ソードアート・オンライン~黒の剣士と絶剣~ リメイク版   作:舞翼

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今回は、キリト君たちのチートが発揮されます(笑)

では、投稿です。
本編をどうぞ。


第28話≪青眼の悪魔、輝く目≫

 運悪くMobの集団と遭遇してしまい、俺たちが最上階の回路に到着した時には、安全エリアを出てから既に三十分が経過していた。

 その間、《軍》のパーティーに追いつく事はなかった。

 

「ひょっとして、もうアイテムで帰っちまったんじゃねぇ?」

 

 おどけたようにクラインがそう言うが、俺たち四人は嫌な予感がしてならなかった。

 長い回廊を半ばまで進んだ時、不安が的中した事を知らせる声が回廊内を反響し耳に届く。

 

「あぁぁぁぁ……っ!」

 

 その声は悲鳴だった。 Mobではない、人の声だ。 俺たち四人は顔を見合わせると、敏捷力を最大に駈け出した。 《風林火山》を引き離してしまう形になってしまったが、この際は構っていられない。

 俺たちが風の如く疾駆していると、目の前にボスの大扉が出現した。 扉は左右に開き、内部は闇で燃え盛る青い炎の揺らめきが見て取れる。 そして、その奥で蠢く巨大な影。 断片的に届く金属音と、人の悲鳴。

 

「……ちょっかい出すなって言っただろうが、あのアホ!」

 

「……今はそれを言っても意味ないかも」

 

「……そうですね。 私、傲岸不遜(ごうがんふそん)は大嫌いです」

 

「……同感です。ランさん」

 

 俺たちは、そう言いながら加速度を上げる。

 扉の手前で急激な制動をかけ、ブーツの鋲から火花を撒き散らしながら、俺たちは入り口ギリギリで停止した。

 俺は、扉の手前に到着したと同時に叫ぶ。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

 叫びつつも半身を乗り入れる。

 部屋の内部は、――地獄絵図だった。

 床一面、格好状に青白い炎が噴き上げてる。 その中央で此方に背を向けて屹立する、グリームアイズだ。

 禍々しい山羊の頭部から燃えるような呼気を噴き出しながら、右手に携える巨剣を振り回している。 悪魔のHPは九割も残っている。

 そして、部屋の奥で必死に逃げ回っている、軍の部隊。 陣形がバラバラになっており、統制も何もあったものではない。

 咄嗟に人数を確認するが、二人足りない。 転移結晶で離脱してればいいのだが。

 そして、一人が巨剣に薙ぎ払われ、床に激しく転がった。 彼のHPは危険域(レッド)だ。 最悪な事に、軍と俺たちが居る場所は反対側で離脱も間々ならない。

 俺は倒れた彼に、大きく叫ぶ。

 

「何をしている! 早く転移結晶を使え!」

 

 だが彼は、此方に顔を向けると絶望の表情で叫び返してきた。

 

「だめだ……! けっ……結晶が使えない!」

 

 このボス部屋は《結晶無効化空間》ということだ。――つまり、全ての結晶アイテムは使用できない事を意味する。 その時、一人のプレイヤーが剣を高く掲げ怒号を上げた。――コーバッツだ。

 

「何を言うか……ッ! 我々解放軍に撤退の二文字は有り得ない! 戦え! 戦うんだ!」

 

「馬鹿野郎……!」

 

 俺は思わず叫んでいた。

 結晶無効化空間で二人居なくなっているという事は、消滅した(死んだ)ということだ。 あってはならない事態なのに、この男は何を言ってるのか、俺は憤りを覚える。

 そして、クラインたち六人も追い付いてきた。

 

「おい、どうなっているんだ!?」

 

 俺は手早く事態を伝える。 クラインの顔が歪む。

 

「な……、何とかできないのかよ……」

 

 俺たちが斬り込んで、退路を拓くことはできるかもしれない。 だが、この空間での戦闘は危険すぎる。 こちらに死者が出る可能性は捨てきれない。 あまりにも人数が少なすぎる。

 俺が逡巡している内、部隊を立て直したらしいコーバッツの声が響いた。

 

「全員……突撃……!」

 

 十人の内、二人は瀕死状態だ。

 残る八人を四人ずつの横列に並べ、その中央に立ったコーバッツが剣をかざして突進を始めた。

 

