暗部の一夏君   作:猫林13世

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一応束にも……


篠ノ之姉妹への制裁

 部屋に戻って来たマドカは、敬愛する兄・一夏が大怪我を負った原因である篠ノ之箒の存在に気付き、無意識のうちに舌打ちをしていた。

 

「なんだ、その態度は」

 

「お前が余計な事をした所為で兄さまはあのような大怪我を負われたのだぞ! 少しは悪いとは思わないのか!」

 

「私は何もしていない! 一夏に檄を飛ばしただけだ!」

 

「それが余計な事だって言ってるんだ! お前になんか檄を飛ばされなくても兄さまは勝てていた! それをお前が余計な事をしてあのISの標的になるものだから、兄さまは仕方なくお前を守ろうとしたんだ!」

 

 

 実際、一夏が守ろうとしたのは箒では無く、箒が攻撃された事により瓦解する建物によって二次災害が起こるのを防ぐためだったのだが、マドカにはそこまで理解が及ばなかったのだ。

 

「男が女を守るのは当然だ!」

 

「お前、本当にバカだな。兄さまに構ってもらえないからってあんな行動を……普通ならお前死んでたんだぞ、分かってるの?」

 

 

 箒がマドカに掴みかかろうとしたタイミングで、部屋の扉がノックされた。乱暴なノックでは無かったので織斑姉妹では無いだろうと思ったマドカが、箒とのやり取りを中断して扉を開けた。

 

「はい」

 

「お引っ越しでーす」

 

「は?」

 

 

 扉の先に立っていたのは山田真耶教諭で、開口一番マドカの理解の及ばない事を言った。

 

「今回の件で、篠ノ之さんは寮長室のすぐ側の部屋で一人で生活する事に決まりました」

 

「……それじゃあ、私のルームメイトは?」

 

「はい。調整の結果、鷹月静寐さんに決定しました」

 

「こんばんは、織斑さん。これからよろしくね」

 

 

 真耶の背後から姿を現した静寐は、何処か楽しそうな顔をしていた。

 

「待ってください! 何故私が織斑姉妹の側で生活しなければならないのですか!」

 

「分からないんですか? 本当なら退学でもおかしくない事を仕出かしたんです。反省の機会を与えられただけでも感謝してくださいね」

 

「私は何もしてないではありませんか!」

 

「篠ノ之さん、貴女がした事は殺人幇助でもおかしくない行動です。更識君の邪魔をして、あまつさえ生命の危機に追いやったんですから」

 

「ですがっ!」

 

「これは政府の決定です。逆らえば貴女は『篠ノ之箒』として生活出来なくなりますが、どうします?」

 

 

 貼り付けたような笑顔でそう言う真耶に、マドカは恐怖した。ただのぼんやりした童顔だと侮っていたが、真耶も間違いなく自分より上だと認識した瞬間だった。

 

「では、篠ノ之さんの荷物は全て移動させて、鷹月さんの荷物を運び込みましょう」

 

 

 反論が無かったのを肯定と受け取り、真耶は箒の荷物を纏め始める。マドカはそんな真耶をただぼんやりと眺めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大天災・篠ノ之束は、ハッキングした衛星から見ていた一連の事態に頭を悩ませていた。

 

「何で!? 本当に箒ちゃんは束さんの邪魔しかしないんだから! いっくんが……いっくんが死んじゃったらどうしよう……束さんがちーちゃんとなっちゃんたちに殺されちゃうよ……」

 

 

 一応一命は取り留めた、という事は知っているが、それでも束のパニックは治まらなかった。自分が送り付けた無人機の所為で、愛しい一夏が死の淵に追いやってしまったのだから致し方ないだろう。

 

「これでいっくんが死んじゃったら、束さん殺人者なのかな? 殺意は無かったから傷害致死? てか、悪いのは箒ちゃんだよね!?」

 

 

 絶賛混乱中の束の携帯に着信を告げるメロディーが流れだす。この携帯に掛けて来られる人間は一人だけ、だがその一人は現在意識不明の重体のはずなのだ。

 

「も、もしもし?」

 

『束、貴様良くも一夏を……!』

 

「ま、待ってちーちゃん! 束さんはただいっくんの凄さを箒ちゃんに見せつけて大人しくさせるつもりだったの! だからハッキングもいっくんが簡単に解除できる程度でしかしてないし、あの子だって誰かを傷つける為に送ったんじゃないよ!」

 

『だが現に一夏は貴様のくだらない計画の所為で大怪我を負ってるんだぞ』

 

「それは……箒ちゃんがあそこまで考え無しだったとは束さんも思ってなかったんだよ……」

 

 

 唯一の計算外だった実の妹の行動について、束は言い訳しようが無かった。あの無人機は会話している人間には攻撃しないが、大声を上げる人間には容赦なく攻撃するようにプログラムされていたのだ。無論、悲鳴はそれに含まれないようにしてあったが、まさかあのような拡声器を使って一夏に話しかけるなど想定外だったのだ。

 

『とにかく、貴様の妹は当分の間自由に行動する事は出来ん。これは政府の決定であり、我々の決定でもある』

 

「殺さないんだ?」

 

『「篠ノ之束の妹」というブランド力を甘く見るな、この元凶』

 

「本当にゴメンなさい。いっくんが目を覚ましたら直接謝りに行くから」

 

『貴様を一夏に会わせるのは認めたくは無いが、謝罪する気持があるなら仕方ない……ただし、その時は数発殴らせてもらうからな』

 

「ちーちゃんだけが?」

 

『無論、千夏や更識関係者全員だ』

 

「とほほ……まぁ仕方ない事をしちゃったし、今回は甘んじて受け入れます」

 

 

 鉄拳制裁を甘んじて受け入れるなど束らしくないと千冬は思ったが、今回はそれ程の事を仕出かしたのだと思いなおし通信を切った。

 

「いっくん……君はこんなところで死なないよね? あの子の為にも、いっくんは死んじゃダメなんだからね」

 

 

 無人機のコアの事を思い、束はハッキング映像を一夏が安静にしている保健室へと切り替える。外傷は殆ど治っているが未だに目を覚まさない一夏に、束はモニター越しに話しかけるのだった。




真耶が一番怖かったかもしれない……

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