東方化物脳 ~100%の脳が幻想入り~ 不定期更新   作:薬売り

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玉の緒の刀 IV 『必殺』

零「まずは誰からだ?それとも全員同時に掛かってくるか?」

勇儀「コケにしやがって…ッ!!」

萃香「私が行くよ」

勇儀「分かった」

 

一人の鬼が前に出てきた。伊吹萃香という鬼。人からは『酒呑童子』と恐れられている。

だが、そんなものどうでもいい。

鞍馬の侮辱を取り消させる。それしか考えていない。人間だって素晴らしいものだし、妖怪も素晴らしいもの。確かに、妖怪は人間に悪さをして、人間は自身を護るために妖怪を退治する。その繰り返しが続いているが、絶対に人間と妖怪が共に生存できる世界があるはずなのだ。できるはずなのだ。なのに、殆どの奴等は無意識に匙を投げている。「どうせ無理だ」と。

 

それが許せない。

 

萃香「いくよッ!!」

零「……」

 

先制は萃香。高速のスピードで拳を突き出す。

だが甘い。次の予測を余りしていない。それは考え方によっては良いことだが、普通はダメだ。

こっちが予想を簡単にできてしまうからだ。

次は右のアッパーだ。

 

萃香「ウォラッ!!」

 

やはりだ。

俺は彼女の手を掴み、一瞬で大きく捻る。

……おや?おかしい。普通は骨が折れる筈なのだが、折れた振動が伝わって来ない。

答えは、彼女の能力にあった。

 

萃香「怖いねぇ。私にこの能力がなかったら骨がバッキバキだったよ」

零「なるほど……」

 

彼女の腕の間接から手前が霧状になっていたのだ。

どんどんと、霧状になっていく。そして……

彼女の姿はなくなった。

 

部屋に霧が籠っている。

 

萃香「そういうことさ。あんたは私に攻撃できない」

 

霧は一ヶ所に集まって行き、萃香の形を型どってゆく。

 

萃香「なにせ霧状になるから」

零「………」

 

霧状になるか……

 

零「だから?」

萃香「え?」

零「だからどうしたっての」

萃香「え、いや、だから……」

 

口ごもる。

鬼ってもっと堂々としている印象があった。それとも、俺がおかしな事を言ったからだろうか?どちらにせよ、困った姿は普通に女の子に見える。角がなかったらな。

 

萃香「えぇい!!もうどうでもいい!!」

零「あ、諦めた」

萃香「ウヌォラァァァッ!!」

零「うッ!!」

 

馬鹿力だ。ガードしていても響く。

なら俺もッ!!

 

零「オゥヤァァァッ!!」

 

案の定、霧になった。

 

萃香「絶対に勝ってやる」

零「無理だよ」

萃香「え?」

 

深呼吸。それで、後ろに倒れる。

地面に着いた瞬間、消える。

見え方によっては、地面にめり込んでったようにも見える。

 

萃香「え!?」

勇儀「なにッ!?」

華扇「そ、そんな……!?」

鞍馬「なんじゃと!?」

文「んなッ!?」

牛若丸「………!?」

 

皆、同じ反応をしている。

それもそうだ。急に消えたのだから。

だが、実際は消えていない。逆に、目の前にいるのだ。

 

萃香「うッ!?何だッ!?勝手に霧が集まってくッ……何かに押し込まれてるッ!?」

零「俺だよ」

萃香「ッ!?」

零「あんたの能力、借りたぜ。俺の細胞を空気中に舞わせた」

 

霧が一ヶ所にどんどん集まっていく。どんどん形を作っていき、二人の男女の形になった。

萃香が零に押し倒されていた。

 

萃香「んぐッ!!……ハァ……動けない。これはもう、負けたね。完敗だよ」

零「よし。ほら、立てるか」

萃香「ん、立てる。ありがと」

 

零は萃香に手を伸べて、立てるかどうかの確認をした。

萃香は少し驚いたが、その手を借りて起き上がった。

 

零「次は誰だ?」

華扇「私です」

零「……」

 

茨木華扇。『茨木童子』と恐れられている……筈だが…なんか、こいつは鬼っぽく無い。

敬語で話してくる。いや、俺の単なる鬼への偏見だったのかもしれない。気を付けなければ。

……ン?そう言えば、包帯でグルグル腕を巻いている。怪我か?だとしたら、風邪の奴よりも休んだ方が良かったんじゃ……ま、いいか。

 

華扇「いきますッ!!」

零「おう。かかってこいや」

 

少し楽しくなってきた。

先制は、またしても相手。

 

華扇「ハァァァッ!!」

 

地面を蹴り、猛スピードで接近。

パンチを繰り出すだろう。そう思い、ガードをする準備をしたが……

 

華扇「フッ!!」

 

通り過ぎたッ!?どういうことだ?そう思い目を追わせようとするが……

 

零「居ない……」

 

居なかったのだ、どこにも。

まさか……そう思いつつ、殺気を感じた。

 

華扇「ハッ!!」

零「……やはりか」

 

後ろからの攻撃。直ぐ様避け、彼女が何をしたのか理解した。

 

零「瞬間移動か……」

華扇「ッ!?」

零「その様だな」

 

図星。そんな驚いた顔をしている。

当てたことに満足をしたが……

 

零「久しく血を流した」

 

頭から、少しだけ流れる血。

 

華扇「フッ!!」

零「またか……」

 

殺気。今度は横から。と思うとまた瞬間移動。

横から。前から。横から。横から。後ろから。横から。後ろから………

そういう作戦か。

 

来る……

 

前から来た。

 

華扇「ハァァァァッ!!」

零「『瞬間移動』ッ!!」

華扇「なッ!?消えたッ!?」

 

逆にやり返す。その瞬間移動の速さは末恐ろしく、零が二人、三人、四人と、残像が見えてくるのだ。

華扇にもこれは出来ない。

 

華扇「うッ!!」

 

一回殴りそのまま続ける。

二回、三回、四回………どんどん回数が増えていき、比例してスピードも増していく。

この光景だけを切り取ってみたら、同じ顔の集団が、一人の女性を殴っているように見える。

 

そして……

 

零「オラァァァッ!!」

華扇「……ッ!!」

 

腹に拳を入れる。

容赦はしない。もし、女性だからって腹に拳を当ててそれで終わりとすれば、彼女に失礼だし、女性だからと言う差別になる。俺は差別が嫌いだ。

 

華扇「……ウグッ!?」

零「………」

華扇「ま、負けました……」

 

驚いた。まさか喋れるとは。

少しは気絶すると思っていた。流石鬼だ。

 

零「よし。最後は……」

勇儀「………」

零「あんただな」

 

勇儀は仁王立ちでこちらを睨んでいた。

同時に殺気を放ち威嚇。随分と鬼らしい。

本気で、挑ませていただこう。そう思い、俺は汗を拭った。


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