「やめろ……っ!」

 

 俺の叫びは届かない。

 余りに無謀な攻撃だった。 八人一斉に飛び掛かっても、剣技を繰り出す事ができず混乱するだけだ。 通常なら防御主体の態勢で、一人が少しずつダメージを与え、スイッチしていく戦法を取るべきなのだ。

 グリームアイズは仁王立ちになると、地響きを伴う雄叫びと共に、口から眩い噴気を撒き散らした。 あの息にもダメージ判定があるらしく、輝きに包まれた八人の突撃の勢いが緩む。

 そこに、巨剣が突き立てられ、一人がすくい上げられるように斬り飛ばされ、グリームアイズの頭上を越えて俺たちの眼前の床に激しく落下した。

 その人物は、――コーバッツだった。

 自分の身に起きたことが理解できないという表情で、口がゆっくりと動いた。――有り得ない、と。

 直後、コーバッツの体はポリゴンを四散させた。 余りにあっけない消滅だった。

 リーダーを失い、パーティーは瓦解し、喚き声を上げながら逃げ惑う軍のメンバー。

 既に全員のHPが半分を割り込んでいる。

 ――俺は覚悟を決めた。 だが、俺だけではどうしようもできないのは事実だ。

 

「……皆、死地につき合ってくれるか?」

 

「もちろんだよ」

 

「無茶を言う友人を持ったわね、私」

 

「私は慣れましたよ」

 

 俺たちはそう言ってから、放剣した。

 俺はクラインに声をかける。

 

「クライン、軍の連中を任せた。 俺たち四人で注意を引く」

 

「そ……それはいいが。 お前らで何とかなんか……?」

 

 クラインの声には、俺たちを気遣ってくれる声音も混じっている。

 

「まあ……何とかなるでしょ、出たとこ勝負で」

 

「そうそう、出たとこ勝負だよ」

 

「初めてですね。 このようなボス戦は」

 

「通常はこういうのはありませんからね、ランさん」

 

 俺たちは剣を構える。

 そして、俺がクラインに『頼んだぞ』と一言。

 

「行くぞ!」

 

「「「りょうかい!」」

 

 そう言ってから、俺たちは内部に向かって突入を開始した。

 内部に入り、アスナが放った一撃が、不意を突く形で背中に命中した。 グリームアイズは怒りの雄叫びを上げると、アスナに向けて斬馬刀を振り下ろしたが、俺の剣とグリームアイズの携える斬馬刀がぶつかり、僅かに軌道を逸らす。

 

「ユウキ! スイッチ!」

 

「OK!」

 

 ユウキは、片手剣ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》水平四連撃を放ち、次にランがスイッチし、ユウキを狙う斬馬刀の攻撃軌道を逸らす為剣を衝突させる。

 斬馬刀の振り降ろし攻撃は、ほぼ一撃必殺の威力を兼ね備えているのか、衝突した床に深い孔が穿たれている。

 アスナは、ランが作ったスペースに入り、細剣ソードスキル《スター・スプラッシュ》計八連撃を放つが、HPが減少する気配がない。

 俺たちは全神経を集中させ攻撃を繰り出していたが、時々掠める刃によってHPがジリジリと削られていく。

 視界の端では、《風林火山》が倒れた軍の連中たちを部屋の外に連れ出そうとしているが、中央で俺たちがグリームアイズと戦闘を行っているので、その動きは遅々として進まない。

 このままではじり貧だ。 元々、俺たちの装備とスキル構成は、壁仕様(タンク)ではないのだ。 そう、俺たち四人は攻撃特化仕様(ダメージディーラー)。 そして、最早離脱する余裕は無くなってしまった。

 残された選択肢は一つだけだ。 俺たちの全てを以て立ち向うしかない。

 

「あれを使う! ユウキ!」

 

「りょうかい!――アスナ、姉ちゃん!」

 

 アスナとランは頷き、俺とユウキは後方に下がる。 そして、アスナとランが注意を引きつけてる間に、俺は高鳴る鼓動を押さえ、右手を振りメニューウインドウを呼び出す。 左指を動かし、所有アイテムのリストをスクロールし、一つを選び出してオブジェクト化。 装備フィギュアの空白になっている部分にそのアイテムを設定。 スキルウインドウを開き、選択している武器スキルを変更。

