東方化物脳 ~100%の脳が幻想入り~ 不定期更新 作:薬売り
零「まずは誰からだ?それとも全員同時に掛かってくるか?」
勇儀「コケにしやがって…ッ!!」
萃香「私が行くよ」
勇儀「分かった」
一人の鬼が前に出てきた。伊吹萃香という鬼。人からは『酒呑童子』と恐れられている。
だが、そんなものどうでもいい。
鞍馬の侮辱を取り消させる。それしか考えていない。人間だって素晴らしいものだし、妖怪も素晴らしいもの。確かに、妖怪は人間に悪さをして、人間は自身を護るために妖怪を退治する。その繰り返しが続いているが、絶対に人間と妖怪が共に生存できる世界があるはずなのだ。できるはずなのだ。なのに、殆どの奴等は無意識に匙を投げている。「どうせ無理だ」と。
それが許せない。
萃香「いくよッ!!」
零「……」
先制は萃香。高速のスピードで拳を突き出す。
だが甘い。次の予測を余りしていない。それは考え方によっては良いことだが、普通はダメだ。
こっちが予想を簡単にできてしまうからだ。
次は右のアッパーだ。
萃香「ウォラッ!!」
やはりだ。
俺は彼女の手を掴み、一瞬で大きく捻る。
……おや?おかしい。普通は骨が折れる筈なのだが、折れた振動が伝わって来ない。
答えは、彼女の能力にあった。
萃香「怖いねぇ。私にこの能力がなかったら骨がバッキバキだったよ」
零「なるほど……」
彼女の腕の間接から手前が霧状になっていたのだ。
どんどんと、霧状になっていく。そして……
彼女の姿はなくなった。
部屋に霧が籠っている。
萃香「そういうことさ。あんたは私に攻撃できない」
霧は一ヶ所に集まって行き、萃香の形を型どってゆく。
萃香「なにせ霧状になるから」
零「………」
霧状になるか……
零「だから?」
萃香「え?」
零「だからどうしたっての」
萃香「え、いや、だから……」
口ごもる。
鬼ってもっと堂々としている印象があった。それとも、俺がおかしな事を言ったからだろうか?どちらにせよ、困った姿は普通に女の子に見える。角がなかったらな。
萃香「えぇい!!もうどうでもいい!!」
零「あ、諦めた」
萃香「ウヌォラァァァッ!!」
零「うッ!!」
馬鹿力だ。ガードしていても響く。
なら俺もッ!!
零「オゥヤァァァッ!!」
案の定、霧になった。
萃香「絶対に勝ってやる」
零「無理だよ」
萃香「え?」
深呼吸。それで、後ろに倒れる。
地面に着いた瞬間、消える。
見え方によっては、地面にめり込んでったようにも見える。
萃香「え!?」
勇儀「なにッ!?」
華扇「そ、そんな……!?」
鞍馬「なんじゃと!?」
文「んなッ!?」
牛若丸「………!?」
皆、同じ反応をしている。
それもそうだ。急に消えたのだから。
だが、実際は消えていない。逆に、目の前にいるのだ。
萃香「うッ!?何だッ!?勝手に霧が集まってくッ……何かに押し込まれてるッ!?」
零「俺だよ」
萃香「ッ!?」
零「あんたの能力、借りたぜ。俺の細胞を空気中に舞わせた」
霧が一ヶ所にどんどん集まっていく。どんどん形を作っていき、二人の男女の形になった。
萃香が零に押し倒されていた。
萃香「んぐッ!!……ハァ……動けない。これはもう、負けたね。完敗だよ」
零「よし。ほら、立てるか」
萃香「ん、立てる。ありがと」
零は萃香に手を伸べて、立てるかどうかの確認をした。
萃香は少し驚いたが、その手を借りて起き上がった。
零「次は誰だ?」
華扇「私です」
零「……」
茨木華扇。『茨木童子』と恐れられている……筈だが…なんか、こいつは鬼っぽく無い。
敬語で話してくる。いや、俺の単なる鬼への偏見だったのかもしれない。気を付けなければ。
……ン?そう言えば、包帯でグルグル腕を巻いている。怪我か?だとしたら、風邪の奴よりも休んだ方が良かったんじゃ……ま、いいか。
華扇「いきますッ!!」
零「おう。かかってこいや」
少し楽しくなってきた。
先制は、またしても相手。
華扇「ハァァァッ!!」
地面を蹴り、猛スピードで接近。
パンチを繰り出すだろう。そう思い、ガードをする準備をしたが……
華扇「フッ!!」
通り過ぎたッ!?どういうことだ?そう思い目を追わせようとするが……
零「居ない……」
居なかったのだ、どこにも。
まさか……そう思いつつ、殺気を感じた。
華扇「ハッ!!」
零「……やはりか」
後ろからの攻撃。直ぐ様避け、彼女が何をしたのか理解した。
零「瞬間移動か……」
華扇「ッ!?」
零「その様だな」
図星。そんな驚いた顔をしている。
当てたことに満足をしたが……
零「久しく血を流した」
頭から、少しだけ流れる血。
華扇「フッ!!」
零「またか……」
殺気。今度は横から。と思うとまた瞬間移動。
横から。前から。横から。横から。後ろから。横から。後ろから………
そういう作戦か。
来る……
前から来た。
華扇「ハァァァァッ!!」
零「『瞬間移動』ッ!!」
華扇「なッ!?消えたッ!?」
逆にやり返す。その瞬間移動の速さは末恐ろしく、零が二人、三人、四人と、残像が見えてくるのだ。
華扇にもこれは出来ない。
華扇「うッ!!」
一回殴りそのまま続ける。
二回、三回、四回………どんどん回数が増えていき、比例してスピードも増していく。
この光景だけを切り取ってみたら、同じ顔の集団が、一人の女性を殴っているように見える。
そして……
零「オラァァァッ!!」
華扇「……ッ!!」
腹に拳を入れる。
容赦はしない。もし、女性だからって腹に拳を当ててそれで終わりとすれば、彼女に失礼だし、女性だからと言う差別になる。俺は差別が嫌いだ。
華扇「……ウグッ!?」
零「………」
華扇「ま、負けました……」
驚いた。まさか喋れるとは。
少しは気絶すると思っていた。流石鬼だ。
零「よし。最後は……」
勇儀「………」
零「あんただな」
勇儀は仁王立ちでこちらを睨んでいた。
同時に殺気を放ち威嚇。随分と鬼らしい。
本気で、挑ませていただこう。そう思い、俺は汗を拭った。