く個人に付随するものとなります。各国に配布されたコア数に変動はありません」
「つ、つまり……更識所属になればコアの問題を気にする事無く専用機を与えられるという事ですの?」
「気にする事無く、とまでは行きませんが、比較的簡単に専用機を所持する事が可能です。貸出では無く所持ですので、ややこしい政府との契約も存在しません。現に候補生ではない本音が専用機を持っているのは更識所属だからです。もう一つ言えば、引退した碧さんが専用機を持ったままなのもその為です」
織斑姉妹も専用機を所持したままだが、これは日本政府からでは無く篠ノ之束個人から二人に贈られたものだからだ。つまり日本政府が所有しているコアの中に、織斑姉妹の専用機や更識所属の専用機のコアは含まれてはいないのである。
「では、何故そのアメリア=カルラさんなのですか? 他の人でもよろしいのではありませんか?」
「ええ、問題はありません。なのでアメリア=カルラさんなのです」
「どういう事ですの?」
「彼女は私たちを通じて一夏さんに相談していたのです。丁度デュノア社の問題があったので、タイミング良くアメリアさんは更識の力を借りる事が出来ただけです。もし相談していたのが相川さんや鷹月さんだったとしても、同じ結果だったでしょうね」
ようはタイミングだけだと説明した美紀に、クラス中から相談しておけばという空気が醸し出されたのだった。
タイミングって大事ですね……