暗部の一夏君   作:猫林13世

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あの人は参加しません……


代表就任パーティー

 クラス代表が決定した事を祝して、一年一組のクラスメイトほぼ全員が食堂に集まりパーティーを開く事になった。主役の美紀や一夏は参加を辞退しようとしたのだが、お祭り好きの本音が二人の参加を表明してしまった為、今更辞退できないと言われて渋々参加していたのだった。

 

「それにしても、やっぱり更識所属のみんなは強かったねー」

 

「更識君だって、あのままやってれば勝てたんじゃないの?」

 

「さすがに美紀やマドカ、本音には勝てませんよ。俺は自己申告したように強くありませんから」

 

 

 基準値が普通より高い一夏たちは、世間から見れば十分に強くても満足出来ない節が見られる。それでも一夏は、その中では割かし周りからの評価を受け容れているのだ。

 

「そんな事無いと思うけど。更識君だったら今度の対抗戦でも良いところまでいきそうだと思うけどな」

 

「他のクラスの代表が誰なのかは知りませんが、四組の代表には絶対と言い切れるほど勝てませんから」

 

「かんちゃんだもんね~」

 

 

 日本代表候補生であり、更識所属の中で碧、刀奈、虚の次に位置する簪には、美紀でも五回に一回勝てる程度なのだ。その美紀より下に位置する一夏が簪に勝てる確率は、それこそ万に一つだろう。

 

「それにしても、篠ノ之さんも誘ったんだけどね」

 

「何でも織斑姉妹とのお話があるからって、小鳥遊先生に言われちゃったんだよね」

 

「自業自得です。あの女は兄さまの敵なのですから」

 

「敵って?」

 

 

 マドカが呟いた言葉にクラスメイトが興味を示したところに、上級生の乱入者が現れた。

 

「はいはーい! 期待の一年生、四月一日美紀さんと更識一夏君、それから織斑姉妹の妹で更識君の妹でもある織斑マドカさんにインタビューさせてもらいまーす! あっ、私は新聞部二年の黛薫子ね」

 

 

 はい、と名刺のようなものを差し出した先輩に、三人はどう反応すればいいのか困り、とりあえず受け取る事にした。

 

「それにしても、更識所属がこんなにいるなんて、さすがかっちゃんの家の子ね」

 

「かっちゃん? ……刀奈さんの知り合いなのですか?」

 

「ルームメイトよ。それにクラスメイトでもあるけどね。じゃあ早速、代表に選ばれた四月一日さんから意気込みを」

 

「えっと……簪ちゃんに負けないように頑張ります」

 

「かっちゃんの妹さんかー。確かに強そうだよね~」

 

 

 凄い速度でメモを取り薫子に、一夏は若干恐怖心を抱き美紀の背後に隠れる。

 

「それじゃあ次、更識君ね。何で棄権しちゃったの? あれだけオルコットさんを圧倒する力があるんだから、他の三人にも勝てそうな気がしたけど」

 

「自分の戦い方では、精々初見相手にしか勝てません。同じ所属で自分より遥かに強い三人に挑んでも、無様に負けるだけですから。それに、自分は生徒会入りが決まっていますので、本来ならオルコットさんとも戦う必要は無かったんですよ」

 

「じゃあ何で戦ったの?」

 

「……織斑姉妹が『せめてオルコットとは戦え』と言ったものでして」

 

「なるほど……織斑姉妹の命令には逆らえないんだね」

 

 

 何か曲解した薫子に、本音がやんわりと釘をさす。

 

「あまりにも捏造記事だったら、おね~ちゃんに言い付けますよ?」

 

「ッ!? お願いだから布仏先輩には言わないで!」

 

 

 虚から聞いていたのか、本音がヒラヒラと携帯を薫子に見せつけると、さっきまでの勢いが全て謝罪に使われているのではないかと思うくらいの速度で頭を下げた。その姿に、美紀と一夏は驚き、そして本音に恐怖した。

 

「えっと……気を取り直して、最後は織斑さんね。偉大なお姉さんたちと有名なお兄さんがいるけど、織斑さんの目標は?」

 

「少しでも姉さまたち、そして兄さまに近づく事です」

 

「でも、更識君は織斑さんの方が強いって言ってるけど?」

 

「兄さまの凄さは戦闘では無く整備で発揮されますから。本来争いごとを嫌う兄さまが、あそこまで戦えるようになったのは並大抵の努力ではありません。私はその少しでもいいので、兄さまに近づきたいのです」

 

「なるほど、努力の量ね……更識君は天才じゃなくって秀才だったのね」

 

「兄さまは天才であり秀才です。だから私などが兄さまより強いなどと、そんなおこがましい事は言えません」

 

 

 マドカの言葉に感動したのか、薫子はマドカの両手をがっしりと掴み、そして数回上下に振った。

 

「頑張ってね! 陰ながら応援するから!」

 

「はい!」

 

「それじゃあ最後に、一応オルコットさんにもインタビューさせてもらおうかな」

 

「一応なのですの!?」

 

 

 イギリス代表候補生としての自尊心がその言葉に反応したが、その自尊心が原因で酷い目に遭ったばかりのセシリアは、それ以上何も言わなかった。

 

「ズバリ、その身で体感した更識君の強さは?」

 

「何処の国の代表でも務まると思いますわ。ですが、一夏さんは何処の国の代表にもなるつもりは無いそうですので」

 

「ふーん……険悪だって聞いてたけど、仲直りしたんだね」

 

「私のくだらない自尊心のせいで、一夏さんたちに不快な思いをさせた件は謝らせていただきました」

 

「そっか。でもセシリアちゃんも新入生の中では間違いなく上位クラスだし、頑張ってね」

 

 

 一応の応援をした薫子は、最後に一枚とカメラを構える。何故かクラス写真になってしまったが、一夏たちはその写真を薫子からもらい、部屋に飾ったのだった。




誘われなかったんだろうな……哀れ、モップよ

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