ソードアート・オンライン~黒の剣士と絶剣~ リメイク版 作:舞翼
では、投稿です。
本編をどうぞ。
運悪くMobの集団と遭遇してしまい、俺たちが最上階の回路に到着した時には、安全エリアを出てから既に三十分が経過していた。
その間、《軍》のパーティーに追いつく事はなかった。
「ひょっとして、もうアイテムで帰っちまったんじゃねぇ?」
おどけたようにクラインがそう言うが、俺たち四人は嫌な予感がしてならなかった。
長い回廊を半ばまで進んだ時、不安が的中した事を知らせる声が回廊内を反響し耳に届く。
「あぁぁぁぁ……っ!」
その声は悲鳴だった。 Mobではない、人の声だ。 俺たち四人は顔を見合わせると、敏捷力を最大に駈け出した。 《風林火山》を引き離してしまう形になってしまったが、この際は構っていられない。
俺たちが風の如く疾駆していると、目の前にボスの大扉が出現した。 扉は左右に開き、内部は闇で燃え盛る青い炎の揺らめきが見て取れる。 そして、その奥で蠢く巨大な影。 断片的に届く金属音と、人の悲鳴。
「……ちょっかい出すなって言っただろうが、あのアホ!」
「……今はそれを言っても意味ないかも」
「……そうですね。 私、
「……同感です。ランさん」
俺たちは、そう言いながら加速度を上げる。
扉の手前で急激な制動をかけ、ブーツの鋲から火花を撒き散らしながら、俺たちは入り口ギリギリで停止した。
俺は、扉の手前に到着したと同時に叫ぶ。
「おい! 大丈夫か!?」
叫びつつも半身を乗り入れる。
部屋の内部は、――地獄絵図だった。
床一面、格好状に青白い炎が噴き上げてる。 その中央で此方に背を向けて屹立する、グリームアイズだ。
禍々しい山羊の頭部から燃えるような呼気を噴き出しながら、右手に携える巨剣を振り回している。 悪魔のHPは九割も残っている。
そして、部屋の奥で必死に逃げ回っている、軍の部隊。 陣形がバラバラになっており、統制も何もあったものではない。
咄嗟に人数を確認するが、二人足りない。 転移結晶で離脱してればいいのだが。
そして、一人が巨剣に薙ぎ払われ、床に激しく転がった。 彼のHPは
俺は倒れた彼に、大きく叫ぶ。
「何をしている! 早く転移結晶を使え!」
だが彼は、此方に顔を向けると絶望の表情で叫び返してきた。
「だめだ……! けっ……結晶が使えない!」
このボス部屋は《結晶無効化空間》ということだ。――つまり、全ての結晶アイテムは使用できない事を意味する。 その時、一人のプレイヤーが剣を高く掲げ怒号を上げた。――コーバッツだ。
「何を言うか……ッ! 我々解放軍に撤退の二文字は有り得ない! 戦え! 戦うんだ!」
「馬鹿野郎……!」
俺は思わず叫んでいた。
結晶無効化空間で二人居なくなっているという事は、
そして、クラインたち六人も追い付いてきた。
「おい、どうなっているんだ!?」
俺は手早く事態を伝える。 クラインの顔が歪む。
「な……、何とかできないのかよ……」
俺たちが斬り込んで、退路を拓くことはできるかもしれない。 だが、この空間での戦闘は危険すぎる。 こちらに死者が出る可能性は捨てきれない。 あまりにも人数が少なすぎる。
俺が逡巡している内、部隊を立て直したらしいコーバッツの声が響いた。
「全員……突撃……!」
十人の内、二人は瀕死状態だ。
残る八人を四人ずつの横列に並べ、その中央に立ったコーバッツが剣をかざして突進を始めた。
「やめろ……っ!」
俺の叫びは届かない。
余りに無謀な攻撃だった。 八人一斉に飛び掛かっても、剣技を繰り出す事ができず混乱するだけだ。 通常なら防御主体の態勢で、一人が少しずつダメージを与え、スイッチしていく戦法を取るべきなのだ。
グリームアイズは仁王立ちになると、地響きを伴う雄叫びと共に、口から眩い噴気を撒き散らした。 あの息にもダメージ判定があるらしく、輝きに包まれた八人の突撃の勢いが緩む。
そこに、巨剣が突き立てられ、一人がすくい上げられるように斬り飛ばされ、グリームアイズの頭上を越えて俺たちの眼前の床に激しく落下した。
その人物は、――コーバッツだった。
自分の身に起きたことが理解できないという表情で、口がゆっくりと動いた。――有り得ない、と。
直後、コーバッツの体はポリゴンを四散させた。 余りにあっけない消滅だった。
リーダーを失い、パーティーは瓦解し、喚き声を上げながら逃げ惑う軍のメンバー。
既に全員のHPが半分を割り込んでいる。
――俺は覚悟を決めた。 だが、俺だけではどうしようもできないのは事実だ。
「……皆、死地につき合ってくれるか?」
「もちろんだよ」
「無茶を言う友人を持ったわね、私」
「私は慣れましたよ」
俺たちはそう言ってから、放剣した。
俺はクラインに声をかける。
「クライン、軍の連中を任せた。 俺たち四人で注意を引く」
「そ……それはいいが。 お前らで何とかなんか……?」
クラインの声には、俺たちを気遣ってくれる声音も混じっている。
「まあ……何とかなるでしょ、出たとこ勝負で」
「そうそう、出たとこ勝負だよ」
「初めてですね。 このようなボス戦は」
「通常はこういうのはありませんからね、ランさん」
俺たちは剣を構える。
そして、俺がクラインに『頼んだぞ』と一言。
「行くぞ!」
「「「りょうかい!」」
そう言ってから、俺たちは内部に向かって突入を開始した。
