暗部の一夏君   作:猫林13世

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原作より仲が良い感じがする。


悪友との昼食

 約束の昼休み、一夏たちは食堂に向かい鈴と合流した。

 

「遅いわよ!」

 

「仕方ないだろ。教室を出る時織斑姉妹に捕まったんだ」

 

「それなら仕方ないわね……あの二人に逆らうなんて自殺志願者くらいでしょうし」

 

 

 一夏が織斑姉妹の弟である事を知っている鈴は、特に追及する事無く確保していた場所へと移動した。

 

「あたしは先に行ってるから、アンタたちは早く買って来なさい」

 

「今日は簪とマドカと美紀が並ぶ日で、俺と本音が場所取りだったんだがな」

 

「一夏と本音は凰さんと一緒に待ってて。私たちで買ってくるから」

 

「久しぶりのご友人との再会なんですから、一夏さんはお喋りでもしててください」

 

 

 ここで自分が、と言えないのが一夏は悩みの種だった。バランス感覚では簪や美紀にはもちろん、本音にも劣る一夏としては、自分の分を運ぶので精一杯、とても両手にお盆を持ってまったく零さずに運ぶのは不可能なのだ。男として情けないと感じつつも、自分に出来ない事に挑戦する意思は一夏には無かった。出来ない事は出来るようになってからすればいいが一夏の考えなのだ。

 

「一夏、アンタちゃんと友達いたのね」

 

「いや、鈴だって同性の友達いないだろ……それに、友達というより家族だからな、みんなは」

 

「家族……更識所属のIS操縦者なのね、今のメンバーが」

 

「あのメンバーに刀奈さん、虚さん、そして碧さんを加えたメンバーが今のところ更識所属だな」

 

「アタシも更識企業に専用機を造ってもらいたかったわよ」

 

「中国の代表候補生が、日本のIS企業に専用機を造ってもらうって、他の国から抗議が殺到するぞ」

 

 

 一応更識所属のISは何処の国にも属さない扱いなので、個人的なコネがあれば日本以外の国の代表、もしくは候補生が専用機を造ってもらっても問題は無い。だが、今のところ日本所属の代表、及び候補生のみが更識企業が製造した専用機を与えられているのだ。それが中国の候補生の鈴に専用機を提供すれば、じゃあ我々もと言い出す国が続出する事は想像に難くない。

 

「友人の頼みって事で納得してくれないかしら?」

 

「無理だろ」

 

「いっちーが私たち以外と話してるのは珍しいねー」

 

「古い付き合いだからな」

 

「あー、アンタまだ苦手なのね、人と話すの」

 

「慣れれば問題無いんだが、初対面の人とかそれ程交流の無い人は苦手だ」

 

 

 その原因を何となく知っている鈴は、それ以上話を膨らませる事はしなかった。ここには他の人の耳もあるのだ、あまり一夏の秘密をひけらかしにするのは鈴も本意ではない。話題を変えようとしたタイミングで、簪と美紀、そしてマドカが食事を購入してこの場にやって来た。

 

「一応自己紹介しとくわね。中国の代表候補生で一夏の古い友人の凰鈴音です。気軽に鈴って呼んでいいわよ。でも、続けるのは無しだからね」

 

「よろしく、リンリン」

 

「だから続けるのは無しだって言っただろ、アンタは!」

 

「ほえっ!?」

 

 

 反応速度コンマ五秒のツッコミに本音以外のメンバーが拍手を送る。見慣れてる一夏ですら、久しぶりに見ると賞賛を送りたくなるような反応速度だったのだ。

 

「相変わらずキレのいいツッコミだな、鈴」

 

「これ、アンタの知り合いでしょ? 注意しておいてよね」

 

「実は既に注意したんだがな」

 

「あっ、本人には言っちゃダメだったんだっけ……じゃあなんて呼ぼうかな~」

 

「普通に鈴で良いんじゃない? 私は日本代表候補生で更識所属の更識簪。よろしくね、鈴」

 

「同じく日本代表候補生で更識所属の四月一日美紀です。よろしくお願いしますね、鈴さん」

 

「更識所属の布仏本音だよ~! よろしく、リンリン!」

 

「だからその呼び名は止めろ!」

 

 

 学習しない本音に、再びコンマ五秒でツッコミが入る。本音が学習しないのは今に始まった事では無いので、鈴以外の四人は挨拶を続ける事にした。

 

「更識所属で兄さまの妹、織斑マドカです。貴女が兄さまが認めたご友人の鈴さんですか」

 

「一夏、アンタ妹いたの?」

 

「あぁ、いたらしい」

 

「らしいって……あっ、記憶が無いのか」

 

「最近再会してな。織斑姉妹との仲も良好だ。だよな、マドカ?」

 

「はい、兄さま」

 

 

 一夏の言葉に少し考えてから答えに至った鈴に、マドカの現状を手短に伝える。織斑姉妹との仲が良好、というだけでだいたいの事は伝わるのだ。

 

「それなら問題なさそうね。ところで、さっきからこっちを見てる金髪がいるんだけど」

 

「金髪? ……あ、セシリアさん」

 

「ごきげんようですわ、一夏さん。私もご一緒してもよろしいですか?」

 

 

 セシリアの問い掛けに一夏は周りに視線を向ける。全員が肯定の旨をアイコンタクトで伝えると、一夏は小さく頷いてセシリアの同席を許可した。

 

「えっと、一夏の友達?」

 

「クラスメイトのセシリア=オルコットさん。ちょっと対立しかけたけど、今は良好な関係を築けそうな感じかな」

 

「はじめまして。イギリス代表候補生のセシリア=オルコットですわ」

 

「中国代表候補生の凰鈴音よ。よろしく、セシリア」

 

 

 一夏が良好な関係を築けそうと判断した相手なので、鈴は特に警戒心を抱く事無くセシリアに手を差し出す。その手の意味を理解したセシリアが、鈴の手を浅く握る。

 

「対立しかけたって、例の代表選考戦と関係あんの?」

 

「その話しは止してもらえますか? あの恐怖が……」

 

「何があったのよ……」

 

 

 一夏に瞬殺された後で、セシリアのここにいる美紀、本音、マドカにボロボロに打ちのめされた後、織斑姉妹との楽しい面談を体験したのだ。その事を思い出して震えだすセシリアを見て、鈴は首を傾げたのだった。

 そしてそんな七人を恨めしそうに遠目で見ている少女がいる事を、美紀と簪とマドカは気づいていた。一夏の護衛として、あの視線だけは一夏に近づけさせないようにすると決意しているからだが、同じ決意をしたはずの本音は、残念ながら気付けなかったのだった。




大人しくなったセシリアと、大人しくならない箒……

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