ソードアート・オンライン~黒の剣士と絶剣~ リメイク版   作:舞翼

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れ、連投やでー。
つ、疲れた。深夜に書き上げたので、誤字多し……かも。
矛盾があったらゴメンナサイです(;^ω^)

では、投稿です。
本編をどうぞ。



第20話≪笑う棺桶≫

俺たちは、第19層《ラーベルグ》の転移門前に降り立った。

俺は目的地とは逆の方向へ続く脇道を通り、ある場所へ向かった。 アインクラッドには、所有アイテムとしての騎乗動物(マウント)は存在しないが、一部街や村には、NPCが経営する厩舎があり、其処で騎乗用の馬や、荷物を運ぶ牛を借りる事が出来る。 だが、乗りこなす為には高度なテクニックが要求され、貸出の料金も高い為、まず使用するプレイヤーはいないだろう。 まあ、俺は不真面目な攻略組生徒なので例外だが。

 

「ユウキ、乗れ。 練習の成果を見せてやる」

 

俺は厩舎の中にいる一頭の馬の背に乗り、片手を差し出す。

 

「も、もう。 またボクの知らない所で練習してたの? お金の無駄遣いだよ」

 

「い、今は急がないと」

 

ユウキは俺の差し出した手を握り、後方へ飛び乗る。

手綱を握ると馬は一鳴きし、門を飛び出し疾駆した。 腰に手を回したユウキから声が届く。

 

「キリト。 あとでお話しようね」

 

「お、おう。 わ、分かった」

 

おそらく俺は、金銭関係のお叱りを受けるだろう。……まああれだ。 自業自得だ。

ユウキは、フレンド追跡でヨルコさんの跡を辿る。

 

「キリト。 そのまま真っ直ぐ」

 

「おう!」

 

闇夜に溶けるように、漆黒の馬が疾駆する。

 

「ユウキ、アスナたちからは返信があったか?」

 

「う、うん。 さっき届いた。 『絶対に間に合わせる』だって」

 

流石、頼りになる副団長様たちだ。

その時、索敵にかかるプレイヤーを感知した。 カラー・カーソルは、オレンジが三つとグリーンが三つだ。

おそらく、グリーンの光点はヨルコたちで、レッドはグリムロックが依頼した殺人者たちだ。

俺たちの予想通り、ヨルコたちを殺害し、《指輪事件》を闇に葬り去ろうとしたのだ。

索敵が補正され、殺人者(レッド)の姿が露わになってくる。

 

「……選りにも選って、≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫かよ」

 

「……ボクも確認したよ。 あれは、≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫の幹部たちだよ」

 

殺人ギルド≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫。

アインクラッドでの消滅が、現実の死と直結するSAOにおいて、PKを行う快楽殺人集団。

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫が結成されたのは、SAOが開始されてから一年後。

それまでは、ソロ、あるいは少人数のプレイヤーを大人数で取り囲み、コルやアイテムを強奪するだけだった犯罪者プレイヤーの一部が、より過激な思想のもとに先鋭化した集団。

 

――その思想とは《デスゲームならば殺して当然》。

 

日本では許されない《合法的殺人》が、この世界でなら可能になる。

何故なら、あらゆるプレイヤーの体は、現実世界で完全ダイブ中である為、無意識状態であり、本人の意思では指一本動かせないからだ。

プレイヤーを殺すのは、ナーヴギアを設計、開発した《茅場晶彦》であり自分達では無い。

『ならば殺そう。 ゲームを愉しもう。 それは、全プレイヤーに与えられた権利なのだから』という劇毒じみたアジテーションによって、オレンジを誘惑、洗脳し、狂的なPKに走らせたのが≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫のリーダー《PoH》であった。

 

状況は最悪だった。 此方の人数は二人。 ≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫の人数は三人。

また、シュミットたちがあの場から動けない為、三人を人質に取った、ということにもなる。

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫を退かせるには、殺す覚悟で臨まなければならない。 果たして、其れが俺に出来るだろうか?