内部に入り、アスナが放った一撃が、不意を突く形で背中に命中した。 グリームアイズは怒りの雄叫びを上げると、アスナに向けて斬馬刀を振り下ろしたが、俺の剣とグリームアイズの携える斬馬刀がぶつかり、僅かに軌道を逸らす。
「ユウキ! スイッチ!」
「OK!」
ユウキは、片手剣ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》水平四連撃を放ち、次にランがスイッチし、ユウキを狙う斬馬刀の攻撃軌道を逸らす為剣を衝突させる。
斬馬刀の振り降ろし攻撃は、ほぼ一撃必殺の威力を兼ね備えているのか、衝突した床に深い孔が穿たれている。
アスナは、ランが作ったスペースに入り、細剣ソードスキル《スター・スプラッシュ》計八連撃を放つが、HPが減少する気配がない。
俺たちは全神経を集中させ攻撃を繰り出していたが、時々掠める刃によってHPがジリジリと削られていく。
視界の端では、《風林火山》が倒れた軍の連中たちを部屋の外に連れ出そうとしているが、中央で俺たちがグリームアイズと戦闘を行っているので、その動きは遅々として進まない。
このままではじり貧だ。 元々、俺たちの装備とスキル構成は、
残された選択肢は一つだけだ。 俺たちの全てを以て立ち向うしかない。
「あれを使う! ユウキ!」
「りょうかい!――アスナ、姉ちゃん!」
アスナとランは頷き、俺とユウキは後方に下がる。 そして、アスナとランが注意を引きつけてる間に、俺は高鳴る鼓動を押さえ、右手を振りメニューウインドウを呼び出す。 左指を動かし、所有アイテムのリストをスクロールし、一つを選び出してオブジェクト化。 装備フィギュアの空白になっている部分にそのアイテムを設定。 スキルウインドウを開き、選択している武器スキルを変更。
全ての操作が終了し、OKボタンにタッチしてウインドウを消すと、背に新たな重みが加わった。
隣でスキル変更の操作をしていたユウキを見ると、黒紫剣が紫と赤が入り混じったような色をしている。 黒麟剣に変更を完了したという事だ。
「――いいぞ!」
アスナとランが斬馬刀を弾き、無理やりブレイクポイントを作って後方に転がった。
まずは俺が叫んでから、グリームアイズの正面に飛び込んだ。 硬直から回復した奴が斬馬刀を振り降ろすが、右手に携える剣で弾き返すと、間髪入れず左手で
初めてのクリーンヒットで、奴のHPが目に見えて減少する。
「グォォォォ!」
憤怒の叫びを洩らしながら、グリームアイズは上段斬り下ろし攻撃を放ってきた。 俺は剣を交差し、受け止め押し返す。
グリームアイズは態勢を崩し、そこに間髪入れず、俺は右手の剣で中段を斬り払う。 そして、左の剣を突き入れる。 右、左、右と剣を振るう。
これが俺のユニークスキル。 二刀流上位剣技、《スターバースト・ストリーム》計十六連撃。
「うぉぉぉぉあああ!」
途中攻撃の幾つかがグリームアイズの巨剣に阻まれるが、俺は絶叫しながら斬撃を奴に叩き込む。 時々、グリームアイズの攻撃が俺を捉えるが、俺は剣を振り続ける。
そして、最後の十六撃目がグリームアイズの胸を薙ぎ払った。
「ゴァァァアアアアアア!」
天を仰ぎ、仰け反ったグリームアイズが無防備を晒している。
「ユウキ! 今だ!」
「りょうかい!」
大技で硬直した俺と変わるように、ユウキが俺の前に飛び込む。
「やぁぁぁああああ!」
ユウキも絶叫しながら放った攻撃は、黒麟剣、最上位剣技《マザーズ・ロザリオ》計十一連撃。
右肩、右腕、右脇、右腰、右脚、左脚、左腰、左脇、左腕、左肩、胴体中央の順で、円を描くように星のように交錯し、グリームアイズと捉える。
グリームアイズは最後の一番強烈な十一撃目の突きを受け、後方に弾き飛ばされた。 そして、グリームアイズが悲鳴に似た雄叫びを上げる。
俺とユウキは硬直で動けないが、――俺たちの攻撃はまだ続く。
「――アスナ!」
「――姉ちゃん!」
――後方から、回復を終えたランとアスナがスイッチし、ランが片手剣ソードスキル《エターナル・ブレイク》計九連撃を放ち、アスナは細剣ソードスキル《スター・メモリー》計九連撃を繰り出した。
このソードスキルは、片手剣、細剣を極めた者に与えられるスキルだ。 そう、アスナは細剣を扱う頂点に、ランは片手剣を扱う頂点に立った。という事だ。
「「はぁぁぁああああ!」」
絶叫したアスナとランの最後の攻撃が、グリームアイズの胴体中央に貫き、膨大な青い欠片となって爆散した。 部屋中に、青く輝く光の粒が降り注ぐ。
また、俺たちはスキルの途中で攻撃を受けていたので、HPは
「……終わった……のか?」
「……た、たぶん……」
「……ええ、私たちの勝ちです……」
「……ボス戦は、暫くはやりたくないわ……」
俺たちは刀身部分を鞘に戻してから、その場に崩れ落ちた。
こうして、俺たち四人と青い悪魔の戦闘が終了したのだった――。
コーバッツは消滅してしまいましたね。
これで、キリト君の覚悟が決まったとも言えるんですけどね(>_<)
アスナさんとランさんもチートかも。剣技を極めし者。ですからね。
描写にはありませんでしたが、キリト君とユウキちゃんは、アスナとランが極めし者。ということは知ってますね。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!