暗部の一夏君   作:猫林13世

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さて、どっちが強いのだろうか……


一夏VSセシリア

 仮想だけではダメだという事で、生徒会権限でアリーナの使用許可を得た刀奈に連れられ、一夏は今特訓を積んでいる。闇鴉の特性であるスピードを生かした戦い方を徹底的に身体に覚えさせる為らしいが、一夏としては勝てるとは思っていないので訓練はほどほどに頑張る程度だった。

 

「一夏君、そんなんで勝てるの?」

 

「いや、最初から勝つつもりはあまり……無様に負けなきゃそれで良いかなって」

 

「良くない! 一夏君が負けるところなんて見たくないもの!」

 

「……刀奈さんは授業がありますよね? どうやって見るつもりなんです?」

 

 

 代表選抜戦は普通の授業時間に行われる。だから一年一組以外の生徒がその模様を見学する事は不可能なのだ。当然の疑問に思われた一夏の発言だったが、この場においてはその当然は当てはまらない。

 

「何言ってるのよ。一夏君が侮辱されたんだから、私や虚ちゃんだって参戦する勢いだったのよ。でも、碧さんに『見学だけにして』って言われたから、私と虚ちゃんもモニター室で観戦するのよ」

 

「はぁ……そうだったんですか」

 

 

 碧が何故刀奈たちに見学を許したのか、その理由は一夏にも理解できている。だからこれ以上その事で論議を交わすつもりは無く、もう一度刀奈が考えた戦術を身体に覚えさせる為にトレーニングに励むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラス代表選出戦当日、一夏はピットで精神統一をしていた。一夏の出番は一番最初、つまりセシリアが隠している武装は見る事が出来ないのだ。

 

『いくら隠していても、ブルー・ティアーズが教えてくれてるんですけどね』

 

「まぁそういうな。彼女なりに頑張ってるんだろう」

 

『まさか専用機が相手に情報を流してるなんて思わないでしょうからね』

 

「そもそも彼女は、ISが喋れるなんて思って無いのだろうさ」

 

 

 白式が人型になれるのは見ているが、他のISまで喋れるなどとは思っていないと一夏は言う。事実一夏以外にISの状態のままでISの声を聞く事が出来る人間は、更識所属の専用機持ちが、自分たちの専用機の声だけで――簪と美紀は互いの専用機の声も聞こえるが――それ以外には確認されていないのだ。

 

「ビット兵器が六個か……面倒だな」

 

『一夏さんの射撃の腕なら、一個一発で確実に打ち落とせると思いますが』

 

「偏向射撃が出来ないんだっけ? ならいけるかな」

 

 

 打ち出した弾の軌道を変える事が出来ないセシリアは、一夏にとって恐怖の対象では無かった。それでも、普通に戦えば勝てないだろうなと一夏は思っている。

 

『私も一夏さんを侮辱したあの女を許せません。だから一夏さん、頑張って勝ちましょうね!』

 

「刀奈さんたちも見てるし、とりあえず頑張るけどさ……勝てるなんて自惚れは抱いて無いからな」

 

『そこは嘘でも勝つって言うところですよ』

 

 

 闇鴉との会話を終え、一夏はアリーナへと歩を進めた。大観衆、まではいかなくてもクラスメイト全員が一夏を見ているのだ、若干震えだしそうになっても仕方ないのかもしれない。だが、一夏は多くの視線の中から、自分の事を心配してくれている視線をいくつか見つけ、そのおかげで平常心を保つ事が出来たのだった。

 

「あら、逃げ出さずに来ましたのね。それだけは褒めて差し上げますわ」

 

「別に貴女に褒めてもらう言われはありません。それよりも、前に忠告した事、また忘れたんですか? あまり人を見下してると、何時か痛い目を見る事になりますよ」

 

「貴方がそれ程強いとは思いませんもの。何やら特訓をしていたようですが、所詮付け焼刃ですわ」

 

 

 セシリアの発言は、一夏にしか聞こえない。だが、色々と人外が揃っているIS学園には、読唇術が使える人間が複数存在するのだ。

 

『オルコット、今の発言、後で覚えておけ』

 

『一夏を侮辱するとは言い度胸だ』

 

『……そろそろ始めますので、オルコットさんは平常心を取り戻してください』

 

 

 プライベートチャネルで脅しをかける織斑姉妹に、セシリアは顔色を悪くした。プライベートチャネルなので一夏には何故セシリアの顔が蒼白になっているのか分からないが、細かい事は気にしない事にしたのだった。

 

『それではカウントを始めます』

 

 

 オープンチャネルで碧が宣言し、カウントが始まる。一つ減るごとに一夏は周りの視線をシャットアウトしセシリアに集中していく。

 

『開始!』

 

 

 碧の合図と共に、セシリアはライフルを取り出し一夏に照準を合わせた。

 

「踊りなさい! この、セシリア=オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲で! ……あら?」

 

 

 完璧に照準を合わせたつもりのセシリアだったが、その先に一夏の姿は無かった。

 

「何処に行きましたの? センサーにも反応がありませんし……」

 

 

 センサーだけでは無く肉眼でも一夏の姿を探すが、セシリアはついに一夏の姿を見つける事は出来なかった。

 

「なっ! 何処から攻撃してますの!?」

 

 

 姿も見えない、武器も見えなければ飛んでくる弾もぶつかる寸前まで見えない。これでは反撃はおろか回避行動すらとれない。セシリアはとりあえず移動しながら攻撃が出てくる場所を探す事にした。

 

「どこですの! 卑怯者! 姿を現しなさ……なっ!?」

 

 

 センサーに敵接近の表示が出たと思った次の瞬間には、一夏の専用機闇鴉がセシリアの目の前に姿を現し、そしてSEを半分以上削る斬撃を繰り出した。

 

「なんですの、今の攻撃は……」

 

『勝者、更識一夏』

 

 

 驚いている間にもう一撃喰らわされ、あっさりとセシリアは一夏に敗北したのだった。

 

「更識一夏……いったいどんな方法で私を下したのでしょう……」

 

 

 まったく歯が立たなかったセシリアだったが、彼女は純粋に一夏に興味を抱いたのだった。




これが更識製のISの力だ

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