暗部の一夏君   作:猫林13世

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騒ぐ理由が無いですからね……


一夏のいない教室

 コアの解析を済ませた一夏は、そのコアを碧に預け教師陣を保健室から退室させた。

 

「闇鴉、あのコアだが……」

 

「性能的には第三世代――いえ、第四世代並みでしたね」

 

「やはり気付いていたか……束さん、あんなものくれるって言ってもな……」

 

 

 既に第五世代まで開発を進めている一夏にとって、第四世代のコアは「今更」過ぎる代物なのだ。

 

「貰えるものは貰っておきましょうよ。何時か役に立つかもしれませんし」

 

「新たに造らなくて良いのは楽だが、更識所属の人間は全員専用機を持ってるし」

 

「新たに所属する人が来たときの為ですよ」

 

「そんな人間がいるとは思えないが……」

 

 

 そんな事を話しながら一夏は解析結果を保存した端末を開く。闇鴉が人の姿になるきっかけを作ったレーザーは、間違いなく人一人なら簡単に殺せるだけの威力が籠められていたのだった。

 

「よく無事だったよな、俺……」

 

「どうやら一夏さんは、誘拐された時に投薬実験されたようですね。その副産物として異常に回復力が高いようです」

 

「何を目的とした実験だったんだか……そもそもあの時だって俺じゃ無く篠ノ之を誘拐すれば良かったんじゃないのか?」

 

「そんな事私に言われても困りますよ。誘拐犯たちが何故一夏さんを狙ったのか、なんて私が分かるわけありませんでしょうが」

 

「まぁそうだな……とにかく、後は頭の傷さえどうにかなれば保健室のベッドから抜け出せるわけだが……この学校って保険医いるのか?」

 

 

 さっきから無人の保健室を見渡して、一夏はそんな疑問を投げかけた。

 

「いないのではないですか? 医療道具は揃ってますが、IS操縦者はだいたい自分で治療出来ますからね」

 

「余程酷い怪我でもない限りは、自分で処置出来るだけの知識は持ち合わせているからか……だが、ここにいるのは一人前のIS操縦者では無く半人前の見習い操縦者だ。保険医の一人くらいいても良い気もするが……まぁ教師が知識を持っているから必要無いのかもしれないが」

 

 

 そう言いながら一夏は頭の傷を撫でる。多少痛みは残っているが、出血も止まっているのであまり大袈裟には考えていないようだ。

 

「後二、三日は安静にしてる事ですね。無理して傷口が開いたら大変ですから」

 

「暇なんだが……」

 

「なら、生徒会の仕事でも持って来ましょうか? 書類整理くらいなら出来ますよね」

 

「それでも構わない。むしろ本当に持って来てもらいたいくらいだ」

 

 

 退屈を嫌う一夏は、保健室で安静にしている事が苦痛でしょうがないのだ。あまり波乱万丈でも困ると思っているが、何も無いこの状況も一夏にとって困るものだったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏がいない教室では、一夏の席に集まるように本音、美紀、マドカがボンヤリとその席を眺めていた。

 

「何してるの?」

 

「シズシズ……いっちーがいないと静かだなーって思ってさ」

 

「一夏君は何時も静かだったわよ? 騒いでたのは、一夏君の周りにいる私たち」

 

「兄さまがいてくれたから、私たちは安心して騒げたのですね。やはり兄さまは偉大な人です」

 

「マドカちゃん、その感想はおかしくない?」

 

「いえ、兄さまは偉大な人です! あんなクズを庇って大怪我を負ったにも拘わらず、極刑は避けるべきなどと仰られたのですから」

 

 

 一夏の一声で、織斑姉妹は自分たちの要求を取り下げ、政府が言うように停学二週間・反省文の提出の刑を篠ノ之箒に科した。

 

「そう言えば篠ノ之さん、今部屋で大人しくしてるのかしら?」

 

「さすがにしてると思いますよ。千冬先生か千夏先生、どちらかがベタ付きで監視してるんですから」

 

 

 美紀が言うように、篠ノ之箒の部屋の前には、千冬か千夏のどちらかが絶対にいる状況が作られているのだ。いくら猪武者の箒とはいえ、悪魔の姉妹に逆らうような真似はしないだろうと誰もが思っている。

 

「でもシノノンの事だから、織斑姉妹の目をかいくぐろうとか思ってるかもね~」

 

「姉さまたちの監視をかいくぐって何処に行くというのですか? あの女に訪ねるような友人がいるとは思えませんが」

 

「一夏君のところに行くかもね。さすがにやり過ぎたって謝るかも知れないし」

 

「静寐、それはないと思いますよ。あの篠ノ之さんが大人しく頭を下げるとは思えませんし」

 

「むしろ『お前が軟弱だからあの程度の相手にやられるんだ』とか言って重傷の兄さまをベッドから引き摺りだして剣道場に連れて行きそうですよ」

 

 

 半分冗談で言ったマドカだったが、周りの反応が微妙なものだったので、冗談で済まないかもしれないと焦りだした。

 

「ま、まぁ……姉さまたちの監視をあの篠ノ之箒がかいくぐれるとは思いませんがね」

 

「そ、そうだよね。織斑姉妹の監視をかいくぐれる人間なんて、それこそ一夏さんくらいですよね」

 

「何だかフラグのように聞こえるのは私の気の所為かな~?」

 

「自殺行為までして死にたいと思う人間はいないと思うけどね」

 

 

 自殺行為とは、織斑姉妹から逃げる事。死とは、一夏にちょっかいを出して織斑姉妹に消される事だ。静寐が言った二つの事が現実に起こらないという確証は無いが、さすがの箒でも命は無駄にしないだろうと三人は思う事にした。そうしないと自分たちの心の安寧が保たれないからだ。

 

「はーい、授業を始めますので席についてください」

 

 

 そんな恐ろしい考えを中断させる間延びした声が教室にやって来た。担任・副担任の補佐を務める山田真耶教諭が四人の恐ろしい考えを忘れさせてくれるきっかけをくれたのだった。

 

「先生、ありがとうございます」

 

「はい? どう致しまして……?」

 

 

 美紀にお礼を言われた真耶だったが、本人は何故お礼を言われたのかが分からず首を傾げたのだった。




脱け出す=死、の状況なんで、どっちも死亡フラグなんですけどね……

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