暗部の一夏君   作:猫林13世

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普通はビックリするだろうな……


早朝の対面

 痛む頭に意識を取られながらも、一夏は目の前の女性を隈なく観察する。しっかりと人間の姿をしているが、彼女からは熱を感じられなかった。

 

「一夏様……分かってはいますがそうじろじろと見られると恥ずかしいです。私はISではありますが、性行為は可能ですので」

 

「何を言い出すんだ、まったく……刀奈さんたちに影響され過ぎたか?」

 

「冗談はさておき、恥ずかしいのは本当です」

 

「あ、あぁ……すまないな。だが、何でいきなり人の姿に成れるようになったんだ?」

 

 

 分かりにくかった冗談に、どう反応すれば良いのか困った一夏だったが、そんな事よりもその事が気になったので聞く事にした。

 

「一夏様があのレーザーを無効化しようとした際、あのレーザーに含まれるエネルギーが私に流れ込んできたのです。そしてそのエネルギーが限界まで蓄積された所為で私は強制解除されました」

 

「それで?」

 

「そのエネルギーは私の中で変換され、この様に人の姿になる事を可能としました。もちろん、エネルギーが無くなればこの姿には成れませんが」

 

「つまりそのエネルギーの正体を研究すれば、君はこの姿に成れると? つまり俺につき止めろと言うわけだな」

 

「そのような偉そうなことを言うつもりはありません。ありませんが、一夏様にご奉仕出来るのであるのならば、この姿に成るのが一番でしょうし」

 

 

 また分かりにくい冗談を言う闇鴉に頭痛を覚えながらも、一夏は日ごろ持ち歩いている端末を開き闇鴉にケーブルを握らせた。

 

「これは?」

 

「君の今の状況を調べようと思ってね。本来ならこのケーブルを差しこむんだが、今は握るだけでも測定は可能だからね」

 

 

 多少手間取りながらも闇鴉のデータを解析した一夏は、一つため息を吐いた。

 

「どうなさいました?」

 

「いや……君の中のエネルギーは既に君自身が供給出来るように進化している。だから自分の意思で待機状態に戻る事も、人の姿に成る事も既に可能だと言う事だよ」

 

「何と!? 第五世代とはそのような自立進化を兼ね備えているのですか……」

 

「いや、これは完全に予想外の出来事だよ……まぁこのエネルギーが何なのかを解析出来れば、木霊たちも人の姿に成れるのかもしれないが」

 

 

 痛む頭を完全に忘れているような雰囲気を醸し出す一夏を、闇鴉が優しく諭す。

 

「一夏様、我々ISの事を想ってくれるのはありがたいですが、今は一夏様のお身体を治すのが先決です。私の力で一夏様の怪我を治せれば良いのですが……」

 

「別に気に病む必要は無いよ。君たちは普段から俺を守ってくれている。それだけで十分ありがたいんだから」

 

「では、朝まで一夏様のお傍で警護をさせていただきますので、一夏様はご安心を」

 

 

 その言葉を聞いたのを最後に、一夏は再び意識を失ったように眠った。その横では闇鴉が言葉通り一夏の傍で警護していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段ならまだ部屋から出ない時間に刀奈は部屋を飛び出した。向かう先はもちろん保健室、つまり一夏の許だ。

 

「一夏君、ちゃんと治るのかなぁ……」

 

『刀奈はもう少し一夏さんを信用してはどうです? 彼はあんな攻撃で死ぬような人間ではありませんよ』

 

「いや、普通の人間はあんな攻撃を喰らったら死んじゃうんだけど」

 

『一夏さんはほぼすべてのISに好かれているお方です。あの無人機のコアもおそらくは一夏さんを傷つけた事を後悔しているでしょうし、一夏さんがあの憎い篠ノ之箒を庇うように間に入った事でレーザーの威力を落としたでしょうし』

 

「うーん……そうだと良いんだけどな……」

 

 

 蛟と小声で会話をしながら、刀奈は保健室の前までやって来た。いざここまで来ると異様に緊張したが、勇気を持って刀奈は保健室の扉を開いた。

 

「一夏君、起きて……る?」

 

 

 一夏が眠るベッド、そのベッドの中には一夏の他にもう一人の女性が寝ていた。綺麗な黒髪をした、全身黒尽くめのスタイルの良い女性。それが刀奈の意識を占めた。

 

「誰?」

 

「むにゃ……あっ、刀奈さんはじめまして」

 

「はじめまして……って、何で私の名前を?」

 

『彼女は一夏さんの専用機の闇鴉です』

 

「へー、闇鴉って美人さんだったんだ……って! 何で闇鴉が人の姿をしてるのよ!? それで何で一夏君と一緒に寝てるのよ!?」

 

「お静かに。一夏様が目を覚まされてしまいます」

 

 

 闇鴉に叱られて、刀奈はしょんぼりと肩を落としかけて――そんな場合では無いと思いなおし闇鴉に詰め寄った。

 

「質問に答えて。何で人の姿をしてるの。何で一夏君と一緒のベッドで寝てるの」

 

「理由については、詳しい事はまだ分かりません。昨日のレーザーのエネルギーが私の中で変換されこの姿に成れた、という事しか分かっておりませんし、一夏さんと一緒に寝ていたのは、私が一夏さんの専用機だからです」

 

「答えになって無いわよ!」

 

『まぁまぁ刀奈、貴女も今一夏さんのベッドに潜り込めば万事解決じゃない?』

 

「……はっ!」

 

 

 蛟の提案に雷に打たれたような感覚に陥った刀奈は、ゆっくりと一夏のベッドへと忍び込もうとして――

 

「何をなさってるのですか、お嬢様」

 

 

――保健室入口に立っている虚に怒られたのだった。

 

「事情は全て丙から聞きました。改めてよろしくお願いします、闇鴉」

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますね、虚さん」

 

 

 闇鴉が人の姿をしている事にはツッコミを入れずに、虚はあっさりと闇鴉の存在を受け容れ、そして一夏の容体を気にしたのだった。

 

「まだ目を覚まされませんか……」

 

「昨日一度だけ目を覚まされましたが、再び意識を失ってしまいました」

 

「そうなんだ……一夏君、早く目を覚ましてね」

 

 

 祈るような刀奈の言葉に反応して――かは知らないが、一夏はそのタイミングで目を覚ましたのだった。




闇鴉はお姉さんポジションですね。それから、似非大和撫子の代わりも務めます。

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