暗部の一夏君   作:猫林13世

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再びトラウマ発動……


昼食時に

 昼休みを迎え、一夏たちは再び食堂を訪れた。成り行きで白式が人型になれる事をバラしたので、昼は白式も一緒に行動している。

 

「あら? 今日は白式ちゃんも一緒なんだね」

 

「お嬢様、口にものを入れた状態で喋るのはお行儀が悪いですよ」

 

 

 普段は学年ごとに食堂も別れているのだが、別段立ち入り禁止というわけではない。なので昼食は刀奈と虚も一緒に摂る事にしたのだ。

 

「さっきの授業でISにも個性がある、という事を説明する為に人型になってもらいましたので、そのまま行動してもらっています」

 

「へへー、一夏様のお役に立ったの」

 

 

 一夏に褒めてもらい胸を張る白式を、微笑ましく眺める一同。白式はこの中では共通の妹のような扱いなのだ。

 

「それにしても、一夏君の注目度は高すぎるわよ。さっきから羨む視線が何本も……」

 

「仕方ありませんよ。私とお嬢様は学年が違うんですから」

 

「ところで一夏、生徒会に入るって本当?」

 

「選考から外れるなら、それでもいいかなと思ってな」

 

「あー……その事なんだけど」

 

 

 気まずそうに刀奈が視線を逸らしたのを見て、一夏は何となく刀奈が言いたい事を理解したのだった。

 

「千冬さんと千夏さんにその事を話したら、『せめて選考戦が終わってからにしろ!』って怒られちゃった……」

 

「よっぽど兄さまの戦いが見たいのでしょうね」

 

「迷惑な話だ……」

 

 

 織斑姉妹を説得するのは、一夏ですら困難だ。説得する労力と諦めて選考戦に参加する事を天秤に掛け、一夏は諦める事にしたのだった。

 

「それにしても、あのせっしーとか言う子、いっちーの事をバカにし過ぎだと思うんだよね。皆で懲らしめるのはどうかな~?」

 

「本音ちゃんがやる気なら、私もやるよ。一夏さんの事をバカにした事を後悔させてあげるんだから」

 

「兄さまの為に、私も頑張ります!」

 

「……オルコットさん、南無」

 

 

 この三人を本気にさせた事に対して、一夏はセシリアに同情した。自業自得ではあるのだろうが、この三人相手に戦わなければいけないと思うと、一夏もさすがに可哀想だと思うのだった。

 

「三人が懲らしめても態度を改めなかったら、私と虚ちゃんも戦ってあげるわよ」

 

「後輩を正しい道に導くのも先輩の務めですから。そして、生徒会の仕事でもあります」

 

「……一夏様、あのオルコットとか言う候補生、死ぬんじゃないですかね?」

 

「……さすがに死にはしないとは思うぞ」

 

「なんなら私もその人を懲らしめるよ?」

 

「もうやめてあげてください」

 

 

 簪も参戦の意を表明したのに対して、一夏はさすがにやり過ぎだと判断したのだった。

 

「ちょっといいか」

 

「……何か用でしょうか、篠ノ之さん」

 

 

 丁度一段落したタイミングで一夏に声を掛けてきた箒。その声だけで一夏の緊張感が高まっていると、箒以外全員が理解した。もちろん白式や本音も。

 

「お前、自分の事を強く無いとか言ったな」

 

「ええ、事実ですので」

 

「男がそのような弱気でどうする! 私が鍛えてやるから剣道場に来い!」

 

「ISに剣道は関係ないと思うのですが……」

 

 

 少しずつ、一夏の幼児退行が始まっているのが刀奈たちには分かった。このままではトラウマが発動し、最悪泣きだしてしまうかもしれない。そう判断して、箒には早々に退場願うべきだと、刀奈と虚、簪と美紀の間でアイコンタクトで会話し決定した。

 

「篠ノ之さん、一夏の稽古には私たちが付き合うから」

 

「無関係の篠ノ之さんはあんまり一夏さんに関わらないでください」

 

「なっ!? 無関係ではない! 私は一夏の幼馴染だ!」

 

「そう思ってるのは貴女だけよ、篠ノ之箒ちゃん」

 

「一夏さんは貴女の事を単なる知り合いとしか思っていません。あんまりしつこく一夏さんに付きまとうようでしたら、こちらとしても対処を考えるしかないのですが」

 

「あ、貴女たち上級生まで口を挿むのですか! これは幼馴染である私と一夏の問題です!」

 

「入学式で言ったでしょ? 『あんまり私の義弟を苛めないで』って。もし苛めるのなら、それなりに覚悟しての事でしょうね?」

 

 

 刀奈が纏う空気が変わったのに、さすがの箒も後ずさる。良く見れば虚や簪、美紀が纏っている空気も冷たいものに変わっているのだ。

 

「い、一夏! お前はどうしたいんだ!」

 

「俺は、刀奈さんたちと訓練する。だから篠ノ之さんは大人しくしてて」

 

「くっ……」

 

 

 若干幼児退行している事に気づけず、箒はその場を後にした――というか、現実を受け容れられずに逃げ出した。

 

「よしよし、いっちーは良く耐えたね~」

 

「もう怖い女はいませんよ、兄さま」

 

 

 小刻みに震えている一夏を、本音とマドカが慰める。やはり一夏にとって篠ノ之箒という存在は恐ろしいものなのだ。

 

「美紀ちゃん、一夏君を部屋に連れて行ってあげて。後で私たちも行くから」

 

「分かりました。一夏さん、行きましょう」

 

「う、うん……」

 

「本音と簪ちゃんも、一夏君に付き添ってあげて。片付けは私たちがしておくから」

 

「分かった」

 

「いっちー、大丈夫?」

 

 

 周りの目を遮るように、三人で一夏を囲い食堂から移動する。一夏のトラウマを周りに知られるのは、色々とマズイと判断した刀奈は、即座に一夏を食堂から移動させ、人目のつかない自室で落ち着かせる事にしたのだ。

 

「虚ちゃん、マドカちゃん、白式ちゃん、速攻で片付けて一夏君の部屋に行くわよ」

 

「分かりました」

 

「兄さま……」

 

「一夏さま……」

 

 

 トレイを返却口に運び、片付け残しが無いかを確認した刀奈たちは、物凄い速度で食堂を後にした。

 

「な、なんだったのでしょう、あの男の感じ……」

 

 

 そんな一連の出来事を目撃していた少女は、一夏の事が気になってしまうのだった。




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