暗部の一夏君   作:猫林13世

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徐々にISが絡み始めます……てか、最初から絡んではいるですが、顕著に物語に関わって来始めます


動き始める世界

 更識楯無はある一枚の報告書を見てため息を吐いた。内容は一夏の周辺を観察・警戒した結果だ。今のところ直接的な脅威は一夏の周りには存在していないが、一夏に悪影響を及ぼす可能性のある人物が一名観測されている。

 その人物の名は篠ノ之箒。一夏が更識家で生活するきっかけを作ったとされている篠ノ之束の妹で、その篠ノ之束よりも周りを考慮しない人物だと報告書には書かれているのだ。

 その一つの例を上げるとするならば、一夏が学校に復帰した初日、いきなり篠ノ之箒は一夏に近づき、おもむろに一夏の頭を叩こうとした。担任教師が寸でのところで箒の手を払ったおかげで一夏に肉体的ダメージは無かったが、記憶の無い一夏は、その行為一回で篠ノ之箒を恐れるようになった。

 その日の内に更識の護衛と碧とで篠ノ之箒に注意し、二度とそのような行動を取らないようにと警告したのだが、翌日には似たような行動を起こしているのだ。

 

「(この娘、おそらくは一夏君に好意を持っているのだろうが、それを表現する方法が分からないのだろう……だが攻撃的な性格と、自己中心的な考え方は放っておくと一夏君の脅威になりかねない)」

 

 

 楯無は少し考えて、前にクズ籠に捨てた重要人物保護プログラムを彼女に適応出来ないか考えを巡らせた。篠ノ之箒はISを生み出したとされている篠ノ之束の妹。重要度で言えば一夏より遥かに上に位置してもおかしくは無い。だが今のところ脅威が彼女を襲う事も無く、あの事件から世間は落ち着きを取り戻しかけているのだ。今の状況では篠ノ之箒に重要人物保護プログラムを適応させる事は不可能に近い。

 

「(さて、どうしたものか……)」

 

 

 考えを纏める為に瞼を閉じ、腕組みをしながら今後の事について思案する。この状態の楯無に話しかけると物凄く怒られるのだが、そんな事を気にしていならない程の事態が侍女によって楯無にもたらされた。

 

『ご当主様! 至急お耳にお入れしたい情報が!』

 

「……入れ」

 

『失礼します! ご当主様、至急テレビをお付け下さい!』

 

「テレビ?」

 

 

 楯無に自室にももちろんテレビはある。だが普段から点ける事は無く、ホコリを被った状態が長く続いていた。そのテレビが久方ぶりに点けられると、どこのチャンネルでも同じような内容を放送していた。

 

「篠ノ之束が、例の新型武装、インフィニット・ストラトス。通称『IS』の製造方法を世界的に発表。その結果各国はISの製造に精を出す事となりました」

 

「……製造方法の発表と言っても、これは外装だけの設計図だ。肝心の動力部分については一切発表していないではないか」

 

「彼女の言い分としては、『自分だけが作れればそれでいい』との事です。動力部分については篠ノ之束が製造して、それを各国に配布するようになる模様です」

 

「ISか……これが戦争に使われたら、ISを持たない国は一日持たずに降伏を余儀なくされるだろうな」

 

「その点はご心配の必要はなさそうです。篠ノ之束はISを『我が子』と申しており、その『我が子』を戦争に使おうものならその国ごと滅ぼすと発言しております」

 

「……冗談に聞こえないのだが」

 

 

 楯無はテレビに映し出されている篠ノ乃束を目に焼き付ける。後に大天災と呼ばれる彼女だが、楯無の目には普通の――見た目的な意味での普通で、中身は普通では無いと楯無は見抜いている――女子高生にしか見えなかった。

 

「情報部の人間に、至急ISの情報を集めるように通達。可能なら動力部分の獲得も並行して行うようにと」

 

「御意」

 

 

 世間はこれからISに支配されるだろうと考えた楯無は、自分たちも一つだけは動力部分となるものを確保しておくべきだと考えた。篠ノ之束とコンタクトが取れれば一番いいのだが、生憎楯無は彼女の友人の千冬・千夏としかコンタクトを取る事が出来ない。

 

「連絡するのは憚られるし、彼女たちも簡単に我々に協力してくれるとは思えないしな……」

 

 

 彼女たちの弟、一夏を更識で保護しているのだが、彼女たちはそれを完全に納得はしていない。毎日のように小鳥遊碧に一夏の状況を訊ね、隙あらば連れて帰ろうとしていると報告を受けているのだ。

 

「重度のブラコンとは、小鳥遊も面白い表現をする……まぁ、私が言えた義理ではないがな」

 

 

 娘を溺愛している楯無としては、千冬・千夏の気持ちも分からないでは無いのだ。だが当然のように、彼女たちのように弟と「そういった行為」をしたいなどとは考えていない。楯無の「それ」は、普通の父親が抱く感情と相違ないのだから。

 

「しかしISか……これからは力を鍛えるより、操縦技術を鍛えた方が良い時代が来るのだろか……そうなった場合、私はしっかりと対応出来るのだろうか……」

 

 

 常に何手も先を読む、大組織の当主として楯無は常にその事を優先してきた。だが今回のこれは、完全に楯無の予想の範疇を越えた出来事、後手に回っても仕方ない事。だが楯無はその事を恥じ、そして反省する。

 

「白騎士事件を考慮すれば、この可能性は十分に考えられたはず……しかしこれ程大事になるなんて考えていなかった……今から挽回する事は出来るのだろうか……」

 

 

 挽回出来なくても、せめて娘たちの幸せは守りたい。と楯無は思案を巡らせ、可能な限りの策を練る。暗部更識家の当主としてではなく、一人の父親としての策も、楯無の頭の中にはあった。だがそれを選ぶのは本当に最悪の事態に陥った時だけ。組織のリーダーとして、自分たちだけを守れれば良いなどという考えは、楯無には存在しなかったのだった。




ご当主の頭の痛い日々は続く……

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