東方化物脳 ~100%の脳が幻想入り~ 不定期更新 作:薬売り
椿の香り I 『九相図』
零「懐かしいな」
青蛾「雰囲気が明るいわね……なにかあったのかしら?」
零「祭りはこの時期じゃあないしな」
蝦夷から出て、今は諏訪にいる。
本来、10年に1回は帰宅するのだが、何かと昨年は忙しくてアイツらに顔を合わせていなかった。
そして、久方ぶりに帰った第2の故郷は、異様に明るくて、一体何があったのか。
零「なあ、そこの」
適当に、老いが来ている商人に問うてみる。
商人「おお、神田様。お帰りなさいませ。どうなされた?」
零「妙に明るくてな。何だ?今年は豊作か?」
商人「いえいえ、そうではないのです」
はて、では何があってこう盛り上がっているのか。
零「では何故?」
商人「4代前の椿様が若くしてお亡くなりになられたでしょう?」
零「……あぁ」
『東風谷椿』、諏訪大社の巫女の4代前であり、僅か15歳で亡くなった少女。
死に方が残酷で、とても思い出したくはなかった。
零「椿が、どうした?」
商人「なんと、生き返ったのです!!」
零「ッ!?」
彼女は焼かれて灰になった。しかも、灰になったのだって、極僅か。骨しか残ってない様なものだ。
生き返ったにしろ、どうやって?
商人「まぁ、神社に行けば分かりますよ」
零「……分かった、ありがとう」
商人「いえいえ」
俺は振り返った。
顔を青くした仲間達。紫と藍は違うが。
零「おーい、ただいま」
戸を開けながら言う。
諏訪子「えええええ!?か、帰ってくるなら言ってよおおおッ!!」
零「毎回うるせぇ」
最早、恒例行事へと化した。
いつになったら彼女は慣れるのだろうか。正直めんどい。
神奈子「よう、久しぶり」
零「おう」
芳香「おーう」
ある程度挨拶らしい挨拶を済ませると、奥から犇々と誰かが来る。
いや、わかってはいる、先程聞いたから。しかし、果たしてどのようにしてこの世へ戻ったのかが、気になって仕方がない。
椿「あら、神田様。お帰りなさいませ」
零「あ、あぁ…」
冷や汗がたらりと頬を伝わり、とてもではないが、喜べない。
彼女は椿ではない。
しかし、彼女は椿である。
分からない。椿の反応があれば、違う反応も混ざっている。
違和感。一体どういうことなのか。
椿「まぁ、新しい旅のお供ですわね」
紫「初めまして、八雲紫です」
藍「同じく八雲藍です」
諏訪子「また女性……」
初めましてと笑顔を向ける椿。
やはり、おかしい。妙に彼女は落ち着いている。いきなりのお客なのに。
諏訪子ではないが、少なからず驚く筈だ。
椿「あら大変!!そう言えば、倉のお酒が少ないわ。すみません、少々お待ちください。唯今買いに行きますので」
青蛾「気を付けるのよ」
お気遣いありがとうございます。そう言って、彼女は出た。
そして、沈黙。
俺はその中で声を発した。
零「なぁ、椿って…」
諏訪子「死んだよ」
零「……そうだよな。じゃあ、彼女は?」
諏訪子「………」
分かるわけがない。
零「……本当に、倉に酒はないのか?」
諏訪子「え?……いや、たぶんあるはず」
では、何故彼女は買いに行ったのか。
彼女の言葉は、あまり信じてあげれない。
零「『視界ジャック』」
眼を閉じる。彼女は今、何を見ている?
『意外に早くいらっしゃったわ。どうしましょう?どう料理しましょう?』
野菜が並んでいる店を見ている。
……宴の料理に困っているのか?分からないが、そうなのだろう。
とすると、特におかしな所もない。
俺の早とちりか……?
零「ふぅ…」
諏訪子「その、どう?」
零「いや、料理がどうとかしか言ってなかった」
諏訪子「へ?」
拍子抜けた、と言うような声が出た。
だが、それを笑おうとは思わない。
神奈子「しかし、雰囲気が全く違う。とても椿とは…」
青蛾「確かに、椿はもっと明るい。目にも光がないし」
分からない。とても、理解出来ることではなかった。
紫「ねぇ、なんでそんな考え込んでるの?聖人が生き返るなんて、ない話じゃあないでしょ?」
紫が言いたいことはよく分かる。
が、無理なんだ、絶対に。何故なら……
零「彼女には『生き返る為の身体』がない」
紫「え?」
彼女の身体は、ほとんどが土としてある。
あんな残酷なことを、言っても良いだろうか?俺は悩むばかりである。