暗部の一夏君   作:猫林13世

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百話目で今年最後の投稿……奇跡的な巡りだな……


ISの授業

 IS学園での生活二日目の朝、一夏と美紀は簪たちと合流して食堂へと向かう。さすがに食材を用意していなかった為に、一夏も食堂を利用する事にしたのだ。

 

「いっちーが自分でご飯を作らないのって何時以来なの?」

 

「最近は忙しくて作って無かったし、むしろ最後に何時作ったのか覚えて無い」

 

「兄さまはご自身で料理を作られるのですか? 今度食べてみたいです」

 

「ああ、良いぞ。食材を買ったらマドカにも食べさてやる」

 

 

 そんな会話をしながら、一夏たちは開いている席へと腰を下ろす。一夏の隣に誰が座るか、それは毎回激しい争いの末に決まるのだった。

 

「今日は簪とマドカなんだな」

 

「うん。さっきじゃんけんで決めたから」

 

「何であの時チョキを出したんだろう、私……」

 

「まぁまぁ美紀ちゃん、そんなに落ち込まないでよ。美紀ちゃんはいっちーと同じ部屋なんだしさ」

 

 

 本音の妙な励ましにどう反応すればいいのか困った美紀は、とりあえず俯くのを止めた。

 

「更識君、ここいいかな?」

 

「別にいいぞ。俺の席ってわけでも無いんだし、気にする事は無いと思うけど」

 

 

 クラスメイトの二人が、本音の隣に座っていいか聞いてきたので、一夏は無難にそう返した。だが隣に座ってる簪には、一夏が緊張しているのが良く分かった。

 

「(一夏、そんなに緊張してたら一日もたないよ?)」

 

「(分かってるんだけど、やっぱ慣れない相手は緊張する)」

 

「(少しずつ慣れていこうね)」

 

 

 普段は簪が妹っぽいのだが、こういった時は一夏の方が弟っぽくなる。この二人の関係は義兄妹なのだが、たまに逆転するのだ。

 

「更識君って整備が専門なんだってね。昨日小鳥遊先生から聞かされてびっくりしたよ」

 

「まぁ、戦闘よりは整備の方が慣れてるかな」

 

「いっちーはあんまり争いごとを好まないからね~」

 

「ところで、更識君と織斑さんって兄妹なんだよね?」

 

「そうですけど、何か問題でも?」

 

 

 マドカが丁寧に対応したのは、一夏が緊張している事に漸く気がついたからだ。過去のトラウマから対人恐怖症である兄の代わりに、自分が対応しようとしたのだろう。

 

「いや、更識君の義姉である更識先輩や小鳥遊先生から事情はある程度聞いてるけど、苗字が違うとどうしてもね……気になっちゃうんだよ」

 

「兄さまは過去に想像を絶する出来事に巻き込まれてしまったのです。それが理由で姉さまたちとも距離を置く事になったのです。そして姉さまたちが本格的に忙しくなられたので、今の家で厄介になる事になったそうです」

 

「そうなんだ……大変だったね、更識君」

 

「もう慣れましたし、余程の事が無い限りは大丈夫ですので」

 

 

 クラスメイトに少し堅苦しい話し方をしているのは、一夏がまだ距離感をどうするか悩んでいるからだ。その事を理解したクラスメイトは、無理に距離を縮めようとはしないと決めたのだった。

 

「何時まで食べているんだ! いい加減食べ終えないと遅刻だからな!」

 

「一年の寮長はわたしたちだ! 規則を破ったものはそれ相応の処罰があると思え!」

 

「姉さま!」

 

「「学校では織斑先生と呼べ! もしくはお姉ちゃんだ」」

 

「……後半は心の内に止めておいてください、織斑先生」

 

 

 一夏のツッコミに、織斑姉妹はゆっくりと視線を逸らして行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラス代表選考戦は週末に行われる事になっているが、授業は普通に進められる。本当なら碧が担当するはずだった授業だが、織斑姉妹が散らかした寮長室を片付けるという事で、代わりに真耶が担当している。

 

「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して造られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます」

 

「先生、それって大丈夫なんですか? なんか体の中を弄られてるみたいでちょっと怖いんですけども……」

 

「そんなに難しく考える事はありませんよ。そうですね、例えば皆さんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出るという事は無いわけです。もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと型崩れしてしまいますが――」

 

 

 そこまで話して、真耶は自分を見つめる異性の視線に気づいた。

 

「え、えっと……更識君はしてませんよね。わ、分からないですよね、この例え。あは、あははは……」

 

 

 気まずさから愛想笑いを浮かべた真耶に代わり、一夏がマドカに視線を向けた。

 

「説明されるより実際に聞いた方が理解出来ると思います。マドカ」

 

「はい、兄さま」

 

 

 一夏に名前を呼ばれ、マドカはすっと立ち上がり白式に意識を向けた。

 

「うーん……こんな時間になに? ……あれ? 人間の姿にされてる」

 

「白式、少し兄さまの説明に付き合って」

 

「……あれって織斑さんの専用機?」

 

「言葉だけじゃ分からないかもしれないので視覚に訴えますが、このようにISにも意識があり、操縦者の事を理解しようとしてくれます。自分だけが理解しようとするのではなく、ISに理解されるように努力する事も大切です」

 

「そう言えばはじめましてだね! 織斑マドカの専用機の白式だよ。よろしくね」

 

 

 ちょこんと頭を下げた白式に、一夏は優しい笑みを向ける。表向きには更識が開発した専用機という事になっているが、この白式は篠ノ之束が製造し、一夏が改良を加えた特殊ISなのだ。人型にする事に成功した一夏は、白式の事を常に気に掛けているのだ。

 

「これで理解出来たとは思いますが、もう一度言います。ISにも意識があり、それぞれ個性があります。その事を覚えておいてください」

 

 

 視線を真耶に向け、一夏は補足説明は終わりだと伝えた。その事を正確に理解した真耶は、少し大袈裟な感動を込めた視線で一夏を見つめたのだった。




来年もご愛読の程、よろしくお願い致します。

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