東方化物脳 ~100%の脳が幻想入り~ 不定期更新 作:薬売り
玉の緒の刀 l 『天狗』
小鳥の声が聞こえる。木々の声も聞こえる。
それに相反して遠くから聞こえる、さざめいた笑い声達。
人がいるのか?いや、ここは山奥。妖怪だろうか?
俺達は今、山にいる。旅には迷うことが多い。いや、『ナビゲーター』を使えばいい。そうかもしれんが、こう迷うと強き者共と出会うことが多い。
だから、声のする方へと進む。
美鈴「近くですね」
零「うむ、約一里と見たぞ」
後ろの青蛾は苦い顔をしているが、関係なしに進む。
休憩はない。あるのは、睡眠だけだ。
天狗「待て、そこの旅人」
零「何だ?」
天狗「ここは通してはやれん。引き返せ」
しかめっ面な烏天狗。さっき嫌なことでもあったのか?
それとも、元々の顔か?
零「もう、日も傾いてきている。泊まらせてはくれないだろうか」
天狗「……待っていろ」
その烏天狗は、指笛をならし烏を呼ぶ。
その烏になにかを呟いて、放した。飛んだ方向は声のする方。
天狗「確認をしている。暫し待っておれ」
青蛾「休憩!?足を休めて良いの!?」
零「あぁ、良いぞ」
青蛾「ヤッタァァァ!!」
手を上に広げ、最高の笑顔で叫ぶ。
不覚にも可愛いと思った。
時は経ち、先程の烏が戻ってきた。
その烏は手紙を口に加えていた。その手紙を天狗が読み、暫くすると俺たちの方を見た。
表情は相変わらずのしかめっ面。
天狗「入れ。許可を得た。この紙を持っていろ許可証の代わりだ」
零「礼を言う」
天狗「その代わり、鞍馬様に会いに行け。貴様に話があるらしい」
零「俺にか?その鞍馬って奴がか」
天狗「鞍馬様は、貴様らが来るのを予知していたらしい」
零「予知だと?」
何やら面白そうじゃあないか。
天狗も中々強い。美鈴の練習相手になるかもしれん。
零「ふむ、分かった。行こう」
そして、門は大きく開く。
天狗「鞍馬様、例の旅人が」
鞍馬「入れ」
襖が開く。すると見えたのは、妖力の豊富な天狗、幼くあどけない少女の烏天狗、殺気を放つ青年……こいつは人間か?
鞍馬「よう来たのう。ワシャ鞍馬と言う。まぁ、とりあえず座れ」
零「俺になにか用があるのか?」
鞍馬「……」
俺は立ったまま、彼に話しかける。
鞍馬「お主、神田零じゃろ?」
零「何故知っている?門番が言うに、予知をしていたそうだな」
鞍馬「カッカッカ、後に話す。ほれ座れや、失礼じゃろう?」
漸く座り、話を聞く。
鞍馬「気付いてはいるじゃろうが、この『牛若丸』は人間じゃ」
零「あぁ、知っている」
美鈴「え、そうなんですか!?」
鞍馬「カッカッカ、嬢ちゃん妖怪じゃろう?人間の区別はできんと、後先大変でぇ」
美鈴「いえ、彼の殺気が人間独特の気を掻き消しているので……」
そう、強い殺気。常人じゃあ、気絶するだろう。
美鈴「え、じゃあ彼女は…」
文「『射命丸文』。烏天狗です…」
鞍馬「コラ、もっと愛想よくせんか」
文「……」
零「……君、相当強いな」
文「ッ!!」
あ、笑った。
それに気付いたのか、顔を片手で隠す。
鞍馬「お主の言う通り、射命丸は中々強い。力じゃあ負けんが、速さはワシ以上じゃ」
零「フフ、顔が子の自慢をする親のようだ」
鞍馬「ン、すまぬ」
零「それで、本題に入ろう」
鞍馬「うむ、そうじゃな」
気になる点は幾つかある。
零「まず、俺は何故ここへ呼ばれたのか」
鞍馬「そうじゃな。お主には頼みたいことがある」
零「それはなんだ?」
鞍馬「ワシの…『ワシのフリ』をしてくれぬか!!」
零「……あんたの『フリ』?」
鞍馬「そうじゃ。ワシらの山は、見ての通り天狗が仕切っておる。じゃが、先日に大江山から手紙が届いてのう」
零「大江山?」
大江山。鬼の住まう山だ。
詰まり、鬼から天狗に手紙が届いたと言うことか。
鞍馬「その内容は、領土の引き渡しの交渉じゃった。二週間後に来るそうじゃ」
零「……」
鞍馬「ワシでも、鬼には勝てのじゃ。じゃがお主。お主は、神をも倒す旅人じゃろう?情けないのは分かっておるが、どうか聞いてはくれんか?」
零「いいぜ」
美鈴「即決ッ!?」
零「楽しそうだ。鬼となんて会ったことすらねぇ」
この、楽しみが込み上げてくる感じは好きだ。
さて、次の質問と移るか。とは言え、後この質問しか無いのだが。
零「どうやって、俺らがここへ来ると分かっていた?」
鞍馬「うむ……」
一番の気になる点だ。
『予知』……もし、能力ならそれで終わりだが、違うのなら…何故?
鞍馬「ワシは……その手紙を貰った日…夢を見た」
零「……?」
鞍馬「暗く、薄気味悪い場所にポツンと…老妖怪のワシが立っていた」
零「おい、なんの話だ?」
鞍馬「寿命かと思ったわい。じゃが、どこか違う。頭を整理している時に、いきなり記憶が入り込んできたのじゃ。否、お主の顔が、頭の中に出てきたのじゃ」
零「……」
鞍馬「………この顔は見たことがある。確か、生きる伝説と言われた男『神田零』じゃ。そう、理解した。じゃが不思議じゃった。何故、お主の顔が出てきたのか」
零「…暗く…薄気味悪い……?」
鞍馬「すると後ろから、女の声がしたんじゃ。『神田零は貴方を救いにやって来る』とな」
零「おい、それもしかしてッ!?」
いきなり、立った。
零「……その夢、目の前に大きな岩があったか?」
鞍馬「なんじゃとッ!?やはり、偶然ではなかったかッ!!ああ、有ったぞ」
零「なんてことだ……」
あの女は一体誰なんだ。
付きまとうな。去れ。そう言ってやりたいが、なにか……言えない。躊躇ってしまう。
鞍馬「……引き受けてくれたこと、感謝いたす」
零「…堅苦しい爺さんだ」
鞍馬「お主は気楽すぎるジジイじゃろうて」
二人は笑う。よく見ると、そこに盃があった。
今は、気分がいい。
鞍馬「呑もう、零よ。これは、仲間の印じゃ」
零「そうだな」
互いに互いの酒を酌み、腕を組み合いながら酒を飲む。
飲み干す。
鞍馬が小声で喋る。俺にしか届かない声。
鞍馬「あの射命丸。お前に憧れて、強くなった。んで、お主の前で照れておる。良くしてくれ」
零「分かった」
射命丸は未だに片手で顔を隠していた。