東方化物脳 ~100%の脳が幻想入り~ 不定期更新   作:薬売り

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玉の緒の刀 II 『風神』

朝の稽古だろうか。山を駆け巡る、威勢の良い声達。

その中に、射命丸文は居た。

 

文「ハッ!!セイッ!!」

天狗「一本ッ!!」

 

文は、連勝。ここ数十年負け知らず。

 

文「フゥーッ…」

 

汗を拭い、水分を補給する。

この稽古は本来、大中天狗が行う稽古。

周りには大人ばかり。一人ポツンと立っている少女であるために、どこにいるか分かりやすい。

 

文「アッツゥゥイ……」

零「重心が少し左に片寄っているぞ」

文「あっそう。気を付けるわ」

 

・・・ン?

顔を見上げる。見えたのは、きれいな顔立ちをした旅人『神田零』が居た。

彼は、私の憧れである。

 

文「うわぁぁぁああああああッ!?

零「そんなに驚くか普通」

 

ケラケラと笑ってこちらを見ている!!

こちらに向けて笑っている!!

憧れの人がッ!!私にッ!!笑っているッ!?夢でも見ているんじゃあ…

 

零「とりあえず落ち着け」

文「わ、わわ、分かりましィたァァ!?」

零「分かってないじゃん。面白いなぁこの娘」

 

お母さんお父さん、生まれてこの方初めてこんなに喜びを味わいました。

あああ、手が震える…

 

文「あああ、あのォオ…アド、アドバイスを…の、続きを…」

零「そんなんでアドバイスなんか聴いてられないだろう?まずは目を瞑れ」

文「ひゃい!!」

零「………」

 

私は目を閉じた。

見えるのは闇。だがそれは、瞼の皮を貫通してきた光によって、少しだけ明るい。

 

零「良し、じゃあまず深呼吸だ。吸って……吐いて……吸って……吐いて……」

文「スゥーーッ…ハァーーァ…」

零「そうそう。何事も落ち着かなきゃ、良い判断はできないぜ」

文「はい…」

 

しょぼーんとしている。

憧れの人の前で見事なテンパりを見せたのから当たり前ですけど……

 

文「あの、重心が左に寄っているっていうのは…?」

零「うむ、癖なのかな?左に重心が寄っている所為で、左に回避することが多い」

文「なるほど…」

零「聞くけど、後ろから名前を呼ばれたらどっちから振り向く?」

文「……左かも、しれません」

零「やっぱり?」

 

それから、専門的な質問の連続。

 

零「片足で何回か跳んでみてくれ」

文「こうでしょうか?」

零「そうそう……ふむふむ。君、走るときは地面を蹴ることを意識した方がいい」

文「え?どうしてそんなことが分かるんですか?」

零「跳んだとき、地面に着けていない足を折って跳んでたよな」

文「そう言えば……そうですね」

零「そういう人は蹴るイメージを持つんだ。ついでに言うと、前に足が出る人は、足を上げるイメージを持つんだ」

文「ふむ…」

 

とか、

 

零「ちょいと椅子に座ってみ」

文「は、はい…」

零「ん、じゃあ、手を前に出してみ」

文「え、あ、はい」

零「人差し指、出して」

文「はい」

零「よし、俺は指を掴むから、それを頼りに立ってみて」

文「分かりました」

零「よし、じゃあまた座って」

 

など、色々自身の体の構造を知り…

 

次の対戦。

 

文「うわ、強い奴だ」

零「まぁ、頑張れ。さっきのやつだが、意識し過ぎると逆に動けないぞ。俺は審判でもしている」

文「はい!!」

 

威勢良く返事をし、進む。

 

天狗「おうおう、今日こそ叩き潰してやるぜッ!!」

文「かかってこいッ!!」

 

相手の先制攻撃。素早く力強いパンチを放つ相手。

それを紙一重で回避。回避した方向は、右だ。

腕を掴み、そのまま投げる。

 

天狗「うおっと、あぶねぇあぶねぇ」

 

天狗もなかなかやる。

投げられて、真っ逆さまになったが、勢いを利用して前方倒立前転をして一本を回避。

 

文「流石ね…」

天狗「だろう?さぁ、行くぜ!!」

 

天狗の右足の回し蹴り。それを後ろに回避。

だが、追撃で左足の蹴り。

 

文「フッ!!」

 

素早くしゃがんだ。それを予測していた天狗は、またも蹴りの勢いで姿勢を低くして文に蹴りを与えようとする。彼は蹴りが得意なのか?毎回毎回力を加えている。

文はしゃがんだ状態にも関わらずジャンプし、バク転。

 

天狗「なッ!?」

 

文は地面に足を着けた瞬間ッ!!思いっきり蹴ったッ!!

 

文「うおおおおおッ!!」

 

跳び箱のように天狗を飛び越えると同時に、胴体を持ち上げて地面に叩きつけたッ!!

その姿は周りの人や零、そして文自身が感動していた。

 

零「一本ッ!!」

皆「うおおおおおおッ!!」

文「え、えへへ……」

零「見事だったぞ、文。圧勝だ」

文「ありがとうございます!!」

 

なんとなく、文の頭に手を乗せ、撫でた。

 

文「んあッ!?」

零「ああ、すまん。つい」

文「あ、あやややややぁ…」

 

顔を真っ赤にして道場を出ていった。

よく考えるとセクハラだと気付き、自重することにした。


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