一夏から連絡を貰った尊は、一夏から聞かされた内容を聞き間違いではないかと自分の耳を疑っていた。
「すまない一夏君、もう一度言ってもらえるか」
『疑いたくなる気持ちは俺も分かりますが、これで三度目ですよ「楯無さん」』
「すまん……だが、何度も聞き返しても受け容れがたいんだよ」
一夏から聞かされた「第二の存在」について、尊は絶対にあり得ないと確信を持っていた。ISのコアに好かれ、また認められる男など、一夏以外に存在するはずが無いと。
『これが虚偽の申請だった場合、このデュノア社にはそれ相応の制裁を加えられます。わざわざデータを貸して開発戦争に残らせてあげたのに、この仕打ちは酷いですからね』
「分かった。数日くれれば調べられると思うぞ。しかし、この『シャルル・デュノア』という少年――とあえて言うが、随分と中性的な顔立ちをしているな。デュノアという姓から、デュノア社長の関係者だと言う事は分かるが……」
『こちらで把握している限り、「シャルル」というご子息はいなかったと思うのですが』
「……正妻の子、では無いのかもしれないな」
尊の言葉に、一夏は息を呑んだ。いくら大人びていようと十五歳の少年、そこまで黒い事を考えていなかったのだろう。
「とにかく、小鳥遊がIS学園にいる以上一日では調べられない。何か分かれば連絡をしよう」
『お願いします。あっ、一応念の為に、報告は美紀の携帯にお願いします』
「それは構わないが……何故娘の携帯なんだい? 別に君のでも問題は無いだろ」
『良くも悪くも注目されてますから、俺は。電話を盗み聞きされる可能性が高いので、美紀なら尊さんからの電話でも、父親からですし』
「そういうものか……分かった。連絡は美紀の携帯にしよう」
『では、そのように』
「本当」の楯無からの電話を切り、「表向き」の楯無である尊は小さく息を吐いた。
「『第二の男性IS操縦者』の存在ね……一夏君は心配性過ぎる。男女の差など、骨格を見れば分かりそうなものだが……おそらく編入前に調べ上げておきたいのだろう」
自分に害がありそうなものを徹底的に調べ上げるのは確かに必要な事だが、今の一夏は過剰に気にし過ぎなように尊には感じられていた。
「篠ノ之箒が側にいることで、一夏君は余裕を持てない状況なんだろうな」
過去の出来事を知っている尊は、今の一夏の状況を思い出し苦笑いを浮かべた。更識から日本政府に再三要望を出しているのだが、こればっかりは更識の力を持ってしても実行不可能なのだ。
「篠ノ之箒をIS学園から追い出す……か」
暴力に訴える事が多い箒にISを与えれば、必ずと言っていいほどの確立で怪我人が出ると更識は政府に訴えている。だが実際に起こっても無い事を理由に追い出す事は出来ないと突っぱねられているのだった。
「もう少し一夏君の身の回りの安全が確保されない事には、一夏君の高校生活は波乱に満ちるだろうな」
先代楯無から引き継いだ、一夏を息子のように思う気持ちを抱きながら、尊は調査班にデュノア社について調べ上げるよう命じたのだった。
クラス対抗トーナメント戦を翌日に控えてはいるが、一夏はクラスメイト達と雑談を交わしていた。
「更識君的には、どっちに勝ってもらいたいの?」
「どっちって?」
「四月一日さんか更識さんのどっちかって事」
「鈴は選択肢に無いんだな」
「だって凰さんはお友達だけど、四月一日さんと更識さんは家族でしょ? 家族同士が戦うのを見るって複雑じゃないの?」
「散々模擬戦してるところを見てるからな。今更ではある」
専用機の性能に違いは無いので、この二人が戦う場合は純粋に力の勝負になる。そうなると簪に大分有利なのだが、美紀もそう易々と負けるつもりは無いだろうと一夏は考えていた。
「本音はどうだ? どっちに勝ってもらいたい?」
「デザートの為に美紀ちゃんに勝ってほしいな~」
「自分で作ればいいだろ。本音は料理得意なんだから」
「いっちーと比べたらまだまだだよ~」
「えっ、布仏さんって料理上手なの?」
クラスメイトその1――相川清香が驚いた表情で本音の顔を覗きこむ。それくらい本音が料理上手だと言う事が信じられないのだろう。
「おね~ちゃんやかんちゃんたちよりは得意だよ~。でも、いっちーには敵わないかな~」
「へー、一夏君って料理上手なんだ」
「細かい作業が得意なんだよ。だいたい静寐、驚いた感じも無い声で聞いて来るなよな」
人垣の向こうから話しかけてきた鷹月静寐に対し、一夏は呆れた顔でそう答えた。
「更識君と鷹月さんって、前からの知り合いなの?」
「いや、みんなと一緒でIS学園に入ってからの知り合いだが」
「それがどうかしたの?」
「いや……随分と仲がよさそうだから」
二人で顔を見合わせ、同時に首を傾げる一夏と静寐。その息ピッタリな感じにクラスメイト達が羨ましそうに静寐に視線を向けた。
「どうやったら更識君とそんなに仲良くできるの?」
「そのコツ、教えてください」
「「「お願いします!」」」
「コツって言われても……普通にお喋りして、普通に仲良くなっただけよね?」
「そうだな」
一夏の事情を伏せているので、詳しい事は話せない。だが一夏と静寐はそんな事情が無くともいずれ仲良くなっただろうとお互いが思えるほど自然な関係なのだ。
「そっか……コツコツと頑張るしかないのかぁ」
「まだ知り合ったばかりだもんね。これからよろしくね、更識君」
「「「よろしくお願いします!」」」
「あ、あぁ……よろしく」
勢いに押され気味の一夏を、静寐は笑顔で眺めていたのだった。
心配性なのか、面倒事を避けたいだけなのか……