暗部の一夏君   作:猫林13世

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最重要案件かもしれない……


箒対策

 震える一夏を部屋まで送り届け、そのまま一夏と美紀の部屋に留まっている刀奈と虚は、本格的に箒対策を考えなければと首を捻っていた。政府が要人として扱っている箒を、更識の判断で消し去るのは色々と問題がある。一夏の秘密を全て政府に知らせ、箒より一夏の方が重要な人物であると知らしめれば、更識の独断で箒を肉体的にも社会的にも抹消する事は可能だ。だがそれは同時に一夏の身に降りかかる危険が増えるという事なのだ。

 

「一夏君の安全は確保したいわよね……」

 

「四六時中一緒にいられるわけではありませんからね……」

 

 

 考えながらも、二人は一夏を抱きしめている。その隣では美紀が引きつった笑みを浮かべているのだが、生憎二人の視界には美紀は映っていなかった。一夏はと言うと、二人に抱きしめられ、そして撫でられて安心したのか小さな寝息を立てている。

 

「普段は大人びてても、やっぱり子供っぽいわよね、一夏君は」

 

「十五歳はまだ子供ですよ。それに一夏さんの心には……」

 

「分かってる。その傷が癒える事は無いかもしれないけど、出来る限り癒してあげたい」

 

「それは私たちも同じですよ、刀奈お姉ちゃん」

 

「ん? あぁ美紀ちゃん……いたんだっけ」

 

「……私の部屋です」

 

 

 完全に美紀の存在を失念していた刀奈の発言に、美紀はガックリと肩を落として返した。虚は完全には失念していなかったようで、刀奈の発言に少し呆れた視線を向けたのだった。

 

「織斑姉妹が再三再四注意してるにも拘わらず、箒ちゃんの言動は改善されるどころか度を増しているのよね……」

 

「先ほどの件ですが、どうやら一夏さんの戦い方が気にいらなかったようです」

 

「碧さん……相変わらず音も無く現れるのね……」

 

「本来私はこういった密偵作業が主でしたから。一夏さんの護衛も気づかれないよう気配を殺す必要がありましたし」

 

 

 箒の行動理由を探っていた碧が、音も無く部屋に現れた事に驚いた三人だったが、碧本来の仕事を思い出して納得した表情になる。

 

「一夏君の戦い方って、別に反則じゃないわよ」

 

「一夏さんの戦法はルールの範囲で認められていますし、篠ノ之さんがとやかく言う問題ではありませんが」

 

「多分篠ノ之さんは理屈じゃないと思います。単純に一夏さんが男の子だから――篠ノ之さんが思い描く男像に当てはまらなかったから一夏さんに稽古を付けるとか思ってたようですよ」

 

「なんですか、それ……一夏さんは篠ノ之さんの想像とは別の次元で生きてるんですよ! 何で篠ノ之さんに強制されなきゃいけないんですか!」

 

 

 碧の報告を聞き、真っ先に声を荒げたのは美紀だった。同い年であり同部屋、そして現護衛である美紀からすれば、箒の行動理由は(存在は?)迷惑な物でしか無かったのだ。

 

「美紀ちゃん、一夏君が起きちゃうわよ」

 

「気持ちは分かりますが、少し落ち着きましょう」

 

「ゴメンなさい……碧さんも報告を中断させてしまいました。申し訳ありません」

 

「いえいえ、私も美紀ちゃんと同じ気持ちですから。さて、今回の件で織斑姉妹は篠ノ之束博士にコンタクトを取りたがっています。しかし篠ノ之束博士に連絡できるのは一夏さんのみ、織斑姉妹でも所在は把握しておりません。したがって一夏さんにお願いしたかったのですが……この寝顔に免じて日は改めましょう」

 

 

 安心しきった寝顔を見て、碧は表情を緩め一夏の頭を撫でる。普段頼りにしきっている一夏のこの表情は、なかなかギャップがあって彼女たちの心をくすぐっているのだ。

 

「簪ちゃんと本音とマドカちゃんには悪いけどね」

 

「せめて写真だけでも見せてあげましょう」

 

 

 フラッシュに気を付けながら、虚が携帯で一夏の寝顔を撮る。そして三人に同時送信をして再び肉眼でその寝顔を眺めていた。

 

「あの……そろそろご自分の部屋に戻られた方が……寮長は織斑姉妹ですし……」

 

 

 そろそろ消灯時間も近いのに自分たちの部屋に戻らない三人に、美紀が力無いツッコミを入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏から連絡を貰うまでも無く、束は今日の出来事を知っていた。自称宇宙規模のストーカである束は、衛星をハッキングして二十四時間一夏の監視と言う名の追跡をしているのだから。

 

「箒ちゃんには消えてもらった方がいっくんの為だね~。でも、無能な日本政府の人間がそれを善としないか……この小鳥遊とかいう女、ちゃんと考えてるんだね……」

 

 

 口調はしっかりとしているが、束の顔をだらしなく緩み、そして口からは涎が垂れていた。一夏の寝顔に興奮している証拠だ。

 

「身を持っていっくんの強さを知れば、箒ちゃんも理解出来るのかな? でも、あの単細胞がいっくんの考えを理解出来るとは思えないし……」

 

 

 自分の考えが絶対だと思い込んでいる箒は、束が考えるように身を持って体験したとしても考えを改めない可能性が高い。一度死ぬような経験でもしない限り、あの考えは改めないだろうと束は考えているのだ。

 

「いっくんが対抗戦に参加すれば方法はあるんだけどなぁ……そうだ! ちーちゃんとなっちゃんに相談していっくんに参加してもらえば良いんだ!」

 

 

 閃いたとばかりにうさ耳をピンっと伸ばし、携帯を探し始める束。彼女の携帯に登録されているのは一夏の番号のみだが、特別仕様のこの携帯は、非通知で念じた相手に繋がる優れものだったのだ。束は夜遅くのこの時間に千冬に連絡をし、一夏の意思を無視した取り決めをするのだった。




また大天災が動き出す……

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