クラス対抗トーナメントは、前評判通りに美紀と簪が勝ち進んでいく。初戦に候補生が相手で多少苦労していたが、次の試合では二人とも完封勝利を収めるなど、互いに負けるつもりなど無いのではないかというくらいの気迫だった。
「やっぱ更識所属は別格よね」
「少しでもSEを減らせたのが救いだよね」
初戦敗退ながらも二人のSEを多少なりとも削った鈴とエイミィは、選手控室で決勝が始まるのを待っていた。
「簪と美紀、どっちが強いのかな?」
「一夏が言うには、簪の方が強いらしいわよ。美紀も五回に一回勝てれば良い方だって言ってたし」
「そうなんだ……」
「始まるみたいね」
エイミィと話していた鈴だったが、開始の合図が近づくにつれて身体に力が籠っていた。自分が戦うわけではないのに身構えてしまうのは、美紀の強さを身をもって知った鈴だからだろう。簪と戦ったエイミィの身体にも力が籠められているのを見れば、やはりそうなのだろう。
「うわぁ、えげつない攻撃ね……」
「簪も負けてない……これで候補生なんだから、どれだけ日本のレベルが高いかって事よね」
「初代代表が小鳥遊碧と織斑姉妹、そして第二回大会の代表が生徒会長と織斑姉妹だもんね。別格よ、日本は」
モニター越しとはいえ二人の強さが伝わってくるような戦闘を目の当たりにして、鈴とエイミィは自分たちの努力量をもっと増やさなければと考えていた。
「やっぱり簪が優勢なのね」
「でも、美紀の方も頑張ってる」
「簪のSEが残り三割で、美紀が二割か……」
一夏が改良したモニターには、戦闘中のISのSE残量から使用した武装のデータなどを表示できるようになっている。試験的にそのモニターを導入しているIS学園では、観戦している人がより正確に戦況を把握できるようになっているのだ。
「これだけ見ると、やっぱり簪の方が強いんだなって分かるわ」
「実際は結構紙一重っぽいけどね」
残量だけ見れば簪有利だが、実際はそんなに簡単に説明できる戦闘では無い事が二人には分かっている。それが分かるだけの力量がこの二人にはあるからなのだが、入学したての一年生が見ているので、客席からは美紀に対する応援の声が大きくなっている。
「応援して何とかなる状況だと思ってるのかしら」
「それだけ興奮してるって事じゃないかな? その気持ちは分かるけどね」
自分たちを圧倒した二人が、互いにギリギリの勝負をしているのだ。エイミィや鈴が興奮しないわけが無い。
「デザート食べ放題なんて関係なく、もう一回戦いたいわね」
「私はその前に更識君を紹介してもらわないと」
「自由国籍の手続きだっけ? いっそのこと日本に所属して更識企業に専用機を造ってもらえば?」
「あの三人に割って入る自信はないなぁ……」
そんな呑気な事を話していた二人だったが、モニターに不審な影が映り込んだのを見てそのような空気では無くなってしまったのだった。
謎のISが乱入したのを見た一夏の行動は早かった。
「本音、マドカ、客席にいる全員を避難させろ。危険が及ばないようにISの使用を生徒会権限で許可する」
「分かりました!」
「了解だよ!」
「俺はモニター室に行って織斑姉妹の状況確認をしにいく。何か分かればプライベート・チャネルで知らせる」
迅速に行動する一夏たちを見て、他の生徒たちも冷静さを取り戻しかけていた。だがアリーナの出入り口が全て塞がれてしまっていたので、再び混乱の渦に巻き込まれてしまったのだった。
モニター室に掛け込んだ一夏は、慌てた雰囲気でコンソールを操作している真耶に話しかけた。
「状況を教えてください」
「乱入機にハッキングされているのか、こちらからのパネル操作がシャッターに影響しません。このままではあのISを倒さない限りアリーナからの避難は不可能です」
「相手の強さは分かりますか?」
「代表候補生並み、ですかね……万全の更識さんと四月一日さんなら勝てるでしょうけども、互いにSEを削り合っていた途中ですので……」
「二人へ援軍は送れますか?」
「ピットも閉められてしまっているので、援軍は不可能です」
そこまで聞いた一夏は、真耶の横に割って入りコンソールを操作し、ピットのロックだけを解除した。
「碧さん、アリーナの出入り口のロック解除をお願いします。俺は二人がエネルギー補給するだけの時間を稼ぎますので」
「分かりました。マドカさんと本音ちゃんには私が報告しておきます」
「お願いします」
素早く碧に指示を飛ばした一夏に、織斑姉妹も真耶も驚きの表情で固まってしまった。生徒と教師であるはずなのに、碧が何故か部下に見えてしまったからだろう。
そんな事に気を割いている余裕が無い一夏は、闇鴉を展開してピットからアリーナ内に飛び立った。
「簪、美紀! エネルギーの補給をしてくれ。その間は俺がもたせる」
「一夏、平気なの?」
「本音ちゃんとマドカちゃんは?」
「あの二人には生徒の避難を任せた。時間だけ稼げれば二人なら勝てるだろ? だからその間は俺が担当するから」
「分かった。一夏、無理しないでね」
「大丈夫……? 何であのIS、こっちが会話している間は大人しいんだ?」
攻撃する隙などいくらでもあっただろうと考えた一夏だったが、侵入してきたISはこちらをジッと見ているだけだった。
「闇鴉、あのISから人間の反応は?」
『ありません。無人機だと思われます』
「無人機か……あの人、何がしたかったんだ?」
犯人に心当たりがある一夏は、とりあえず無人機を停止させようとして――
「一夏! 男なら、その程度倒せずになんとする!」
「あのバカ……」
――スピーカーを使って檄を飛ばしてきた古馴染に頭を悩ませたのだった。
やっぱり邪魔するモップ……