暗部の一夏君   作:猫林13世

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ここで彼女を出しちゃいます


新たな候補生

 クラス対抗戦当日、クラス代表の簪と美紀、そして鈴は同じ控室で対戦相手の発表を待っていた。

 

「そう言えば、五組の代表も候補生なんだっけ?」

 

「確かそんな事を一夏さんが言ってたような……」

 

「イタリア代表候補生のアメリアさんとか言ってたよね」

 

 

 生徒会役員である一夏は、各クラスの代表のプロフィールを把握しており、その流れで二人はその事を聞いていたのだ。

 

「専用機は持ってないって言ってたけど、イタリアって開発が遅れてるんじゃなかったっけ?」

 

「フランスより遅いって聞いた事があるわね。何でも主だった企業が全て開発を諦めて、そのうちコアもはく奪されるかもしれないって」

 

「鈴って意外と世界情勢に精通してるんだね」

 

「意外とは余計よ! まぁ、一夏から聞いたんだけどね」

 

 

 鈴の暴露に、簪と美紀は表情を崩した。結局情報元は一夏であり、一夏が世界情勢に詳しいのは、二人の中では当たり前なのだ。何せ世界に轟く更識企業、そのトップである更識楯無その人なのだから。

 

「てことは、簪と美紀に勝てば、あたしが優勝出来るって事ね」

 

「鈴には負けないと思うな」

 

「一夏さんのお陰で、鈴さん対策はバッチリですからね」

 

「ズルイわよ、美紀! 何で一夏がアンタに情報を与えてるのよ! 不公平でしょ!」

 

「一夏さんはクラスメイトですから」

 

「あっ……それでなの」

 

 

 種明かしをされると、意外とあっさり鈴はその事を受け容れた。

 

「あの……日本代表候補生の更識簪さん、四月一日美紀さんと、中国代表候補生の凰鈴音さんですよね」

 

「そうですが、貴女は?」

 

「はじめまして。イタリア代表候補生のアメリア=カルラと申します」

 

「貴女が……日本代表候補生の更識簪です」

 

「同じく、四月一日美紀です」

 

「中国の候補生、凰鈴音よ。気軽に鈴って呼んで頂戴」

 

 

 候補生同士の挨拶がすんだところで、簪は何故アメリアが話しかけてきたのかが気になっていたので訊ねる事にした。

 

「えっと、アメリアさん……」

 

「エイミィと呼んでください。そっちの方が呼ばれ慣れているので」

 

「じゃあエイミィさん、何か用ですか?」

 

「えっと……更識さんたちは更識所属なんですよね?」

 

「所属というか、実家です」

 

 

 何を聞きたいのかが分からないからには対処しようがないので、簪は当たり障りの無い対応でエイミィの真意を探る事にした。

 

「実は、イタリアの候補生を辞退して自由国籍で他の国の代表を目指そうと思ってるのですが、その場合は大企業の後押しが重要なんです。ですが、私にはそのようなものがありません。ですから、更識さんたちにご助力お願い出来ないかと思いまして」

 

「自由国籍ねぇ……それなら一夏に頼んでみたら? 一夏ならそういった話、詳しそうだし」

 

「一夏? 更識一夏君の事ですか?」

 

「鈴、無責任な事を……でも、確かに一夏に相談した方がよさそうだね、そういう事は。トーナメントが終わったら一夏に相談出来るように取り計らってあげる事くらいしか出来ないけど、それでも大丈夫ですか?」

 

「はい、お願いします! 良かった、話しかけてみて」

 

「エイミィさんって、そっちが地なんですか?」

 

「えっ? ……あっ! 折角猫被ってたのに」

 

 

 真面目な雰囲気の下に隠れていた本来のエイミィを見抜き、美紀が指摘するとエイミィの雰囲気が一変した。

 

「もう真面目な話し方は良いよね。改めまして、私アメリア=カルラ! エイミィって呼んでね」

 

「そっちの方が親近感湧くわね! よろしく、エイミィ!」

 

「うん、よろしくね鈴!」

 

 

 明るい物同士が仲良くなったタイミングで、一回戦の対戦相手が発表された。美紀は鈴と、そして簪はエイミィとの一戦だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観戦の為にマドカと本音に挟まれて一般席に座っていた一夏に、背後から声が掛けられた。

 

「一夏君、ここ良いかな?」

 

「静寐なら問題ないぞ。マドカも本音もそう殺気立つな」

 

 

 箒ではないかと一瞬身構えたマドカと本音を宥め、一夏は振り返り静寐に話しかける。

 

「もっと見やすい場所で見れば良いじゃないか。静寐は俺と違って人ごみが平気なんだろ?」

 

「一夏君の側で見学すれば、聞きたい事が出来たらすぐに聞けるでしょ?」

 

「俺は教師じゃないんだが……まぁ、教えられる事なら教えるが」

 

 

 異例の速さで一夏と仲良くなった静寐に、本音とマドカは驚きを隠せずにいる。普通なら数週間から数ヶ月くらいはかかるであろうと思われた友人関係の構築を、静寐はたった一日で成し遂げ、そして普通に話しかけられるレベルまで警戒心を解かせたのだ。

 

「初めは少し離れた場所だったけど、やっぱり話すならこれくらいの距離よね」

 

「静寐なら大丈夫だが、他の人はまだ身構えてしまうからな」

 

「それって、私が特別だって思ってもいいのかしら?」

 

「ある意味特別だろ。高校に入って初めての友達だからな」

 

「初めて? 凰さんは別なのかしら?」

 

「鈴は幼馴染だからな。いや、悪友と言うべきか」

 

 

 元々友人関係である鈴、更識関係者を除けば、確かに静寐は一夏の高校での初めての友達と言う事になる。そういった意味でも、一夏と静寐の関係は特別と言えるだろう。

 

「専用機持ちが三人も参加する大会かぁ……出ろって言われても辞退するわね、私なら」

 

「他のクラスの代表には悪い気もするけどな」

 

 

 そんな話をしながら、一夏は対戦表に目をやり、そして身内が戦う相手に驚いていた。

 

「美紀が鈴とで、簪が五組のアメリアさんか……」

 

「強いの?」

 

「一応候補生だからな、アメリアさんも……諸事情で専用機は無いみたいだけど」

 

 

 イタリアの事情を頭の中で思い描き、一夏は会った事の無いアメリアに同情し、そして何事も起こらなければいいがとこの大会に対してそんな祈りを抱いていたのだった。




前作オリキャラ・アメリア=カルラ(通称エイミィ)を登場させました。イタリアの情勢は結構テキトーです。

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