暗部の一夏君   作:猫林13世

127 / 594
かなりの強行軍だ……


解任と就任

 更識が所持している飛行機で、一夏と美紀とシャルロットはフランスへ来ていた。もちろん他の更識関係者も来ているが、矢面にたって交渉――というか制裁を加えるのは一夏なのだ。

 

「大丈夫なの? 僕が言うのもなんだけど、デュノア社って結構黒い噂が付き纏ってるんだけど」

 

「別に問題は無いですよ。噂程度の黒さなら、更識には敵いませんから」

 

 

 そう言って一夏は、アポも取っていない会社に乗り込んだ。当然の如く受付では止められそうになったが――

 

「重大な契約違反が発覚した為、至急デュノア社長に説明を求める。拒否する場合は肯定とみなし制裁を実行する」

 

 

――と一夏が告げると、慌てたように社長への取次を行ってくれた。

 

「ねぇ、一夏って何者なの?」

 

「一夏さんは一夏さんですよ。普通――とは少し違いますが、私たちとあまり変わらない一人の男の子です」

 

「うーん……あんまり変わらないって事はなさそうだけどな……」

 

 

 訝しむシャルロットを他所に、一夏たち更識関係者は社長室へと案内される事になった。

 

「どうもあっさりと入れてくれたな……」

 

「一夏さんがあんな脅しをするからでは?」

 

「いや、契約違反と言っただけで、それが何か向こうには分からないはずなんだが……シャルロットさんの存在は会社中に知られているのですか?」

 

「いや、ごく一部の人間にしか知られてないはずだけど……」

 

 

 シャルロットの存在が受付の人間にまで知られているのなら、今回の対応は多少なりとも納得は出来たのだが、彼女が言うには存在は知られていないという。一夏は罠の存在を警戒しながらも、社長室の扉を開いた。

 

「ようこそ、更識企業の皆さん。それで、重大な契約違反とは?」

 

「……替え玉か」

 

「な、何の事ですかな?」

 

 

 社長室で待っていた男を一目見て、一夏は背後の更識所属の人間に二、三指示を出して男の前へ移動する。

 

「ちょっとした特殊能力みたいなものでして、私は一度見た相手の特徴などを一瞬で記憶出来るんですよ。貴方はデュノア社長より一センチ弱身長が高いんですよ。それに、声も上手く似せてはいますが若干高い。さて、本物のデュノア社長は何処へ雲隠れしたのですか?」

 

「わ、私が本物のデュノアだ」

 

「そうですか……シャルロットさん、この人は貴女の父親ですか?」

 

 

 今まで一夏の背後に隠れていたシャルロットの姿を確認して、偽社長は驚いた表情を浮かべた。

 

「何故……何故貴様がここにいる……」

 

「この人は僕の父親じゃないよ。専務の禿げ親父だ」

 

 

 被っていたカツラを取りシャルロットが宣言する。替え玉だとばれた専務は大人しく一夏の前に歩み寄り、頼まれた事全てを話したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局デュノア社長とその家族は既に逃げ出した後で、追いかけるのは面倒だと一夏が判断した為に追跡隊は編成されなかった。だが専務以下秘密を知っている人間全てが更識への反逆行為を認め、その指示はデュノア社長自ら下したものだと証言した。

 

「違約行為を確認、これよりデュノア社は更識企業の傘下とする。前任のデュノア社長は解任とし、後任としてシャルロット・デュノアさんを指名します。ただし、シャルロットさんは学生の為、向こう三年間は学業に専念してもらう為に、指示は日本から出します。フランス政府にお願いして、デュノア社長一家が持っているデュノア社の株は無効としてもらいますので、横から口を出される事も無いでしょう。あぁ、専務以下今回の反逆に加担した人は、暫く減俸処分ですのでお覚悟を」

 

「わ、私たちも会社に残れるのですか!?」

 

「積極的に反逆に加担したのなら兎も角、調べた結果社長の独断で進められていたようですし、止めなかったのは問題ですが、貴方たちが止められたとも思えませんしね」

 

 

 一夏の辛辣な言葉に、専務たちは下を向く。職を失わなかった嬉しさと、無能扱いされたような苛立ちでどういった顔をすればいいのかが分からないのだろうと一夏は思った。

 

「技術者の皆さんには、これまで通り働いてもらいますが、更識から派遣する技術者の方々の指示に従ってもらいます。三年間で基盤を造り、それ以降はシャルロットさんの経営に基本的お任せしますので、その点をご理解いただきたい」

 

 

 更識の技術が学べると伝えられた技術者たちは、自分たちより大分年下の一夏に苛立つどころか感謝し始める。それだけ「更識の技術」というのは魅力的なのだろう。

 

「ではこの時点を以って、デュノア社を更識企業の傘下にします。経営などはとりあえず今まで通りお願いしますね」

 

 

 専務たちに一言告げ、一夏はシャルロットを前面に押し出した。社長就任の挨拶と共に、一夏が計画していた事を発表させる為だ。

 

「えっと……この度社長に指名されました、シャルロット・デュノアです。前社長の隠し子としてこの会社を頼り、そして反逆の道具として使われそうになったところを一夏に助けてもらい、この子・ラファール・リヴァイブ・カスタムの所有権も認めてくれました。私は、この時を境にフランス代表候補生の地位を辞し、デュノア社社長に就任する事をここに宣言します。また、私の後任として、現イタリア代表候補生であるアメリア=カルラさんを推薦し、デュノア社が彼女の自由国籍の取得、及びフランスでの活動を全面的にバックアップする事を重ねて宣言します」

 

「政府との交渉は更識が行いますので、皆さんは新しい候補生のバックアップだけを気にしてください」

 

 

 シャルロットの後を引き継いだ一夏が笑顔でそう告げると、技術者や専務たちは急に寒気に襲われた。底冷えのする一夏の笑みに、逆らったら消されると本能的に理解した瞬間だったのだ。




トップが逃げられたのにもちゃんと理由があります。そのうちやるかと思います……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。