その時、ユウキの両手に、力が優しく込められた。

 

「大丈夫。 ボクが傍にいるから」

 

「……そうだな。 俺たちはいつも一緒だ」

 

俺は覚悟を決めた。

――殺すつもりで、あの場に飛び込む覚悟を。

おそらく、副団長様たちも、最悪を見越して覚悟を決めてくるだろう。 左手で手綱を握り右手でアイテムストレージを開くと、耐毒POT(ポーション)を実体化させ口に含んだ。

徐々に距離が縮み、頂上の丘に近づく。 ≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫たちの視線も、俺たちに向けられてる。 もう、後戻りは出来ない。

距離が縮まり、状況を把握する事が出来た。

麻痺状態で倒れるシュミット。顔を蒼白にして立ち尽くすヨルコとカインズ。 其れを威嚇する、頭陀袋(ずだぶくろ)を思わせる黒いマスクで顔を覆っている毒ナイフ使い《ジョニー・ブラック》。

その隣に、顔に髑髏マスクをつけ、赤く目を光らせる針剣(エストック)使い《赤目のザザ》。

そして、膝上までを包む、艶消しのポンチョ。 目深に伏せられたフード。

中華包丁のように四角く、血のように赤黒い刃を持つ、肉厚の大型ダガーを扱う人物。

――《PoH》。

馬がゆっくり減速し、やがて止まると、俺から順に馬から飛び下り地に着地する。

 

「シュミットさんよ。 タクシー代はDDAの経費にしてくれよな」

 

俺は握っていた手綱を引き、馬に尻を向けさせ、その尻を叩き、レンタルを解除した。

俺の隣に、相棒のユウキが立つ。

 

「よう、PoH。 まだその趣味悪い格好してんのか」

 

「……貴様に言われたくないな。 《鬼神》キリトよ」

 

PoHの声は、隠しきれない殺意が含まれていた。

だが俺は、この状況にも関わらず肩を落とした。

ユウキが、俺の肩を優しく叩きながら、

 

「まあまあ、ボクもそこに入ってるんだから、気にしない気にしない」

 

緊張感のない声で、ユウキが言う。

俺は頷き、

 

「お、おう。 そうだな」

 

直後、大きく一歩踏み出したジョニー・ブラックが、上擦った声で叫んだ。

 

「ンの野郎……! 余裕かましてんじゃねーぞ! 状況解ってんのか!」

 

毒ナイフを振り回し喚くジョニー・ブラックの肩を、PoHは、空いている方の手で叩いて窘めた。

 

「こいつの言う通りだぜ。 お前たちだけで、オレたち三人を相手にできると思っているのか?」

 

「ま、無理だな。 でも耐毒POT(ポーション)飲んでるし、回復結晶ありったけ持ってきたから、ユウキと合わせれば二十分は耐えられるよ。 それだけあれば、援軍が駆けつけるには充分だ」

 

直後、PoHは目を細め、ジョニー・ブラックと赤目のザザは不安そうに周囲を見渡した。

PoHは、ふっ、と笑い、

 

「嘘だな。 オレを騙すなら、もっと上手いブラフをかますんだったな」

 

俺は大きく溜息を吐いた。

 

「いやいや、耐毒POT(ポーション)は飲んでるし、援軍は呼んであるから」

 

「そうだね。 君たちがよく知ってる人だよ。 ボクたちと同格の存在って言っておくよ」

 

「が、二人だな。 其れまで俺たちが耐えれば、お前たちの負けだ。 ま、潔く牢獄に入るんだな」

 

PoHがフードの奥で、軽く舌打ちしたのが聞こえた。

おそらく、《二人》が誰なのか分かったのだろう。

 

「…………Suck」

 

短く罵り声を上げたPoHが、右足を引いた。

左手の指を鳴らすと、ジョニー・ブラックと赤目のザザが数メートル退く。

PoHは、≪友切包丁(メイト・チョッパー)≫を携えた手を上げ、真っ直ぐ俺たちを指し低く吐き捨てた。

 

「お前は、絶対に絶剣の嬢ちゃんの前で殺してやる……」

 

「できるならやってみろよ。 無理だと思うがな」

 

PoHは、ジョニー・ブラック、赤目のザザを連れ丘を下りて行く。

そのまま、闇の中に溶け込み姿を消した。

これを確認した俺は、安堵の息を吐く。

 

「つ、疲れた。 精神的に」

 

「ん、凄い緊張感だったからね」

 