 全ての操作が終了し、OKボタンにタッチしてウインドウを消すと、背に新たな重みが加わった。

 隣でスキル変更の操作をしていたユウキを見ると、黒紫剣が紫と赤が入り混じったような色をしている。 黒麟剣に変更を完了したという事だ。

 

「――いいぞ!」

 

 アスナとランが斬馬刀を弾き、無理やりブレイクポイントを作って後方に転がった。

 まずは俺が叫んでから、グリームアイズの正面に飛び込んだ。 硬直から回復した奴が斬馬刀を振り降ろすが、右手に携える剣で弾き返すと、間髪入れず左手で新たな剣(ダークリパルサー)の柄を握り、抜剣の一撃を銅に見舞う。

 初めてのクリーンヒットで、奴のHPが目に見えて減少する。

 

「グォォォォ!」

 

 憤怒の叫びを洩らしながら、グリームアイズは上段斬り下ろし攻撃を放ってきた。 俺は剣を交差し、受け止め押し返す。

 グリームアイズは態勢を崩し、そこに間髪入れず、俺は右手の剣で中段を斬り払う。 そして、左の剣を突き入れる。 右、左、右と剣を振るう。

 これが俺のユニークスキル。 二刀流上位剣技、《スターバースト・ストリーム》計十六連撃。

 

「うぉぉぉぉあああ!」

 

 途中攻撃の幾つかがグリームアイズの巨剣に阻まれるが、俺は絶叫しながら斬撃を奴に叩き込む。 時々、グリームアイズの攻撃が俺を捉えるが、俺は剣を振り続ける。

 そして、最後の十六撃目がグリームアイズの胸を薙ぎ払った。

 

「ゴァァァアアアアアア!」

 

 天を仰ぎ、仰け反ったグリームアイズが無防備を晒している。

 

「ユウキ! 今だ!」

 

「りょうかい!」

 

 大技で硬直した俺と変わるように、ユウキが俺の前に飛び込む。

 

「やぁぁぁああああ!」

 

 ユウキも絶叫しながら放った攻撃は、黒麟剣、最上位剣技《マザーズ・ロザリオ》計十一連撃。

 右肩、右腕、右脇、右腰、右脚、左脚、左腰、左脇、左腕、左肩、胴体中央の順で、円を描くように星のように交錯し、グリームアイズと捉える。

 グリームアイズは最後の一番強烈な十一撃目の突きを受け、後方に弾き飛ばされた。 そして、グリームアイズが悲鳴に似た雄叫びを上げる。

 俺とユウキは硬直で動けないが、――俺たちの攻撃はまだ続く。

 

「――アスナ!」

 

「――姉ちゃん!」

 

 ――後方から、回復を終えたランとアスナがスイッチし、ランが片手剣ソードスキル《エターナル・ブレイク》計九連撃を放ち、アスナは細剣ソードスキル《スター・メモリー》計九連撃を繰り出した。

 このソードスキルは、片手剣、細剣を極めた者に与えられるスキルだ。 そう、アスナは細剣を扱う頂点に、ランは片手剣を扱う頂点に立った。という事だ。

 

「「はぁぁぁああああ!」」

 

 絶叫したアスナとランの最後の攻撃が、グリームアイズの胴体中央に貫き、膨大な青い欠片となって爆散した。 部屋中に、青く輝く光の粒が降り注ぐ。

 また、俺たちはスキルの途中で攻撃を受けていたので、HPは危険域(レッド)まで落ちていた。

 

「……終わった……のか?」

 

「……た、たぶん……」

 

「……ええ、私たちの勝ちです……」

 

「……ボス戦は、暫くはやりたくないわ……」

 

 俺たちは刀身部分を鞘に戻してから、その場に崩れ落ちた。

 こうして、俺たち四人と青い悪魔の戦闘が終了したのだった――。




コーバッツは消滅してしまいましたね。
これで、キリト君の覚悟が決まったとも言えるんですけどね(>_<)
アスナさんとランさんもチートかも。剣技を極めし者。ですからね。

描写にはありませんでしたが、キリト君とユウキちゃんは、アスナとランが極めし者。ということは知ってますね。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!


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