ソードアート・オンライン~黒の剣士と絶剣~ リメイク版 作:舞翼
第39話≪彼女たちの元へ≫
SAOからの帰還後、俺は病院を内を片っ端から探したが、紺野木綿季、紺野藍子、結城明日奈の名前は無かった。 そう、彼女たちと会いたくても、情報がないのだ。
俺がベットに寄り掛かっていたら、病室のドアがノックされ、俺が返事を返すとドアが開かれ、スーツ姿に太い黒縁の眼鏡にしゃれっ気の無い髪形、生真面目そうな線の細い顔立ちの男性は此方に歩み寄り、俺を正面から見るようにした。 つーか、どう見ても国の役人だよなぁ……。
「こんにちは、僕は総務省の者ですが。 桐ケ谷和人さんで宜しいでしょうか?」
受け取った名刺を確認すると、本当に政府の者だった。
総務省の役人の名前は菊岡誠二郎。 所属するのは、総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二別室。 省務内での名称は、通信ネットワーク内仮想空間管理課。 通称《仮想課》。
「……俺に何の用ですか? いや、その前に政府組織には《仮想課》なんてなかったはずです」
「桐ケ谷君。 僕たち《仮想課》は君たちが囚われてから結成された組織だよ。……といっても、SAO被害者に病院を用意したり、プレイヤーをモニタリングしたりするだけで、此方からSAOを終わらせたりと、出来た事が余りなかったけどね……」
「でしょうね。 それはSAOを生きてた俺がよく解ってるますから」
おそらく、総務省の菊岡は、SAO内について俺から聞き出そうとしてるのだろう。――そう、SAOで茅場の一番近い位置に居た俺に。 菊岡も俺から情報を聞き出す為にある程度の手札は用意してるはずだ。
――だが、上手く誘導できれば、彼女たちの情報が手に入る確率がかなり高い。――さて、情報戦といきますか。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
俺と菊岡は、SAO内部で起きた事、外部で起きた事について話していた。 だが俺は……肝心な部分は伏せてる。 まだカードを切る場面ではないからだ。 てか、腹の底が見えねぇな。 この役人。
「言ったでしょう。 SAOプレイヤーはアインクラッドに幽閉された時、どんな方法で閉じ込めたか聞いたんです。 それに茅場は言いました、外部からの干渉は一切受け付けないと。 もし干渉したら、俺たちSAOプレイヤーは死んでしまいますからね。……それと菊岡さん。――――詳しく茅場の事について聞きたいんですよね」
「……じゃあ聞くね、桐ケ谷君。 ゲームをクリアする手段は一つだったはずだ。 だけど、僕たちのモニタリングでは最上階では無く、第75層でクリアとなってるんだ。 SAO帰還者の何人かに話を聞いたら、ボスに挑んで倒した事までは解った。……でも、その後はよく解らないっていうんだ。……いや、
菊岡は俺に「君のことだよね?」と問いかけた。
「俺のことで合ってますよ。てか、菊岡さん。 素直に言ったらどうですか。……『お前はどんな風にして、SAOから皆を解放したんだって』」
この辺で、
「それに、――――手札、もう無いんですよね。 さっきから同じ事の繰り返しです」
「――ッ!?」
菊岡は、俺の言葉に目を見開く。……ってことは、図星って事だ。
俺は更に
「菊岡さん。 さっき、
「いや、僕らがSAOプレイヤーについて知ってる事といえば、レベルと座標のデータ位だよ。 流石、茅場晶彦って言えばいいのかな、プレイヤーの個人情報の保護は、国家レベルで守られたよ。 でも、上位プレイヤー《攻略組》の情報は知ってた。 その攻略組で一番名を馳せていたのは、“黒の剣士”、鬼神と片割れって解ったんだ。 その子の特徴は、男の子で年齢は中学生くらい。 中世的な顔立ちに、漆黒の瞳だと」
菊岡は「この人物像を先に言ったのは僕じゃないからね」と言ってから言葉を続ける。
「SAOでは、
菊岡は笑みを浮かべ「それじゃあ、早速話を聞かせてくれるかな」と言って、ボイスレコーダーやメモ帳、ノートPCを取り出した。……てか、こいつ不利だと解ったら強引にきたな。 まあいいけど。
――閑話休題。
俺は右手を顎に当て、考える仕草をする。
「……なら、SAO帰還者がどの病院に居るかも把握してるんですよね?」
「おっと、その情報は教えられないよ。 国が管理してる個人情報なんだから」
「教えちゃったら始末書を書かないといけないんだよ」と菊岡は言っていたが、俺の表情は真剣そのものだった。
「……菊岡さんの始末書で済むなら、教えて欲しい人の場所が知りたいんです」
「……そんなこと言われてもなぁ。 言っただろう、SAO帰還者の個人情報は国家レベルで管理してるんだよ」
「……そうですか、残念です。 この条件が飲めないのなら、俺は何も話しません。 SAO開始からゲーム終了までの経緯。 SAO内で茅場が何をしていたのかは、永遠に闇の中ですね」