その時だった。 一通のメッセージが届いたのだ。 差出人は、ランだ。

『現在、例の人物を連れて、アスナさんと共に向かっています。 数分で到着しますから』だそうだ。

俺は、倒れてるシュミットの所で歩み寄り、ポーチから解毒POT(ポーション)を取り出し、震えるシュミットの左手に手渡した。

 

「解毒POT(ポーション)だ」

 

「あ、ああ……すまない」

 

シュミットは、震える手で解毒POT(ポーション)を持ち、口に含んでいた。

それを見届けてから、視線を少し離れた二人に移す。

 

「また会えて嬉しいよ、ヨルコさん。……初めましてと言うべきかな、カインズさん」

 

カインズは苦笑した。

 

「全部終わったら、きちんとお詫びに伺うつもりだったんです……と言っても、信じてもらえないでしょうけれど」

 

「信じるかどうかは、奢ってもらうメシの味によるな。 言っとくけど、怪しいラーメンとか、謎のお好み焼きは無しだからな」

 

此れを聞いたユウキが、何かを思い出したような顔をした。

 

「そう言えば、キリトから何でも奢ってもらえる約束をしてたんだっけ。 あの時、ジャンケンで勝ったしね」

 

「あれ、そうだっけ? 身に覚えがないぞ」

 

ユウキを見ながら、俺はポーカーフェイスでしらを切って見た。

――だが、

 

「キリトが嘘をつく時、右眉が若干吊り上がる癖があるんだよ」

 

「え、まじで? そうなの?」

 

「冗談だけど」

 

「って、おい」

 

俺とユウキは、いつもの平常運転に戻っていた

てか、緊張感解きすぎじゃね。 俺たち。

俺は視線に気づき、ヨルコたちに顔を向ける。

 

「あ、すまない。 話の途中だったな」

 

「い、いえ。 お二人は仲が良いんですね」

 

「コイツとは、第一層からの付き合いだしな」

 

「そうだね。 もう、一年も経つんだね」

 

微笑みながら、ユウキは頷いてくれる。

……あれ、話が盛大に逸れてるような。

その時、鎧を鳴らして上体を起こしたシュミットが聞いてくる。

 

「キリト、ユウキさん。 助けてくれてた礼は言うが……。 なんで分かったんだ。 あの三人がここを襲ってくることが」

 

「分かったわけじゃない。 あり得ると推測したんだ。 相手がPoHだと最初から知ってたら、ビビって逃げたかもな。……カインズさん、ヨルコさん。 あんたたちは、あの二つの武器……短槍(ショートスピア)投げ短剣(スローイングダガー)を、どうやって入手したんだ?」

 

俺の質問に、カインズとヨルコが目を交わしてから、

 

「……《圏内PKを偽装する》という私たちの計画には、継続ダメージに特化した貫通属性武器がどうしても必要でした。 色々な武器屋さんを見て回ったんですけど、そんな特殊な武器を販売してる所は見当たらなくて……。 鍛冶屋さんにオーダーすれば、武器に銘が残ってしまいます。 その人に聞けば、オーダーしたのが、被害者である私たちであることが分かってしまいます」

 

「だから、僕たちやむなく、ギルド解散以来初めてあの人に……リーダーの旦那さんだったグリムロックさんに連絡を取ったんです。 僕たちの計画を説明して、必要な武器を作ってもらう為に。 居場所は分かりませんでしたが、フレンド登録は残っていたので……。 グリムロックさんは、最初は気が進まないようでした。 返ってきたメッセージには、もう彼女を安らかに眠らせてあげたいって書いてありました。 でも、僕らが一生懸命頼んだら、あの二つの武器を作ってくれたんです」

 

この台詞から、ヨルコとカインズは、グリムロックの事を、奥さんを殺された被害者だと信じている。

だが俺は、二人に衝撃を与えるであろう言葉を言う。

 

「……残念だけど、グリムロックが、あんたたちの計画に反対したのは、グリセルダさんの為じゃないよ。 《圏内PK》なんていう派手な事件を演出し、大勢の注目を集めれば、いずれ誰かが気付いてしまうと思ったんだ。 結婚によるストレージ共通化が、離婚でなく死別(・・)で解消されたとき……その中のアイテムがどうなるか」

 

「えっ…?」

 

