暗部の一夏君   作:猫林13世

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彼女がIS学園に姿を現す


転校生は悪友

 美紀の代表就任パーティーがお開きになった頃、一人の少女がIS学園を訪れていた。

 

「ここね、IS学園……政府の親父たちを説得するのに手間取って入学試験には間に合わなかったけど、漸く転校の手続きが完了したわ。えっと……まずは事務室に行ってこの書類を提出して、それで正式にIS学園に入学が完了するのよね」

 

 

 少女はリュックの中から重要書類を取り出し、事務室に提出する為にふらふらと歩きはじめる。

 

「えっと事務室は……多分コッチね」

 

 

 すぐそばに案内板があるのにも関わらず、少女は勘だけで事務室を目指した。そして、その少女の勘は全くの見当外れだったのだ。

 

「あれ? おかしいわね……あたしの勘ならそろそろ事務室に着くんだけど……ん? これってIS学園の施設案内? えっと、現在地がここで事務室が……って、全くの真逆じゃない!」

 

 

 少女――凰鈴音は地図などに頼りたくないという考えの持ち主だった。方向音痴では無いのだが、悉く勘を外す残念な面があったのだった。

 

「とりあえずダッシュで元いた場所まで行って、そこからさらにダッシュで事務室に提出しちゃいましょう」

 

 

 鈴音はダッシュで事務室を目指し、途中で重要書類を手放しそうになるほど勢いを付けた。そして既に閉まっている事務室の小窓を叩き、強引に事務員に書類を押し付ける。

 

「ねぇ、更識一夏って何組?」

 

「更識君は一組ですね」

 

「あたしは? 何組に編入するの?」

 

「えっと……凰さんは二組ですね」

 

「ふーん……ところで、クラス代表ってもう決まってるのよね? 一組の代表は?」

 

「一組は四月一日美紀さんですね、日本代表候補生の」

 

 

 それを聞いて鈴音は首を傾げた。普通なら物珍しさで一夏が選ばれるのもだと思っていたのに、選出されたのは実力十分の美紀だったのだから。

 

「更識一夏じゃないんですか?」

 

「何でも更識君は生徒会に選出されたから、代表は辞退したみたいよ」

 

「なるほど……」

 

 

 鈴音の中で納得出来たようだ。彼女の中でも一夏は戦闘より事務作業の方が向いていると判断されているのだろう。

 

「それでは凰鈴音さん、ようこそIS学園へ。これが生徒手帳と、IS学園特記事項が書かれた冊子です。ちゃんと目を通してくださいね」

 

「この分厚いのを? 冗談でしょ?」

 

「ちゃんと目を通しておいてくださいね」

 

 

 にこやかに告げる事務員に、鈴音は頷く事しか出来なかった。あの迫力は、少なくとも鈴音の中でトップクラスだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転校生の噂は、何処の学校でも話のタネになる。IS学園も多分にもれず朝からその話題で盛り上がっていた。

 

「何でも二組に転校生が来るらしいよ」

 

「こんな時期に? 珍しい事もあるものだな」

 

「ねぇねぇ四月一日さん」

 

「何、相川さん」

 

 

 更識組の会話に割り込んできた相川清香に、美紀は視線だけ向けて問いかける。敵意が無いのは分かっているのだが、一夏は若干清香から離れた位置に移動し、マドカと本音が一夏を庇うように前に出た。

 

「四組の代表の更識さん、同じ候補生なんでしょ? どっちが強いの?」

 

「簪ちゃんの方が強いですよ。でも、何故そんな事を気にするんです?」

 

「今度のクラス対抗戦、優勝したクラスには学食のデザート食べ放題って噂なのよ」

 

「ほぇ!? 食べ放題!」

 

「本音……そこに喰いつくなよ」

 

 

 甘いものに目が無い本音は、清香の話に喰いつき一夏を庇っていた事を失念した。一夏も清香には危険が無いと判断したのか、既に冷静を取り戻していた。

 

「そっか……でも、専用機持ちは四月一日さんと更識さんだけだし、更識さんに勝てれば優勝出来るかもね」

 

「ですが私は簪ちゃんに五回に一回勝てれば良い方で、確率的には――」

 

「その情報、古いよ!」

 

 

 美紀の言葉をぶった切るように扉が開かれ、そして仁王立ちするように一人の少女が扉の先に立っていた。

 

「久しぶりね、一夏」

 

「鈴? お前、何でここにいるんだ?」

 

「何でって、転校してきたからに決まってるじゃない! ちょっと手間取って入学には間に合わなかったけどね」

 

「ふーん……噂の転校生って鈴だったのか。それで、情報が古いって?」

 

「二組の代表はあたしに変更になったの。中国代表候補生で『甲龍』の持ち主のあたしにね!」

 

 

 もう一度胸を張るように仁王立ちした鈴の背後に、二人の鬼が近づいている事に一夏は気づいていた。だが、久しぶりの悪友を驚かせる為に、あえてその事は教えなかったのだ。

 

「「邪魔だ、小娘」」

 

「痛っ! 誰よまった……く?」

 

 

 振り返った先にいたのは、テレビの中で無双していた元世界最強コンビだった。

 

「織斑千冬……織斑千夏まで」

 

「「織斑先生と呼べ、バカ者が!」」

 

「何で『デビルシスターズ』が……」

 

「なんだその名前?」

 

「一夏知らないの? 他国で織斑姉妹と言えば『悪魔の姉妹(デビルシスターズ)』で有名なのよ。悪魔のように攻め立て、簡単に終わらせてくれないってね」

 

「一撃で終わらせてたように思えるが」

 

「その一撃までが長いのよ……」

 

 

 遠い目をした鈴の後頭部に、千冬と千夏の出席簿が振り下ろされた。

 

「もう予鈴は鳴っている」

 

「小娘はさっさと自分のクラスに戻るんだな」

 

「分かりました……じゃあ一夏、後で話しましょ」

 

 

 片手を上げて挨拶した鈴に、一夏も片手を上げて返事をする。その二人の関係を羨ましそうに、また妬ましそうに見ている一人の少女がいたが、一夏の意識にその少女が引っかかる事は無かった。




友人として鈴は使いやすいキャラですよね

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