HRで真耶から伝えられた内容を、美紀たちは保健室の一夏の所で相談していた。
「来月の学年個人トーナメント? 俺は参加しないぞ」
「うん、それは分かってるけど、一夏が出無いなら私たちも止めておこうかな。更識所属は別格だって言われてるっぽいし」
一夏の答えに簪が反応する。クラスの違う簪が何故美紀たちと一緒に来たのかというと――
「あ、あの……アメリア=カルラです! よろしくお願いします」
――彼女を紹介する為だ。
五組であるエイミィは、美紀たちの所に行くより簪を訪ねた方が楽であり、簪を訪ねればそのまま一夏の場所まで同行出来るのだから。
「初めまして、更識一夏です。こんな格好で申し訳ありません」
「い、いえ! 更識君が私たちを守ってくれたのは分かってますから」
表面上は箒を助けたようにしか見えなかったのだが、ある程度の実力者になれば、あれが箒では無く二次災害を防ぐために行っていた事は理解出来るのだった。
「それで、イタリア代表候補生で五組のクラス代表のアメリアさんが何の御用でしょうか?」
「あっ、私の事はエイミィで良いよ。みんなもそう呼んでるし、私も『一夏君』って呼んで良いかな?」
「構いませんよ。エイミィさんは俺の事情は訊いてますか?」
「う、うん……昔の記憶が無いのと、いきなり近づかれると怖がっちゃうって事くらいしか」
それは保健室に来る前に、簪から散々注意された事だった。エイミィの性格上、初対面でもいきなり飛び付きそうな勢いなので、簪が一夏の事情を長々とエイミィに説明したのだ。その結果、エイミィは猫を被った挨拶をしたのだ。
「それだけ分かっててくれれば大丈夫です。まぁ、簪や美紀が認めたエイミィさんなら、俺もそのうち慣れるでしょうしね」
「あ、ありがとう。嬉しいな。あと、さんもいらないよ。エイミィで良いから」
「そうか。それでエイミィは何の用でここに?」
「えっと……私、専用機が無いんだ。イタリアはIS開発戦争で大きく遅れてるし、学園を卒業するまでに専用機が出来る可能性が殆ど無いの。だから自由国籍を使って何処かの国の候補生になろうかなと思ったんだけど、その場合はよっぽどの実力者か、大企業の後ろ盾が無いと上手くいかないんだ。だから更識さんにお願いしたら、一夏君なら顔が利くかもって」
エイミィの説明を聞いて、一夏は簪に視線を向けた。それと同じ速度で、簪は一夏から視線を逸らしたのだった。
「なるほど……今すぐは無理だが、もうじき出来るかもしれないな」
「? どういう事?」
「更識企業に喧嘩を売って来た企業に心当たりがあってな。今調べてもらってるところだ」
「それと自由国籍とどういった関係が?」
「その企業は海外でな。とある契約を結んでいて、逆らった場合の事はしっかりと契約書に明記されているんだ。それを失念したのか報復されないと舐められたのかは分からないが、契約内容通りになれば、更識は海外の拠点を手に入れられる事になる。そしてその企業からならば、エイミィをその国の候補生として認めさせられるかもしれないってだけだよ」
「あっ、一夏さん、さっきお父さんから電話があって、ほぼ一夏さんの考えで間違いないって。後は一夏さんの目で判断してほしいって」
「資料は?」
「虚さんにメールで送ったって言ってました。後で虚さんに持って来て貰いましょうか?」
美紀の言葉に、一夏は一つ頷いてエイミィに視線を戻した。
「今の話は他言無用で頼む。まだ公には発表できないからな」
「う、うん……それは良いけど、一夏君っていったい何者なの? さっきみたいに黒い事を平然と言ってのけるなんて、普通の高校生とは思えないけど」
「普通じゃないさ。トラウマ持ちで普通の男子なら舞い上がるであろうハーレム状態を怖がるんだから」
「いっちー、カルカルはそんな事を言いたいんじゃないよ~」
「か、カルカル!? それって私の事?」
「えっ、だめ?」
既に「エイミィ」という愛称があるにも拘らず、本音は独特の愛称をエイミィに付けていた。エイミィ以外はまたかという感じだったが、エイミィは驚きを隠せなかった。
「ダメじゃないけど……呼ばれなれて無いから」
「そのうちなれるよ~ねっ、かんちゃん」
「まぁ本音だからね」
「……さて、エイミィの専用機だが」
「う、うん」
脱線しかけた流れを、一夏が修正する。その空気に中てられたのか、エイミィの顔が緊張で強張っている。
「実はこの前、篠ノ之束博士からコアを貰ってな。この間の侵入してきた無人機のコアなんだが、性能的には第四世代と遜色ない仕上がりになっていた」
「一夏、そのコア見たんだ」
「山田先生に解析を頼まれてな。碧さん立ち会いの下で俺が解析した。てか、その前に束さんから聞かされてたんだけどな」
「ほえ……一夏君って凄い人と知り合いなんだね」
「織斑姉妹の友人ってだけだよ。俺はその弟だから」
「……あっ! そっか! 一夏君の旧姓は『織斑』だったんだね! すっかり忘れてたよ」
「ちゃんと教えたじゃない……」
「私が兄さまと呼んでいるので分かりそうなものですが……」
マドカがぼそっと呟いた言葉に、エイミィは大袈裟に笑って誤魔化した。
「そのコアを使えばすぐに造れるだろうが、生憎今は動けないからな。とりあえず海外拠点が確定するまでは大人しくしててくれ。悪いようにはしないから」
「うん、分かった。それじゃあ一夏君、お大事にね」
一夏との約束を取り付けたエイミィは、満面の笑みを浮かべて保健室を後にした。残る更識所属の四人は、時間ギリギリまで一夏の側を離れなかったのだった。
一夏、考えが黒過ぎるぞ……