意味が解らない、というようにヨルコたちが首を傾げた。

無理もない、アインクラッドではいくら仲が良くても、結婚まで行うプレイヤーはごく稀だ。

また、アインクラッドでの結婚はお互いを信頼し、信じ合わなければできないことだ。

この中で離婚する者たちはもっと少ないだろうし、その理由が死別となれば尚更だ。

俺たちもこの結論に至るまで、グリセルダさんが殺害された時、指輪は殺人者(レッド)の懐にドロップしたのだろうと信じて疑わなかったのだ。

 

「よく聞いてね。……グリセルダさんのストレージは、同時にグリムロックさんの物であったんだよ。 だから、グリセルダさんが殺害されても、指輪は奪えなかった。 グリセルダさんが亡くなった瞬間に、グリムロックさんの元に転送されちゃうから」

 

ユウキの言葉を、俺が引き継ぐ。

 

「シュミット……あんたは、計画の片棒を担いだ報酬を受け取ったんだろ?」

 

俺の質問に、シュミットは胡坐をかいたまま頷いた。

 

「そんな大金を用意する為には、指輪を今度こそ売却しなきゃならなかったはずだ。 それが出来るのは、指輪を手に入れたグリムロックだけだし、彼はまた、シュミットが計画の共犯者だと知っていた。 それはつまり……」

 

「グリムロックが……? あいつが、メモの差出人……そして、グリセルダを圏外に運び出して殺した実行犯だったのか……?」

 

ひび割れた声でシュミットが呻いた。

 

「いや、直接は手を汚していないだろう。 宿屋で寝てるグリセルダさんをポータルで圏外に運び出す時に、目を覚ましてしまうリスクがあるからな。 その時顔を見られたら取り繕えない。 おそらく、汚れ仕事は殺人者(レッド)に依頼したんだ」

 

シュミットは何も言おうとせず、ただ空を見上げていた。

それ様子は、ヨルコとカインズにも同様に見て取れた。 数秒後、ヨルコが小さく頭を振った。

 

「そんな……嘘です。 そんなことが! あの二人はいつも一緒でした……グリムロックさんは、いつだってリーダーの後ろでニコニコしてて……それに、そうです。 あの人が真犯人だって言うなら、何で私たちの計画に協力してくれたんですか!? あの人が武器を作ってくれなければ、私たちは何も出来ませんでした。 《指輪事件》も掘り返される事もなかったはずです。 違いますか?」

 

ユウキが口を開く。

 

「でも、ヨルコさん。 グリムロックさんに、計画を全て説明したんだよね?」

 

ヨルコは口を噤んでから、小さく頷いた。

 

「グリムロックさんは、計画が成功したら、最後にどうなるか知っていたんだ。 罪悪感に駆られたシュミットさんが、グリセルダさんのお墓で懺悔し、そこで死者に扮したヨルコさんとカインズさんが更に問い詰める所までね。 つまり、《指輪事件》に関わった三人を一斉に殺害して、《指輪事件》を永久に闇に葬ることが可能なんだ」

 

「……そうか。 だから……だから、あの三人が……」

 

虚ろな表情でシュミットが呟いた。

 

「その通りだ。 ≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫のトップスリーが突然現れたのは、グリムロックが情報を流したからだ。 この場所にDDAの幹部が、しかも、仲間なしで来てるってな。 おそらく、グリセルダさん殺害実行を依頼した時から、パイプがあったんだろうな……」

 

「…………そんな……」

 

膝から崩れ落ちそうになったヨルコを、カインズが右手で支えた。

その顔は、月明かりの下で蒼白になっていた。

カインズの肩に掴まったまま、ヨルコが呟く。

 

「グリムロックさんが……私たちを殺そうと……? でも……何で……? そもそも……何で結婚相手を殺してまで……指輪を奪わなきゃならなかったんですか……?」

 

「俺たちにも、動機までは推測できない。 でも、《指輪事件》の時、アリバイ確保の為にギルド拠点から出なかっただろう彼も、今回ばかりは見届けずにはいられなかった。 三人が殺害され、二つの事件が完全に葬られるのをね。 だから……詳しい事は、本人から聞こうか」

 

丁度その時、丘の斜面を登ってくる三つの足音が、俺の耳に届いたのだった――。




圏内事件難し(二回目)
キリト君とユウキちゃん平常運転やね(笑)
ともあれ、圏内事件も終わりが見えてきました。次回は、キリト君の想いを爆発できればいいかなーと思ってますね。

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