……これって半分は脅しだよね……。 政府の役人に脅しとか、やりすぎたか……。 でもまあ、あいつらの情報が手に入るなら、手段は選ばない。
菊岡は眉を寄せ、意を決したようにスマートフォンで電話を掛ける。 完全に諦めが入ってるね、あれ。
「……桐ケ谷君。 それは何人だい?」
「三人です」
菊岡は「その子たちのプレイヤーネームと、本名は解るかな?」と言った。
「プレイヤーネームは、ユウキとラン。 本名は、紺野木綿季と紺野藍子。 二人は双子姉妹です。 もう一人はアスナ、本名は結城明日奈。 俺の幼馴染と親友です」
菊岡は頷き、通話口を耳に当て話し始めた。 菊岡の話によると、紺野木綿季と紺野藍子、結城明日奈は、埼玉県所沢市――その郊外に建つ最新鋭の総合病院に居るという事だ。 既にリハビリも終わり、日常生活が送れるまで回復してるらしい。
「今、その病院と電話が繋がっているんだけど、彼女たちと話すかい?」
俺は頷いた、とても有難い申し出だ。
菊岡は、俺にスマートフォンを手渡す。 彼女たちは、既にナースステーションの電話の通話口を耳にしてるらしい。 菊岡は、「電話が終わるまで失礼するね」と言って、退席した。
「……もしもし、桐ケ谷和人だけど」
『あー、本当だ! 和人と繋がってるよ!』
この無邪気な声を発したのは、――紺野木綿季だ。
「……和人君、生きててくれたんだ」「……本当に、心配をさせる人ですよ」という、聞き慣れた声もする。――結城明日奈と紺野藍子の声だ。……てか、時折、『お仕置き』って単語が聞こえるんだが……。
『和人は、リハビリ終わったの?』
「何とかな。 だからまあ、明日退院だ」
『ボクたちも、あと二日くらいで退院らしいよ』
「そうか。――明日会いに行くよ、木綿季たちに」
俺がそう言うと、木綿季は嬉しそうに笑った。
『うん! 待ってるね、和人。 明日奈が変わりたいらしいけど、いいかな?』
俺が了承し、木綿季が電話を替わると、おっとりした優しい声音が聞こえてくる。
『もしもし、和人君。 結城明日奈です』
「おう、久しぶりだな」
『……うん、あの決戦以来だね』
明日奈の声音が、若干暗くなる。
俺は苦笑し、
「暗くなるなって、俺は生きてるんだから」
『そ、そうだね。 明日会えるのを楽しみにしてるね。――最後に、藍子さんに変わるね』
再び電話が変わると、凛とした声が耳に響く。
『和人さん、お久しぶりです。 木綿季の姉、紺野藍子です』
「おう、久しぶり。 てか、明日奈もそうだけど、他人行儀すぎるぞ」
『す、すいません。 どうやって声をかけていいか思い浮かばなくて。 それにしても、どうやって私たちの場所を見つけたんですか?』
藍子の意見は尤もだ。 SAO帰還者の中から、彼女たちを見つけるのは雲を掴むと同じ事なのだから。
「あー、そのことか。 簡単に言えば、政府の役人を脅して、情報を聞き出した」
俺の言葉に、藍子は呆れていた。
また、今の言葉が聞こえたのか、明日奈と木綿季は息を呑む。
『……和人さんは、本当、無茶苦茶すぎます』
「いや、そこは神経が図太いって言ってくれよ」
藍子は溜息を吐き、
『じゃあ、それでいいです』
「おいこら、随分投げ槍になったな。 まあいいけど」
俺は一拍置き、
「木綿季にも言ったけど、明日、会いに行くよ。 んで、何階に行けばいいんだ?」
『最上階の105号室です。 ちなみに、この部屋は私たち専用らしいです』
「わかった。 明日の正午すぎに、その病室に行くよ」
『ええ、わかりました。木綿季と明日奈さんにも伝えときますね』
「おう、頼んだ」
これを最後に通話が終了し、俺が菊岡を呼ぶと病室内に入り、俺は正面に立った菊岡にスマートフォンを返す。
それからは、俺は菊岡に約束通りSAO内部での出来事を語っていった。
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翌日。
俺は病室の片づけを終わらせ、退院手続きを済ませた翠と共に、駐車場に向かっていた。 病院までは、翠が車を出してくれるらしい。
「それにしても、和人が今から会う子が全員女の子だとはねぇ」
「まあな。 でも、その中の二人は母さんも知ってるはずだぞ」
俺が紺野姉妹の事を話すと、目を丸くしていた。 まあ、子供の頃に別れ、SAOで再会できたのは奇跡に近いしなぁ。 んで、明日奈の事は、俺の唯一無二の親友だと伝えた。 SAOで俺の背中を支え続けてくれたとも。
俺は車の助手席に乗り込み、翠が運転席に乗り車のエンジンをかける。 そして、車は大切な思い出を共有した少女たちの元へ走って行く、俺の高まる鼓動と共に――。
埼玉の病院とか、ご都合主義満載ですね(笑)木綿季ちゃんたちは、皆一緒ですからね(`・ω・´)