暗部の一夏君   作:猫林13世

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早くも天才の片鱗が……


一夏の特殊能力

 楯無の迅速な判断のおかげで、更識家はISの動力源――コアを一つ手に入れる事が出来た。無論一つでは大した事は出来ないだろうが、ゼロよりかは一の方が可能性はある。

 

「篠ノ之束の発表によれは、ISは女性にのみ反応するようです」

 

「それは彼女が望んだ結果なのか?」

 

「いえ、篠ノ之束の意図した結果では無いようです。彼女はそこまで計算して造ったようではなさそうですし」

 

 

 実際束は自分と千冬、千夏が使えれば後はどうでも良いと考えていたのだ。その結果なのかは分からないが、ISは女性にのみ反応するように完成したのだ。

 

「既に各国がISを大量生産出来ないか模索中です。篠ノ之束がコアを各国に配布する条件として、軍事産業や戦争にISを使わないと確約させたおかげで、直接的脅威には繋がりませんが、ISを多く保有している国がこの確約を護るという保証はどこにもありません」

 

「そうだな。だから一つでも多くのISを欲するのだろう。今現在は篠ノ乃束もISのコアを造る事に協力的だが、何時その考えを改めるか分からないからな。今の内にコアの解析と造り方を研究しておいた方がいいだろう」

 

「ですが、我々は実働部隊です。このような研究は得意としておりません」

 

「そうだな……誰か新しい人間を雇い入れるしかないだろうな」

 

 

 更識は実働部隊であり研究職の人間は在籍していない。ISが造られる事が無かったら気にもならなかった事だったのだが、このような事態なのでやむを得ないと楯無は判断したのだ。

 どのような人材をスカウトするかの話合いをしていたら、外に何ものかの気配を感じ取り、楯無は従者に扉を開けさせた。

 

「刀奈? 何のようだ」

 

「いえ、私じゃなくって一夏君が……」

 

「どうかしたのか?」

 

 

 楯無の記憶では、一夏がこの屋敷に来てから今日まで、自分の意思でこの部屋に来た事は無かった。だが今は刀奈が付き添いで一夏が自分の意思でこの部屋に来たのだ。

 

「それ……」

 

「ん? これか。これはISのコアだ」

 

「僕、それ造れるよ」

 

「……なに?」

 

 

 別に聞こえなかったわけではない。一夏の言葉が、楯無が想像していた範疇を越えた事だったので思わず訊き返したに過ぎない。

 

「だから、僕はそのコアを造れるよ」

 

「本当か?」

 

「うん。何でかは分からないけど、造れる気がするんだ」

 

 

 そう言って一夏はコア作成に必要なものを紙に書き出し従者に手渡した。半信半疑ながら楯無を見た従者に、楯無は無言で頷いてその材料を持って来させた。

 

「一夏君、何で造れると思ったの?」

 

「んっとね、良く分からないけど、さっきテレビを見た時に思ったんだ」

 

「だが一夏、君は記憶が無いのだろ? 何故そう思ったんだ?」

 

「何でかは分からないけど、造れるなって思ったの」

 

 

 理由は一夏本人も理解していないようだが、楯無は一夏の言う事を信じてみる事にした。造れなかったとしてもなにも失うものは無い。楯無はそう考えていたのだ。

 暫くして従者が一夏のメモにあったものを揃えて戻ってきた。材料自体はさほど貴重なものでは無かったと、楯無は集められたものを見て思った。

 

「それで一夏、どうやって造るんだ?」

 

「ちょっと待ってて! すぐ造ってくるから」

 

 

 材料だけを持っていき、一夏は楯無の部屋から飛び出て行った。どうやら造っているところは見られたくないらしい。

 

「刀奈、一夏はテレビを見てすぐに私の部屋に行くと言ったのか?」

 

「ううん、テレビを見て、多分お父さんの部屋にこのコアが到着した時くらいにいきなり……」

 

 

 束がISを発表したのが一昨日、もしテレビを見て造り方が分かったのならすぐに一夏はこの部屋に来ていたはずだ。楯無は何が一夏がコアの造り方を理解したきっかけなのかを考えたが、そんなものは分かるはずも無い。なぜなら、一夏自身も理解していないのだ。他人である自分が理解出来るはずも無いのだと、楯無は思考を巡らせる事を止めた。

 そして暫くして、一夏が再びこの部屋に戻ってきた。その手には、つい先ほど従者が持ってきた物と全く同じもの――ISのコアが握られていた。

 

「はい、これ」

 

「至急政府から支給されたコアと、一夏が造り上げたコアの分析を! この際どれだけ時間が掛かっても良いから今いる人間にやらせろ!」

 

「ぎょ、御意!」

 

 

 普段声を荒げる事の無い楯無が大声で指示を飛ばしたので、従者も飛び上がるようにして返事をした。そして弾かれたように二つのコアを持って部屋から出て行った。

 

「一夏、もし君が造ったものと篠ノ之束が造ったものが同一だったとしたら、君は再び狙われる可能性が高くなるかもしれない。だから、同じものだった場合は君の護衛を更に厳重にさせてもらう」

 

「良いよー。僕はみんなに『アイエス』に乗ってもらいし」

 

「みんな、とは?」

 

「えっとねー、刀奈ちゃんに簪ちゃん、虚ちゃんに本音ちゃん、それと美紀ちゃんと碧お姉ちゃん!」

 

「自分は乗ってみたいとは思わないのか?」

 

「だって『アイエス』って女の子しか動かせないんでしょ? 僕は男だしね、無理だもん」

 

「そうか……やはり『IS』は女性にしか動かせないのだな」

 

 

 解析結果を待つ前に、ISが女性専用だと理解した楯無は、これから先は女性が優位に立つ時代が来るだろうと心のどこかで理解した。理解せざるをえなかった。

 ISが世界中の女性全員に支給されるとは思えないが、ISという強みを得た女性が、今の世の中をそのままにしておくはずが無いと、あきらめにも似た何かで楯無は理解したのだった。

 そして数日後、束のコアと一夏のコアが同一であると解析結果が楯無にもたらされたのだった。




整備はみんなで仲良く……だがコアは一夏が造る

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